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生き方の選択肢としての「ソロ活」を。
「好き」の世界を掘り下げていく
【ライター/コラムニスト・朝井麻由美】

目次
  1. 周りの同調圧力を感じ、自分の気持ちに蓋をする
  2. 「ソロ活」を通して自分自身を見つめ直す
  3. 自分の「好き」を掘り下げる姿を発信していく

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、ライター/コラムニストとして活動する朝井麻由美さんをご紹介。

「ソロ活」をテーマに幅広く活動されている朝井さんですが、その原点はなんだったのか、お話を伺いました。

1周りの同調圧力を感じ、自分の気持ちに蓋をする

私は幼いころから一人で遊ぶのが好きでした。
とくにゲームが好きで、小学生のころからずっと、授業が終わったらそそくさと家に帰って、一人でゲームをして遊んでいました。

当時は女性がゲームをするのは珍しかったので、学校では「女の子がゲームなんて」と否定的な雰囲気を感じていて。
周囲に同じ趣味を持つ女の子もいなかったので、隠して過ごしていました。
ゲームの話をすれば、「変な女の子」の扱いを受けてしまうと思っていたんです。
自分の気持ちに蓋をして、好きなものをあまり主張しないようにしていました。

高校が私服通学の学校で、周りにあわせてオシャレをしなければならなくなったのもつらかったです。
それまでゲームばかりしていて、ファッションのことなんてまったく考えもしなかったのに、友だちと話をあわせるためにファッション誌を読み、興味のないブランドの服を好きだとか言って……。
特に年齢的にもみんな繊細な時期なので、悪目立ちしないように、周りにあわせて服装を選んでいました。

高校まではずっと「女の子だからこうあるべき」とか「皆一緒であるべき」といった同調圧力を感じて息苦しかったです。
後ろ指を刺されるかもしれないと不安に感じて、自分らしさを出す自信がありませんでした。
自分を押し殺すようにして過ごしていました。

大学に進学し、3年生になって就職活動が始まりました。
将来やりたいことを考えたとき、唯一、文章を書くことが浮かんできました。
幼いころから作文が得意で、周りから褒められる機会も多かったからです。
大学生のときは、流行していた招待制のコミュニティSNSで書いていた日記で、いかに周りの友人を笑わせるかも楽しんでやっていました。
自分も楽しめるし、得意でもある。
両方を満たすのがそれだけだったので、志望する職種はわりとスッと決まりました。

ライターになりたいと考えましたが、大学卒業後すぐライターになるのは当時は難しく。
まずは就職して雑誌の編集部にコネを作り、多少経験を積んでからフリーでライターになるのが王道だったので、まずは出版社への入社を目指しました。

しかし企業に就職して会社員になれば、自分の意思よりも、会社で決められたルールを優先して守らなければなりません。
決められたことをやるのに苦手意識があり、正直、会社員として働く自分が全然想像できませんでした。
自分には会社員は向いていないだろうな……と思いつつも、いきなりライターにはなれないしなぁ、とモヤモヤしながら就職活動をしていました。

ひと通り就職活動を経験した後、女性誌を手がける出版社に入社。
いざ会社員生活が始まると、案の定、いろいろとうまくできませんでした。
例えば、出社時間がきっちり決まっていない場合が多い出版社でも、新人のころは10時半に必ず出社していないといけなかったんですが、一ヶ月の出社が23回あるうちの18回くらい「電車遅延」ってシステムに入力していました。
全然、遅延していないのに……。
先回りして上司に気を遣うのも、ぼんやりしていて全然できませんでした。

今なら、発達障がいの診断がついているのもあり、だからできなかったんだなと思えますが、当時はそれなりに落ち込みました。
それでも任された仕事はきちんとこなしていたんです。
それも、早く帰りたすぎて定時の17時半までに全力で集中して毎日全部終わらせてササッと帰っていました。
そうしたらある日、上司に呼び出されて「あなたは『可愛げ』がない。いつもさっさと帰っちゃって」って怒られて。

コミュニケーションを取るのが苦手だから、せめて仕事はきっちりこなして頑張っていたけれど、会社という集団の中では、それだけではダメなんだ、と思い知りました。
このあたりから自分の気持ちが、辞めるほうにかなり傾いてきたと思います。

加えて、私は文章を書きたかったので、そもそも出版社での編集業務には興味をもてずにいました。
当たり前ですが、編集者の仕事とライターの仕事って、まったく別物なんです。
会社員を続けるか辞めるか、いろいろな人に相談をするようになっていきました。

その中で、ある人から「結局私が何を言っても、辞めたいってことなんでしょう?答えはもう出ているじゃない」と言われてハッとしました。
確かに、誰に何を言われても、私は「でも、でも」と辞めたい気持ちばかり言っていたんです。
入社して5ヶ月後、出版社を辞め、フリーライターとして独立しました。
やってみたけど、会社員として働く能力がなかった、自分にはやっぱり向いていなかったと納得しているので、このとき思い切った選択をできてよかったです。

2「ソロ活」を通して自分自身を見つめ直す

ライターを始めて、ウェブメディアのインタビューや雑誌の情報コーナーなど、依頼されたものを書く仕事をしていました。
徐々に、自由度の高いウェブメディアで、ライターの私自らが体験したり、潜入したりして取材をし、記事を書くようになりました。
取材したい場所から記事の構成まで、自分の好きなように企画して記事をつくるのはとても楽しかったです。

「忍野 しのびの里」での忍者の体験取材

「忍野 しのびの里」での忍者の体験取材

体験取材の記事では、インターネット上に顔写真や実名を出していくようになりました。
そのうち、普及し始めたSNSを使って、記事の告知をしていこうと考えるようになったんですが、自分を表に出せば批判されるかもしれないという恐れから、最初はかなり抵抗がありました。
このころはまだ、臆せずに“自分を出す”ほどの自信はなくて。

それに、それまでは趣味を聞かれても、自分の気持ちに蓋をしていたせいで認識がぼんやりしていて、答えられませんでした。
好きだと思っていても、周りの人と比較して自分は突き詰められていない、趣味と言えるほどやっていない、とブレーキをかけてしまっていたんです。

ですがその苦しみを持ったままだと、仕事に支障が出てしまうと思うようになりました。
文章は嘘をつけません。
取り繕っていたら、その感じが全部文章に出ちゃうというか。
それに、人が自分の好きなことについて熱量たっぷりに書く文章って、読んでいて面白いんですよ。
自分がたとえそれをよく知らなくても、なんか楽しそうだな、と面白く読める。
だから、周りを気にして自分の気持ちを無理に抑えることをやめて、積極的に発信するようにしていきました。

好きなものは好き、と『それを好きな自分』を自分で認めると、霧が晴れたかのようにどんどん突き詰められるようにもなって、より好きなものへの研究を深めていけるようになりました。
同時に、自分の「好き」を言語化できるようになり、趣味だと言えるものが増えていきました。

ひとつの転機となったのは、「ソロ活」の連載を始めたことです。
これは本当にたまたまお声がけいただいたものでしたが、結果的にそれが自分の専門分野のようになっていきました。

フリーライターとして独立してからずっと、何かに特化しなければ、ライターとして仕事を続けるのは厳しい、といろいろな人に言われていました。
ライター業界では、美容ライターやファッションライターといった、専門分野をもってライターとして活躍している人が多かったんです。
しかし私は、何かの専門分野をもっているわけではなく、ただライターになりたくてなっただけ。

だからといって、基本的に行き当たりばったりな性格ですから、専門分野を持てるように戦略的に動く、とかは全然できなかったんです。
ただひたすら目の前の仕事をこなしていた中で、たまたまひとつ「ソロ活」という専門分野の武器を持てるようになったのはラッキーでした。

「ソロ活」とは一人の時間を楽しむ活動のことです。
連載をする前から一人で行動することは多かったんですが、改めていろいろな場所に一人で出かけて「ソロ活」をテーマに記事を書く中で、「一人」について深く考えるようになりました。
当時は、ひとりぼっちはみじめで寂しい、という世の中の風潮があり、そう書けば読者はおもしろがってくれるはずだと、最初はかなり自虐的に書いていました。

しかし、果たして自分は、一人でいるよりも皆で集まってワイワイするほうが好きなんだろうか。
これまでの学校生活や会社での出来事を思い出したり、「ソロ活」の捉え方を考察したりしながら執筆を進めていくうちに、自分は一人でいるほうが好きな人間なんだと自分の本心に気づくようになりました。

好きなことをしていて、それを一人でもやりたくて、結果として「ソロ活」になっている。
決して悪いことではなく自虐する必要はないし、私は一人でいるほうが楽しい、と堂々と言えばいい。
自信をもって「一人が好きだ」という気持ちで「ソロ活」関連の記事を書くようになりました。

3自分の「好き」を掘り下げる姿を発信していく

現在は、ライターの仕事を続けつつ、コラムニストの仕事も同時にやっています。
大きな仕事としては、「ソロ活」に関して執筆した書籍がテレビドラマ化されたり、居酒屋を紹介するテレビ番組の準レギュラーになったりなどでしょうか。
居酒屋番組もたまたまのお声がけでした。
もともとソロ活でよく食べ歩きや飲み歩きをしていたので、それがこういう形で活かされるんだなぁ、と自分でも驚いています。

先ほど、「人が自分の好きなことについて熱量たっぷりに書く文章って、読んでいて面白い」と言いましたが、実際に自分の仕事もそういう方向性のものがどんどん増えていきました。
あるRPGゲームが好きで、そのコラムを何度か書かせてもらえたり、公式のコミックを制作できたりしたのはとてもうれしかったです。
他にも、好きな食べ物のコラムを書かせてもらえたり、オススメの飲食店について書かせてもらえたり。
日々の生活で興味のあるものや楽しいと思うことを掘り下げていき、それが仕事に繋がっているイメージです。

「ソロ活」をテーマにしたテレビドラマでは、視聴者から「一人でもいいんだ」「勇気をもらった」といった感想をいただきました。
一人で行動することに緊張したり不安を抱いたり、一人で行動する選択肢がなかったりする人がいると思います。
そんな人たちに「一人でいるという選択肢があっていい」とメッセージを届けられたんだと感じました。

ソロ活として「一人バーベキュー」中

ソロ活として「一人バーベキュー」中

「ソロ活」はあくまでも選択肢の一つである、というのが私のスタンスです。
他人の生き方の否定だけは絶対にしたくないので、「ソロ活」がいいと押し付けるつもりは一切ありません。
私は自分の性格上、人間関係のちょっとしたことで気を揉んで疲れてしまうことがよくあるので、皆でワイワイするよりも一人でいるほうが心地よいだけです。
皆でワイワイするほうが元気が出る人もいると思います。

よく、ソロ活vsみんなでワイワイ、どっち派か、といった話の持っていき方をされがちですが、どちらか一つだけなわけがない。
一人でいるのか集団でいるのかのバランスは、人それぞれのグラデーションがあって、どちらが多めでどちらが少なめなのか、それも日によって変わるかもしれない。
私の場合はその配分が、一人でいる分量が多めなだけ。
みんながそれぞれ、自分の心地よい配分を見つけていく、ということなんだと思っています。

今後も自分の「好き」の世界を掘り下げていき、それがたまたま誰かの心に何かが響いて、生き方の選択肢があると知ってもらえればうれしいです。

今興味があるテーマは、食の世界です。
食べ歩きやお取り寄せ、全国の郷土料理など、さまざまな広がりがあってきりがなく、とても興味深いです。
興味が変わって、食とは別のテーマを掘り下げている可能性もありますが、「自分の興味のある分野を掘り下げ続ける」ということは一貫して変わりません。

せっかく生きているなら、人生を楽しみたい。
人生で、自分の機嫌を取れるのは自分しかいません。
これからも、本当に好きなものに触れたり囲まれたりして、好きなものを掘り下げ続け、楽しく生きていきたいと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2022年1月)のものです

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