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きれいごとだけでは済まない介護の現場。
それでも「当たり前」を続けるために
【介護福祉士・しろねこ】 <後編>

目次
  1. 介護福祉士になってから一番苦労した経験は何ですか?また、それをどう乗り越えましたか?
  2. 反対に一番うれしかった瞬間や事例を教えてください
  3. 今後の展望やご自身の将来のビジョンなどを伺わせてください

人はどのようにして人生の道を選択し、壁を乗り越え進むのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、介護福祉士のしろねこさんをご紹介。

前回は、未経験で介護業界に入った経緯、適性について伺いました。後編となる今回は、しろねこさんがこれまでに経験した苦労や喜び、自身の未来に抱いているビジョンについてお話を伺いました。

1介護福祉士になってから一番苦労した経験は何ですか?また、それをどう乗り越えましたか?

しろねこさんが介護福祉士として働き始めてから、一番苦労した経験は何ですか?

約5年前に経験した、夜勤中の早朝に起きた転倒事故ですね。
利用者さんがベッドから転げてしまい、頭を打ってしまったんです。
頭部は血が多く出るので、あたりが血だらけになってしまって。

事故対応の方法は知っていたので、すぐに適切な対応をし、看護師さんを呼んで指示も仰ぎました。
そのときにできる最大限のことはしたつもりでした。

しかし、利用者さんのご家族から「何でちゃんと見てなかったんだ」とお叱りの言葉をいただいてしまいました。
「そうだよな」と納得する一方で、当時の夜勤は一人で30人ほどを見ていたため、状況的に一人の利用者さんをずっと見ているのは無理だという気持ちにもなりました。
でも、けがをした利用者さんのご家族にそんなことを言えるわけもなく、気持ちが追い詰められてしまいました。

責任の重さに耐えられなくなってしまったのでしょうか。

はい。
このときの利用者さんは、幸い命に別状はありませんでしたが、当たりどころが悪かったら亡くなっていた可能性もあるわけですから。

その状況からどう気持ちを立て直していったのですか?

周りの同僚たちが助けてくれました。
「大丈夫だからね」と何度も声をかけてくれ、少しずつ平静を取り戻せました。
あのときは本当にこの仕事を辞めようとまで思い詰めていたので、介護の仕事を今も続けられているのはまわりのおかげですね。

しかし、気持ちを立て直したところで、責任の重さが軽くなるわけではありません。
そして、やはり100%事故を防げる方法がないことにも変わりはない。
ですから、せめて自分の不備は絶対にないようにすると心を引き締め直しました。
決められた安全対策は徹底的に守り、厚生労働省が公開している、事故を未然に防ぐための事例集「ヒヤリ・ハット」も活用しています。

夜勤中はまわりの目が少ないですから、つい気を抜いてしまいがちですが、私は常に緊張感を持って夜勤に臨んでいます。

今は転倒同意書のようなものをご家族にお渡ししている施設も増えています。
万一のときのための同意書なのですが、同意してもらっているからといって事故が起きていいわけではありませんから、最善を尽くすことに変わりはないんですけどね。

前回、適性について「短気で感情が表に出てしまう人は向いていないかもしれない」とお話がありました。
しろねこさんも、感情コントロールの部分での苦労はありますか?

私はあまり短気な方ではないですが、それでもひどい暴言を吐かれるとムッとします。
長く勤めるなかで、そういう方の発言はスルーできるようになりました。
まともに受け止めていると心がもたなくなってしまいますから、右から左に受け流すスキルが必要です。

介護職を志す方はやさしい人が多いからこそ、スルースキルは自分を守るために身に付けておきたいものだと思っています。
利用者さんは自分とは違う人間なんだという割り切りは、決して悪いことではありません。
きれいごとだけでは済まない仕事なんです。

2反対に一番うれしかった瞬間や事例を教えてください

介護福祉士になって、一番うれしかった瞬間、事例について教えてください。

入居して間もない利用者さんに介助をしようとしたとき、「触るな」「嫌いだからあっちに行け」と言われことがあります。
そうした方に接し続け、信頼関係ができてきたと感じられる瞬間は何度経験してもうれしいです。

どれだけひどいことを言われても、プロとして割り切って平静に対応していると、「こいつ、そんなに悪いやつじゃないな」と利用者さんの気持ちが変化していくことがあるんです。

そうすると言動も変わっていって、夜勤の日に「今日はしろねこくんが夜勤なんだ、うれしいな」と言ってくれたりするようになる。
気難しく乱暴な物言いだった利用者さんほど、ギャップを感じてうれしさを覚えます。

3今後の展望やご自身の将来のビジョンなどを伺わせてください

前回、介護福祉士のキャリアとして「現場で働き続けたい」とお話しいただきました。
キャリアだけではなく、しろねこさんの人生のビジョンについても伺わせてください。

昔から、私には「本を出したい」という夢があります。
そのきっかけになればいいなと思い、Twitterやnoteなどで発信活動を始めました。
発信するからには自分の得意な領域がいいだろうと思い、発信内容を介護業界に絞ったところ、反響を得てフォロワー数が伸びていきました。

今では、「本を出したい」という気持ちだけではなく「介護業界の改善に少しでも繋がるような発信を」という想いもモチベーションになっています。
せっかく発信力を得たのだから、よい活かし方をしたいなと。

また、独立も考えています。
どこかに勤める以上、その施設の理念に従わないといけないと思っているので、自分のしたい介護を完全に実現するには独立かなと思っているのです。

実は人付き合いが得意な方ではないので、独立して自分の裁量権を広げることで、限られた仲間と働けるようになるかなとも思っています。

人と接するお仕事をされていて、「人付き合いが得意ではない」のは意外です。

高齢者の方が好きなので利用者さんと関わるのは楽しいのですが、さまざまな人と働くのはあまり得意ではないんです。

独立の夢が叶うといいですね。
しろねこさんが実現したい「やりたい介護」はどのような介護なのでしょうか。

当たり前のことを当たり前に提供できる介護ですね。
過去、ニュースで介護施設での虐待事件が取り上げられたことがありますが、個人的に、介護福祉士は、最初はみんなやさしい気持ちで介護業界に入ってきたはずだと信じています。

そうした初心が、忙しい現場で働く内に薄れてきてしまったり、流れ作業のような仕事をせざるを得ない環境で麻痺してきてしまったりするのかなと。
「したい介護ができない」と歯がゆい想いをしている介護福祉士は多いだろうと思います。

きれいごとかもしれませんが、私は最初に抱いていたやさしい気持ちを持ったまま働き続けられる事業所を立ち上げたいです。
そして、発信活動をすることで業界全体がよい方向に向かう手助けもできたらなと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2022年6月)のものです

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