シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

やりたいことなんてなくてもいい。
失敗を笑いあえる人と、日々を楽しむ
【ただのゲイ・カマたく】

目次
  1. やりたいことなんてなくていい
  2. 笑ってくれる人となら、失敗したっていい
  3. 「やってみない?」からやることを選んでいく

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、自身を「ただのゲイ」と称するカマたくさんをご紹介。

子どものころから、やりたいことが特になかったカマたくさん。ゲイバーの店員やTwitterでの発信も、自分がやりたくて始めたわけではないと言います。カマたくさんの活動が広がっていった経緯とは。お話を伺いました。

1やりたいことなんてなくていい

幼稚園生のころ、習いごと先で「女の子になりたい」と書きました。
それを見た先生が心配し、母親に報告したんです。
そのとき、母は「この子の人生だから、別に構いません。別に警察のお世話になるようなことじゃないですから、いいんじゃないですか」と言いました。
その姿が非常に印象に残りました。

母からは、「警察のお世話になるようなことはするな」「人に迷惑をかけるようなことはするんじゃないよ」「これをやったらどうなるか、五手先ぐらいまで読みなさい」と言われて育ちました。
そんな言葉の影響もあってか、「自分は自分」という意識が強くなりました。
周りから理解されなくても、「だから何?」と思え、思春期に入ってもセクシャリティについて悩んだりはしませんでした。

中学生になり、学級会で「私は男が好き」とカミングアウト。
自分は自分で、どう見られても関係ないと思っていたからこそ出た言葉でした。
いじめられることもありましたが、一度話をすれば仲良くなれる場合がほとんど。
「こいつはこいつだから」と認めてもらえていたと感じています。

周りが夢や目標を語るようになる中、やりたいことは特になく、そんな自分も自分だと認めていたので焦る気持ちはありませんでした。
将来の夢を書かされたときは「サラリーマンになりたくない」と書いていました。
何となく、自分には向いていないだろうという感覚があったんです。

高校卒業後は、アニメの専門学校へ。
積極的に「やりたい」と決めたわけではなく、鉛筆を転がして決めた進路でした。
絵は好きでしたが、やっぱり自分から「これがやりたい」ものはなかったんです。

高校生時代に友だちの誘いで始めたアルバイト先で、専門学校卒業後も働き続けました。
その後、正社員になり、店長になりました。
10年間働いたころ、ある程度自由に時間をつくれるような仕事に就きたいと思い、退職。
ただ、具体的に何かの仕事に就きたいと動いたりはせず、親戚に誘われた縁を機に建築業で働き始めました。

建築業で働き始めたころ、高校時代からの親友に音声でライブ配信ができるツイキャスの存在を聞きました。
彼女から「それだけ喋れるならやりなよ、もったいないよ」と言われ、「あなたが言うなら」とSNSアカウントに紐づけて配信を始めてみることにしました。

特に何かを話したいわけではなかったので、コメントに応えていくスタイルをとってみたところ、切り返し方をおもしろがってもらえ、徐々にリスナーが増加。
自分でやりたいと思って始めたわけではありませんが、やってみるとこぢんまりとした中でリスナーとのやり取りを楽しめた。
私をよく知る親友だからこそ、私にとっていい提案をしてくれたのかもしれません。

2笑ってくれる人となら、失敗したっていい

配信を開始して2〜3ヶ月経ったころ、リスナーから「Twitterアカウントの方が拡散しやすい」と言われ、アカウントをつくりました。
アカウント名は「おかまのたくやでいいでしょ」と、ノリで「カマたく」に決定。
話す内容は変わらずでしたが、オススメランキングに入り、リスナーが増えていきました。

建築業は2年半ほどで退職。
次は居酒屋で働いてみようと、なんとなく歌舞伎町で仕事を探し、働き始めました。
その後、飲食店を経営している知り合いに誘われ、彼の店で働き始めました。

飲食店で働きながら配信を続けていた中、Twitterで魅力的な動画を上げている女性を見つけ、そのおもしろさに惹かれてダイレクトメールを送りました。
会って話すと彼女から「カマたくも動画を作って投稿しなよ。あんたならすぐにバズると思うよ」と勧められました。

そこで、テロップを入れた動画を店の営業中に上げてみたところ、翌朝には6万リツイートまで激増し、Twitterのフォロワー数が前日から4万人も増えていたんです。
彼女が言った通りの展開になり驚きました。
それだけ見てもらえたなら継続してみようと動画を上げ続けることにしました。

フォロワーが激増し、勤めている店のお客さんも急増。
一回のバズで終わらず、フォロワー数はどんどん増加し、私自身に変わった自覚がなくても、それなりの影響力が生まれます。
近づいてくる人を見極める必要性を感じるようになりました。

しかし、一夜を境に一変した状況についていくのが、知らず知らずのうちにストレスとなっていたのかもしれません。
他にもプライベートでのことなど複数の事情が重なり、とうとうダウンしてしまいました。

精神的にも肉体的にもすぐれない中、話を聞いてくれた仲の良い芸能人の方から「カマたくは、これまで大体うまくいっていて、失敗の経験がないんじゃない?」と言われ、その言葉にハッとさせられました。
確かに私はこれまで大きな失敗をしてこなかった。
端から見ていて失敗だと思われるようなことも、私自身が失敗と捉えてきませんでした。

自分で勝手に何かをやるのであれば、その結果は私にとって失敗ではありません。
過去にブラック企業で時給300円を下回る経験もしましたが、それは失敗ではない。
そもそも失敗は「何かができる人」が起こすものであり、「私は何もできない」と思っていた自分には縁のないものだったのかもしれません。

私にとって「失敗とは何か」を考えたところ、思いついたのは「人さまに迷惑をかけること」。
その可能性のある挑戦を避けてきていて、だから今、目の前にある困難の乗り越え方がわからないのかもしれない。
その思いを話すと、彼は「いいんだよ、失敗して」と言いました。
「失敗したとき、笑ってくれる人とであれば失敗してもいいんじゃない?」と言われ、確かにそうだなと自分の中にその言葉がストンと落ちました。
「ああ、じゃあそのスタンスでいこう」と思えたんです。

そこからは、「この人からの申し出はうれしいけれど、迷惑をかけてしまうかもしれないからやめておこう」と決めつけず、もし失敗したとしても笑いあえると思える人とであればチャレンジしてみようと思うようになりました。

3「やってみない?」からやることを選んでいく

現在もゲイバーの店員として働きながら、Twitterで発信しています。

相変わらず、これがやりたいという思いは特になく、話を持ってきてくれる相手を見極めながら「失敗しても笑いあえる仲間か」を軸に仕事を選んでいます。
話をすれば、熱意や誠意は伝わってくるもの。
「やりませんか?」と言ってくれる人を見極めながら、なんらかの取り組みをしていこうと思っています。

そんな思いで新しく始めたのは、YouTubeチャンネルです。
前々からゲイの友人2名と「やってみたいね」と話していたものの実行できずにいたことを、行動に移しました。
成功する保証はなく、以前の私なら上手くいかなかった責任を負うのが嫌で積極的に「やろうやろう」とはならなかったと思います。
彼らや編集作業などをしてくれているメンバーたちと「失敗したら笑おうか」と話しながら、成功させるつもりで取り組んでいます。

私のファンだと言ってくれる方から声を掛けられ、キャラクターグッズの開発も始めました。

フォロワー数が増え、多少なりとも影響力がある立場になりました。
一緒に取り組む人たちには、この影響力をうまく利用してほしいです。
「利用」と言うとネガティブに捉えられる場合がありますが、魚を食べたい人が、漁師が釣ってきた魚を買うという世の仕組みも、いわば「利用」だと思うんです。
利用し合いながら、社会は回っている。
どうせなら、みんながハッピーになれる利用の仕方がいいと思います。
そんな風に利用し合えば、失敗しても「失敗しちゃったね」と笑えるのではないでしょうか。

そうした意味で言うと、私の影響力だけを目当てにやってくる人からの話は断ることが多いです。
その判断は私の直感。
だから、コロナ禍でオンラインやリモートの機会が増えましたが、私は直接会うことを大切にしています。
対面であれば、5秒で一緒にやろうと思える人かどうか判断できるんですよ。
私と本当に一緒にやりたいと思ってくれている人ならば、私の良さを理解していい仕事にしようと思ってくれる分、成功に繋がりやすいだろうとも思っています。

これまで、仕事を辞めたと話したら次の仕事を紹介してくれる人が現れるなど、縁に恵まれてきました。
今もやっぱり、これといって「これがやりたい」というものはありません。
これからも「こんなことしませんか?」と言ってきてくれる人を見極め、縁を大切に何らかの取り組みをしていくんだろうなと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2022年1月)のものです

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ
ご協力ありがとうございました
Related Stories

関連ストーリー

この記事を読んでいる人は、こんな記事も読んでいます
シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

マイマガジン

旬な情報をお届け!随時、新規ジャンル拡充中!