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多様な社会だからこそ学び続ける
N高から始める未来の学校のありかた
【N高等学校副校長・上木原孝伸】

目次
  1. 自ら仕事を創り出せる人間になる
  2. N高との出会い
  3. 多様な社会では大人も学び続ける必要がある

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、学校法人角川ドワンゴ学園が運営する「N高等学校」の副校長・上木原孝伸さんをご紹介。

塾講師として17年間生徒と向き合い続けた後、2016年からN高の運営に取り組んでいます。前例のないIT×教育というチャレンジに挑んで3年余り、上木原さんが考えるこれからの教育の未来とは、お話を伺いました。

1自ら仕事を創り出せる人間になる

子どもの頃から整理整頓が苦手で、小学校の先生には「ちゃんとしなさい」と怒られてばかりでした。
雑な性格だったので字も汚かったのですが、小2の時に先生は平仮名の「て」だけ綺麗だねと褒めてくれたんです。
ちゃんと一人ひとりを見てくれている先生だなとうれしくなりましたね。
このことがきっかけで、子どもの良いところを見つけて伸ばせる先生になりたいと思いました。

大学で教職課程を取ったものの、見事に試験に落ちてしまいました。
教師になるチャンスを求め、アルバイト先の塾の社員になりました。
塾の講師としてまずは授業の腕を磨こうと考えました。

塾の講師としての実績を積んでいくうちに、授業以外の業務やマネジメントも任されるようになりました。
どれも楽しい仕事ばかりでしたが、信条はあくまで子どもたちと面談などで向き合いつつ良い授業をすること。
生徒と向き合う時間が足りず「今忙しいから」と言ってしまいそうになる自分を情けないと思うこともありました。

時を経て現場を離れて本社異動となりました。
企画や広報の部署で、社長の近くで働くことが多くなると、社長と自分の間には越えられない壁があることを痛感しました。
社長の考えを先回りして仕事をするようにしていたのですが、どうにも通用しないというか、圧倒的に差があるのを感じるんです。

ある日の会議で、社長から「上木原くんはちゃんとしているだけだなぁ」と言われました。
ちゃんとしていることをたしなめられたことに驚いたんですが、そのとき社長の言葉が妙に腑に落ちたんです。

子どもの頃は「ちゃんとしていない」と言われ続けてきたのに、いつの間にかちゃんとやるようになっていた。
でも、新しいものを生み出す仕事をする上では「ちゃんとするべきか、しないべきか」を考えて、選択しなければいけなかったんです。

同時に、もっと外の世界を知らなければいけないと思いました。
「企業寿命30年説」を唱える社長は、「塾がなくなったら、お前は何ができるのか」を問い続けていました。

これからの時代を生き抜くには、与えられた仕事をやり続けるだけでなく、自ら仕事を創り出せる人間にならなくてはいけない。このまま働き続けていても、50歳になった時には不要な人間になってしまう。
そんな直感から、社長にたしなめられた日の夜に転職を決意しました。

転職先は、IT業界と決めていました。
IT業界での経験はありませんでしたが、社会人になってから20年で最も進歩したのはIT業界で、次のステップに進むには必要な挑戦だと感じたからです。
教育にはこだわっていませんでした。

2N高との出会い

転職先を探す中、動画配信サービスで有名なIT企業が通信制高校の仕組みとインターネットを使って、未来の教育をつくるという話を耳にしました。
そのビジョンに共感し、39歳の時、生まれ育った大阪を初めて離れて上京しました。

新しい高校「N高等学校」では教育業界とのスピード感の違いに驚きました。
それまでは「朝令暮改」はあまり良い意味では使ってきませんでしたが、「考え抜いた結果であれば、判断を変えることは必ずしも悪いことではない」と言われ、なるほどと思いました。
転職から4カ月、2016年4月に無事開校を迎えました。

正直、現場で対面授業を行っていた頃は、教室の授業がネット上の動画で置き換わるなんてありえないと思っていました。
しかし、授業はネットでできることを痛感しました。
ネットの授業なら、圧倒的に質が高い授業を一番前の席で何回でも受けられるんです。
今後、ITの力で教育は大きく変わり、N高は未来の学校のモデルになると本気で思っています。
そこに関わることは、すごく面白いです。

技術が進めば、生徒一人ひとりのレベルに合わせた教材が自動で配信されるようになり、教師が「知識を教える」という仕事はなくなっていくでしょう。
そんな未来が訪れた時、教師の仕事は「生徒一人ひとりの人生の伴走者になること」だと思うんです。
「こうあるべき」像を教えるのではなく、一人ひとりが何をしたいのかどうなりたいのかを問い続ける。
それはまさに、寺子屋から始まり、江戸時代末期に吉田松陰が行っていた教育に戻ろうとしていると感じます。

N高は、生徒にとっての「自分の時間」、教師にとっての「生徒と向き合う時間」を取り戻せる場所だと思っています。
生徒は好きなことがあっても、突き詰める時間はあまり取れない。
通信制高校の制度を活用し、自分の好きなことを考えたり、実践したりする時間を作ってほしいです。

一方で、教師の仕事を、ITの力を使い、教師がやるべき仕事と、他の人や機械にやってもらう仕事を棲み分けて、生徒に「今忙しいから」と言わなくて済むようにしていきたいです。

また課題の一つであるコミュニティづくりにも取り組んでいます。
オフラインの関係が強くなると、オンライン上でのコミュニケーションもさらに活発になりますし、友達が出来ると、モチベーションの維持にもつながると考えています。
そこでオンラインだけでなく、オフラインの繋がり、生徒同士のコミュニティも強化していきます。
全国の都市でリアルのオリエンテーションを行い、生徒同士の対面のキッカケを作ったり、オンラインでしかやり取りのなかった生徒同士が会えるようなイベントを開催したりしたいと思っています。

3多様な社会では大人こそ学び続ける必要がある

開校から3年余りが経過し、N高はすでに1万2,000人以上の生徒が学んでいます。
生徒たちの話を聞いていくと、色々と話してくれてそのたびに着眼点の面白さに気づき、驚かされます。

これからの時代、誰かが決めた「ちゃんとしたこと」をできる人だけが、社会で活躍できるとは限らない。むしろ多様な人が、それぞれの強みを発揮する社会になると思うんです。

学校を、子どもたちがワクワクしながら、自分の良いところを見つけられる場所にする。
そのために「ちゃんとしないをちゃんとやる」のも時には大事だよと伝えていきたいです。

生徒と話していると、デジタルネイティブである生徒の方が技術も知識も優れているところもたくさんあり、教師の仕事が伴走者になった時に、自分自身をバージョンアップし続けなければならないと痛感しました。
多様化する社会に向けてまだまだ学びが足りません。

昨春、一期生が卒業していきました。
多様性を体現して卒業していった生徒たちが、大学や社会に飛び出し、さまざまな世界で活躍してくれている報告を聞きます。
その世界は自分も知らないことが多く、教えられることばかりです。

もしN高が今の教育制度の中に新しい多様性を提供できていたとしたら大変嬉しく思います。
一方でN高はまだ全然完成していません。
生徒たちが一人でも多く社会で多様性を発揮できるしくみを創っていきたいです。
そのために学び続けます。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年3月)のものです

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