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画力と同じくらい「読者目線」が大事。
漫画家になるには、安達智さんに聞いてみた
【漫画家・安達智】 <前編>

目次
  1. 漫画家としての仕事内容は?
  2. 漫画家を目指したきっかけは?
  3. 漫画家としてデビューする方法は?
  4. 漫画家の人は、どのような学歴や経歴の人が多い?
  5. 漫画家に向いている人の特徴は?画力は必要?

人はどのようにして人生の道を選択し、壁を乗り越え進むのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、紙・電子の累計部数30万部を突破した『あおのたつき』や、Twitterで人気の『丁寧な暮らしをする餓鬼』の漫画家である安達智さん(別名義・塵芥居士)をご紹介。

安達さんが漫画家になったきっかけ、漫画家に向いていると思う人の特徴とは。お話を伺いました。

1漫画家としての仕事内容は?

安達さんの仕事内容を教えてください。

現在、江戸の遊廓を舞台にした漫画『あおのたつき』の他、塵芥居士名義で餓鬼草紙タッチの『丁寧な暮らしをする餓鬼』を手がけています。

漫画制作においては、まず「プロット」と呼ばれるストーリーの概要を作成します。
その後、絵のコマ割りを決める「ネーム」を作成。
編集さんと「このコマはキャラの心情を見せるために1ページ足そう」「このコマは次のページに回して、読者を引きつけよう」など相談しながらネームを完成させます。

ネームが完成した後は、原稿作業。
『あおのたつき』の場合は、背景担当や3D担当、小物担当、時代考証担当、場面に合わせて文字をデザインする書き文字担当、仕上げ担当など、総勢7名のチームとなっており、私はそれぞれの担当者に指示を出すこととキャラクターを描くことが役割です。
最後に仕上げ担当にすべてを統合してもらい、原稿が完成します。

『あおのたつき』は隔週で連載しており、1話で約20ページ掲載されます。
ただ、完全に2週間ごとに1話を作成しているというよりは、同時進行でいくつかの話数を進めています。

おひとりではなく、チームで進めているのですね。

アシスタントの皆さんがいるから、世に出せています。
最後に仕上げをして統合したとき、きれいに描いてもらった背景や小物を見てとても嬉しくなります。
そんなときは「上手に描いてくれてありがとうございます」とお伝えするようにしています。
チームで仕事をするため、コミュニケーションは大事です。

『あおのたつき』では江戸の遊廓にまつわる人々の生き様や思いを描かれていますが、歴史や文化はどのように調べているのでしょうか。

絵と歴史、それぞれ勉強しています。
絵は浮世絵を見たり、国立図書館で黄表紙本を読んで着物の柄の参考にしています。
題材については、当時の人々の暮らしや言葉遣いを知るために歌舞伎の脚本を読んだりします。
ただ、花魁言葉は店によっても年代によっても異なるため、非常に難しいです。
アシスタントさんとも協力しながら調べています。
最近は日本史を研究されている方に時代考証をお願いしています。

2漫画家を目指したきっかけは?

漫画家というお仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。

子どもの頃から絵を描くのが好きでした。
元々内向的なタイプで友達も少なかったのですが、絵を描いているとまわりに人が集まってきて。
それが嬉しくてどんどん絵を描くようになりました。
そこで絵を描く職業として、漫画家を志すようになりました。
ただ、漫画家で食べていけるのは狭き門だと理解しており、大学生時代に担当の編集者さんがつかなかったら諦めようと決意。
結果的に叶わず、新卒でWebデザイナーの仕事をはじめました。

その後、結婚して3人の子どもが生まれました。
Webデザイナーの仕事も楽しいし、生活も安定して、充実していました。
ただ、Webデザイナーは、制作して納品すると自分の手を離れます。
「自分の作品」と胸を張って言えるものを作ってみたいと思い、もう一度漫画家の夢を目指し始めました。

3漫画家としてデビューする方法は?

安達さんはどうやって漫画家になったのでしょうか?

まずは同人作家として活動しました。
Webデザイナーの経験を活かして通販サイトを作ったり、Twitterを運用したりなど、さまざまな方面でアピールもしていました。
活動をはじめて半年くらいのとき、同人誌即売会に参加したところ、現在担当してくださっている編集さんから声をかけられました。
Twitterの投稿を見ていただいたようです。
そこで商業漫画家へのお誘いをいただき、『あおのたつき』の連載がスタートしました。

はじめて声かけられたとき、どんな心境でしたか?

「ファンです」と言われたのですが、「そんなわけないじゃん!」と思いました(笑)。
『あおのたつき』の元になった同人誌は全然売れていなかったし、信じられませんでしたね。

それから何度かお話ししていくうちに、粘り強く話を聞こうとしてくれる誠実さや私以上に物語に没入しようとしてくれる姿勢を感じて、それに応えるように信頼関係を築いていきました。

編集さんから声をかけられたからと言って必ず連載ができるわけでもなく、1年や2年、それ以上かかっても芽が出ない可能性のある世界だとも正直に伝えていただきました。
どうしようか悩んだ結果、まずは1年くらいがんばってみようと思い、現在に至ります。

他の漫画家さんはどのようにデビューするのでしょうか?

出版社などの漫画賞に応募する方、Twitterやpixivで声をかけられる方、同人誌即売会でスカウトされる方などさまざまです。
同人誌即売会では「出張編集部」が来ている場合もあり、そこで持ち込みをして縁がつながるケースもあります。

4漫画家の人は、どのような学歴や経歴の人が多い?

漫画家はどのような経歴の人が多いですか?

私のように社会人経験があって、30歳を超えてから本格的に漫画家を目指す人は珍しいかもしれません。
ずっとアシスタントとして下積みをしてきた漫画家さんが私のまわりでは多くいるように感じました。
幼いときから漫画家になることに命をかけているような人もたくさんいますね。
とはいえ、私のようにアシスタントの経験がない漫画家もいますし、必ずしもこの経験が必須というわけではありません。

漫画家の専門学校もありますが、そこで学んだ方も多いのでしょうか?

はい、たくさんいらっしゃいます。
しかし、専門学校を出ただけで必ず漫画家になれるわけではないので、そこから出版社へ持ち込みをしたり、漫画賞に応募したり、SNSなどを運用したり、何かしら行動して、努力された結果だと思います。

漫画家になるために、どのような勉強や練習をしますか?

他の漫画家さんの漫画を読むのは勉強になります。
それぞれの作家さんごとにコマ割りにも特徴があるので、研究しています。
映画もよく観ますね。
単に趣味として観るよりは、「どんな表現をしたいんだろう」「この面白さの秘訣はどこにあるんだろう」など考えながら観ています。

絵の練習もします。
私の場合、浮世絵を見ながら着物を描く練習をしたりします。
他の漫画家さんに聞くと、時間を取って定期的にヌードデッサンに通っている方もいますね。

5漫画家に向いている人の特徴は?画力は必要?

漫画家になるためには、やはり画力が大事でしょうか?

画力があるからデビューできたり、人気が出るわけではありません。
猛烈な画力の持ち主もいれば、絵ではなくストーリーで引き込むタイプの方もいます。
ガサガサとした雑とも言えるようなタッチが臨場感につながっている漫画もあります。
特に最近はさまざまなテイストの漫画が生まれており、必ずしも絵が上手い必要はないと思いますね。

安達さんが考える、漫画家に向いている人の特徴は何ですか?

自分が描きたいだけでなく、読者さんのことを考えられる力が必要だと思います。
趣味の同人誌ではなく、商業漫画として売る以上、仕事として責任を持って取り組むことを私は意識しました。
お金を払ってでも読みたいと思ってもらえるか、をしっかり考えられる人が向いていると思います。

一方で、興味や好きなことを描きたいという、楽しんで描く姿勢も同じくらい大事だと思います。
私は花街が好きだったから漫画にしていますし、他の漫画家さんを見ても自分の関心を漫画にしてヒットしている方がたくさんいます。
その情熱を表現することが、読者さんの共感にもつながるのだと思います。

<後編はこちら

※掲載している情報は、記事執筆時点(2022年8月)のものです

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