そもそも「自営業」とは?個人事業主との違い
結論からいえば、自営業と個人事業主に大きな違いはありません。どちらも開業の際に「個人事業の開廃業等届出書」を提出し、所得の区分についても同じ事業所得が適用されます。
消費税法では、事業者を個人事業者と法人に区別しています。よって運送業や税理士、デザイナーといった個人の活動に注力する場合は個人事業主、いずれ会社を設立して法人化をめざすのであれば自営業と、わけて考えることもできるでしょう。
なお個人事業主と法人は、税金をはじめとした維持費や、確定申告の方法も異なります。法人化すると経理面での事務作業が負担になることもあるため、法人化は税理士などの専門家と相談して検討することをおすすめします。
自営業者が納める税金と計算方法について解説
自営業者が支払う税金には、主に以下のものがあります。
- 所得税および復興特別所得税
- 消費税
- 住民税
- 個人事業税
それぞれについて、詳しく解説します。
所得税および復興特別所得税
所得税は個人の所得に対してかかる税金で、1年間(1月1日~12月31日)のすべての所得から、所得控除を差し引いた残りの金額に所定の税率をかけて算出します。

所得はその性質に応じて10種類にわかれますが、事業によって生じた所得は「事業所得」に分類されます。1年間の収入から個人の状況に応じて適用される「所得控除」と、収入を得るために要した「必要経費」を差し引くことで、事業所得を求められます。
なお2037年までは復興特別所得税として、基準所得税額に2.1%を乗じた金額を所得税とともに申告・納付する必要があります。
所得税の算出には、以下の速算表を用います。

たとえば課税される所得が400万円だった場合、上記の表をもとに以下のように計算します。
400万円 × 20%(税率)− 427,500円(控除額) =372,500円(所得税額)
消費税
以下のいずれかに該当する自営業者は消費税の課税事業者となり、消費税および地方消費税の確定申告が必要になります。
- ① 基準期間(前々年度)の課税売上高が1,000万円を超える場合
- ② 基準期間(前々年度)の課税売上高が1,000万円以下で「消費税課税選択届出書」を提出している場合
- ③ ①および②に該当しない場合で、特定期間(前年の1月1日~6月30日までの期間)における課税売上高が1,000万円を超える場合

上記に該当する場合は、原則として課税売上にかかる消費税額から課税仕入れにかかる消費税額を控除して、消費税の納付税額を計算します。
納付税額を計算する際は、標準税率の10%(消費税率7.8%、地方消費税率2.2%)または軽減税率の8%(消費税率6.24%、地方消費税率1.76%)を乗じた金額を納付する義務があります。上記に該当しない場合は免税事業者となるため、消費税の納付義務はありません。
住民税
住民税は市町村や都道府県に納める税金です。計算の流れは所得税と同じですが、自営業者は前年の所得金額に応じて課税される「所得割」と、定額で課税される「均等割」の2種類が徴収されます。
所得割は、都道府県民税4%と市区町村民税6%の計10%が課税されます。均等割は、都道府県民税1,500円と市区町村民税3,500円の計5,000円です。
2023年までは、均等割のうち1,000円(都道府県民税・市区町村民税にそれぞれ500円)が地方自治体の防災施策として加算されます。
個人事業税は事業所得が290万円以下であれば納付不要
個人事業税は法定業種ごとに税率が定められており、事業所得の課税所得金額が290万円以上の自営業者は個人事業税を納める必要があります。ただし、所得税または個人住民税の確定申告を行った人は、個別に申告する必要はありません。
主な法定業種と税率は以下のとおりです。法定業種の詳細は、地方自治体のWebサイトで確認してください。

法人化を検討するタイミングは売上1,000万円
法人化のタイミングは、売上1,000万円を基準に検討するとよいでしょう。課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者になるほか、所得税よりも法人税の方が低い税率が適用されるからです。

ただし、法人化するためには法人設立費用がかかるほか、法人税申告書の作成も必要になるため、税理士への依頼が必要になるでしょう。
法人化した場合に支払う主な4つの税金
法人化した場合に支払う税金には、主に以下のものがあります。
法人税
所得税は個人の所得に対して課税されますが、法人税は法人の所得に対して課税されます。適用される法人税率は、法人の種類や資本金額などによって異なります。
普通法人に適用される税率は、以下のとおりです。

法人住民税
法人住民税には「法人税割」と「均等割」があります。法人税割は法人税額に所定の税率を乗じた納税額を支払い、均等割は資本金などの額や従業員数に応じた定額を支払います。
均等割は以下の表を用いて計算します。都道府県民税は資本金の額に応じて5つに、市町村民税は資本金などの額・従業員数によって9つに区分されています。

法人税割の計算方法は以下のとおりです。
- 都道府県:法人税額 × 1.0%
- 市町村:法人税額 × 6.0%
法人事業税
法人事業税は、法人の業種に応じて複数の税割を都道府県に支払います。それぞれの税率は、地方自治体のWebサイトで確認してください。
地方法人税
2014年に、地方税の一部が地方法人税(国税)となりました。地方法人税の納税額は、法人税額に10.3%を乗じて計算します。
自営業の所得控除や経費はどうなる?
ここからは、自営業者が事業所得から差し引くことができる所得控除や経費について解説します。
所得控除は個人の状況に応じて決まる
所得税法には、所得控除制度があります。所得控除とは納税者の個人的事情を加味した控除のことで、所得の合計額からそれぞれ定められた控除額を差し引くことができます。
誰にでも適用される「基礎控除」や、親族を養っている場合に適用される「扶養控除」など、15種類の所得控除のなかから個人の状況に応じて適用されます。
事業所得から控除できる所得控除は、以下のとおりです。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除(一般)
- 障がい者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
自営業で経費にできるものは?
事業により生じた収入は事業所得に該当するため、業務を行うために要した費用は経費として所得から差し引くことができます。ただし、健康のために利用しているスポーツジムの会費や美容室のカット料金など、業務と直接関係のない支出は経費として認められない場合もあるため、注意が必要です。
自営業者が経費として計上できるものには、以下のようなものがあります。
- 給料賃金
- 外注工賃
- 減価償却費
- 地代家賃
- 荷造運賃
- 水道光熱費
- 旅費交通費
- 通信費
- 広告宣伝費
- 接待交際費
- 損害保険料
- 消耗品費
- 福利厚生費
- 専従者給与
- 雑費
確定申告はどうする?
所得税法では、1年間(1月1日〜12月31日)で生じた所得について翌年2月16日〜3月15日に確定申告を行い、所得税を納付することが定められています。
提出期限を過ぎてしまった場合は、ペナルティーとして「無申告加算税」や「延滞税」を納めることになります。
確定申告書の提出方法は、以下の方法のなかから選択できます。
- ① 自宅からインターネットを利用して提出できる「e-Tax」で申告する
- ② 郵便または信書便により、住所地などの所轄税務署へ送付する
- ③ 住所地などの所轄税務署の受付に提出する
e-Taxで確定申告を行う場合は、マイナンバーカードが必要です。確定申告書の作成方法は、国税庁のWebサイト「確定申告に関する手引き等」でご確認ください。
自営業におすすめの節税対策は?
自営業におすすめの節税対策は、以下のとおりです。
- 青色申告を選択する
- iDeCoに加入する
- 小規模企業共済に加入する
青色申告を選択する
自営業者が確定申告を行う場合は、青色申告を選択しましょう。青色申告とは確定申告を行う際に選択できる申告方式のことで、正規の簿記による記帳をもとにして正しい申告を行うことにより、多くのメリットを享受できます。
青色申告を選択する場合は「青色申告選択届出書」の提出が必要です。青色申告を選択しない場合は、自動的に白色申告となります。
青色申告を選択することにより最大65万円の所得控除が適用されるほか、配偶者や親族に支払う給与も必要経費として計上できます。これらは節税につながるため、自営業者は青色申告を選択するとよいでしょう。
青色申告を選択することによって得られるメリットは、以下のとおりです。
- 青色申告特別控除により最大65万円が控除される
- 配偶者や親族に支払った給与を経費に算入できるようになる
- 貸倒引当金(年末における貸金の5.5%以下の金額)による損失を経費にできる
- 純損失の繰り越しと繰り戻しが可能になる
iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入する
節税と老後資金の準備が同時に行えるiDeCoへの加入もおすすめです。iDeCo (個人型確定拠出年金)は、毎月支払う掛金を自身が選択した運用商品で運用し、私的年金を準備できる制度です。
毎月支払う掛金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)となるほか、年金として受取る場合は「公的年金控除」が、一時金として受取る場合は「退職所得控除」が適用されます。
自営業者は対策を行わないと老後資金が不足するケースが多いため、自助努力により老後資金を準備する必要があります。毎月の貯蓄だけで老後資金を準備するのは大変なので、iDeCoなどの公的制度を利用して準備を進めてはいかがでしょうか。
iDeCoのメリット・デメリットは以下のとおりです。

小規模企業共済に加入する
小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構が運営する退職金制度です。小規模企業の経営者や個人事業主を対象としており、退職・廃業などの要件を満たした場合に毎月の掛金と納付月数に応じた共済金(解約手当金)を受取れます。
掛金の全額所得控除による節税額は、以下のとおりです。

現在の予定利率は1%となっており、決して高い利率とはいえません。しかし、受取れる基本共済金は固定されているため、老後資金を安定した制度で準備したい人にはおすすめできます。「掛金の全額所得控除による節税額一覧表」と受取れる共済金の額を見て、小規模企業共済への加入を判断してもよいのではないでしょうか。
受取れる共済金の額は、以下のとおりです。

小規模企業共済のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

自営業は税金をごまかせる?
自営業者のなかには「確定申告が面倒だから」「税金を払いたくないから」といった理由で、確定申告を正しく行っていない人がいるようです。しかし、税金はごまかすことができないと思っていた方がよいでしょう。
税務署はあらゆる方法で情報を収集しており、取引先から提出される支払調書や個人が所有している資産を把握しているからです。
確定申告を行わなかった場合はペナルティーとして「無申告加算税」や「延滞税」が課されるほか、税金をごまかしていることが発覚した場合は「重加算税」として35〜40%が課される場合もあります。
これまで税務調査が入らなかったとしても今後入る可能性は十分あるため、正しく確定申告を行うことをおすすめします。
自営業は税理士に依頼すべき?
自営業者のなかには、税理士への依頼を検討している人もいるのではないでしょうか。しかし、売上が1,000万円を超えるまでは税理士へ依頼せず、自身で確定申告を行うことをおすすめします。
会計ソフトを利用すれば、日々の記帳や税金の計算は自身でも行えるからです。事業が軌道に乗るまではできるだけ経費を削減し、法人化のタイミングで税理士へ依頼するとよいでしょう。
税理士の顧問料は売上高や依頼する業務内容によって異なりますが、月2万円〜としているところが多いようです。
まとめ
本記事では、自営業者が支払う税金の種類やおすすめの節税対策について解説しました。自身で支払う税金の計算方法や確定申告の方法が事前にわかっていれば、確定申告に向けて準備を進めることができます。
日々の売上をスムーズに計算したいと考えている場合は、d払いの導入を検討するとよいでしょう。売上がデータで表示されるだけでなく、dポイントユーザーの集客も見込めるからです。キャッシュレス決済の導入を検討しているのであれば、この機会に導入してみてはいかがでしょうか。