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変化への対応なくして生き残れない。
DXで日本の産業構造を変える
【株式会社INDUSTRIAL-X代表取締役・八子知礼】

目次
  1. 変化に対応できる個体が生き残る
  2. 生かされている自分に「あきらめる」選択肢はない
  3. デジタルとリアルが最適化された社会へ

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、DX支援を行う会社を創業した八子知礼さんをご紹介。

八子さんが日本のDX化に向けて奔走する理由とは。お話を伺いました。

1変化に対応できる個体が生き残る

僕の祖母から、物心ついたころより「何かの役に立たないといけないから、生かされているんや」と、口が酸っぱくなるほど教えられて。
特に疑問も持たず、「そうか、生かされているんだ」と子どもながらに納得していました。

小学生のとき、ある漫画を読んでいて、ナポレオンの名言「私の辞書に不可能の文字はない」に出会いました。
カッコいい!と興奮しました。
自分の辞書を見てみると、「不可能」の項目が。
僕の辞書にも不可能の文字はいらないと、「あきらめる」と「不可能」の欄をマジックで塗りつぶしました。
僕もカッコいい人間でありたかったんです。

パソコンいじりが好きだった影響で、大学は工学部に入り、大学院では人工生命を研究テーマに、実際の分子生物学に基づいた単細胞生物の5000世代生き残りシミュレーションを実装しました。
どんな特徴をもった種が、絶滅せずに長い時代に渡って生き残るのかをコンピュータ上で実験するものです。
移動距離の長短や餌をどれくらい食べるか、進行方向をどれくらい変えるのかなど、パラメータを変えて実験したところ、最終的に生き残ったのは、「餌の濃度に応じて、敏感に速度と進行方向を変える個体」でした。
すなわち、変化に対応できた個体だったんです。

ダーウィンが進化論で語る「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」の考えが、人工生命でも当てはまりました。
当たり前といえば当たり前ですが、変化に柔軟に対応することが生き残るうえで重要だと、強く実感しました。

この研究は、現代ではAIと呼ばれるような最先端の研究でした。
でも大学院生のときは、この学問が社会に実用化されて、社会の役に立てるようなものに発展するとは到底思えず、世の中の役に立つには、ビジネスの世界に出なければいけないと思いました。

そこで研究室から推薦をもらい、大手電機メーカーに入社しました。

当時携わっていたプロダクトは、つくればつくるほど赤字になってしまう商品でした。
もちろん、ソリューションで販売すると黒字になる仕組みです。
でも、どうせ開発するのなら、儲かる商品を作りたい。
そう考えて、誰に指示されたわけでもなく、週末ごとに商店街に出て、売れている競合商品は何かとマーケットリサーチをはじめました。
店舗で売れている商品の価格や特徴をまとめていくうちに気づいたのは、「顧客に喜んでもらえるものが受け入れられる」とのシンプルな事実でした。

そのうち、電機メーカーだからといってハードウェアばかりを売っていても、未来がないのではないかと感じるようになりました。
ハードウェアだけではなく、ソフトウェアや付随したサービスも提供しないといずれ顧客に求められなくなり、事業として成り立たなくなると考えたんです。

そんなときに、ある経営者の本と出会いました。
「機械を売るんじゃなくて、検査材料を売ることで機械をタダにしましょう」と書かれていて。
自分が抱いていた課題感への答えが記されていて、これだ!と感銘を受けました。
同時に、自分もこんなビジネスモデルを考えられる人材になりたいと思ったんです。

著者を調べると、「コンサルタント」という職業の方でした。
これこそが、自分が本当にやりたい仕事だと感じ、30歳でコンサルティング会社に転職しました。

2生かされている自分に「あきらめる」選択肢はない

コンサルティング会社に勤めているのは、優秀な人たちばかりです。
入社当初は、いつクビになるかわからない恐怖感と闘いながら、本を読み漁って勉強する毎日を過ごしました。
数ヶ月で、50~60冊は読みましたね。

半年ほどすると、徐々に成果が出始め、周りからも認められていきました。
優秀な先輩にもロジックで勝てるようになり、いつしか僕は、謙虚な気持ちを忘れ、自分が一番優秀だと天狗になっていました。

そんな中、とあるプロジェクトの最終報告段階で、お客さまの経営陣の方針や実情がまったく考えられていない、正論だけを振りかざした提案をしました。
それを見た上司や先輩からは、「これでは何の解決策にもならない」と怒られました。
最後には、「しばらくはアサインする機会を与えない。頭を冷やせ」と通告を受け、最終化作業に関与させて貰えませんでした。
その後プロジェクトの反省段階で役員に呼び出されて懇々と「自分だけが優秀だと思うなら一人で事業をやれ。うぬぼれるな」と理詰めで5時間ほどのお説教をいただきました。

天狗になっていた鼻を折られ、放心状態になりました。
帰り道、いろいろ考えました。
いったい何が悪かったのか。
なぜ自分は、ここまで言われないといけないのか。
なぜ、上司や先輩は、クビにせずにここまで言ってくれるのか。

考えた末、わかったのは、自分一人でなんでもできると考えて、チームを軽視してしまったこと、何よりもお客さまの本当の課題に目を向けられていなかったことでした。
そして、自分に期待してくれているからこそ、叱ってくれたんだと感じました。
翌日、心を入れ替えみんなの前で頭を下げました。
上司や先輩は、謝った僕を受け入れてくれました。

その後も、コンサルタントとして会社を数社変えて経験を積みました。
同じところに留まり続けて、成長が止まるのが怖かったからです。
自らも変化に対応し続けられる人材になりたいと考えていました。

しかし失敗や挫折で転職を余儀なくされた経験も何度かありました。
ある会社では、一人で抱え込みすぎて、体調を崩してしまい、志半ばで退職しました。
とはいえ、次のキャリアでは挽回して社会の役に立とうと自分に言い聞かせて仕事に邁進しました。

2008年、仕事の一環で、当時担当していたIT業界や通信業界の将来の予測を行いました。
その中で後々自分の重要な概念として定着する「他の業界でかつて起こっていたことが別の業界でも後に起こっている」という事実を、体系的に経験できました。

たとえば日本のハイテク家電領域では、テレビもパソコンも黎明期は一番になるものの、その後、他国に負けています。
この流れは将来も繰り返すだろうと予測できました。
事実、現在も電気自動車や自動運転がはじまる自動車業界で同様の傾向が起こり始めています。
自動車業界のそのトレンドを13年前に予測していたわけです。

そのとき、日本全体の生産性を上げていかねば、国が破綻してしまうと強く認識しました。
モノを作って売るといった、単一の事業モデルで生き残れるほど簡単な時代ではなくなっています。
労働人口が減少の一途をたどる日本では、産業構造自体を変えるくらいの大きな転換が必要だと考えるようになりました。

通信事業者の新規ビジネスを検討するプロジェクトで将来予測を進める中で、僕はあるトレンドを新たにコンセプトとして提唱するに至ります。
モバイルネットワークの向こう側のデータセンターにアプリケーションを置き、そこに企業の基幹システムや個人が利用するアプリケーションを置いて常時アクセスさせる仕組み「モバイルクラウド」が世界的なトレンドになることです。
モノとモノの境目をつなぐことが、世の中を変える新しいビジネスモデルになると思いました。

なぜなら、2007年に発売されたiPhoneは、Phoneという名前ではあったものの、当時は手に収まるコンピュータとして大いに注目を浴びました。
一方でiPodと同様、CDを買ってパソコン上でダウンロードしないと音楽を聞けませんでした。
これだとパソコンを買い替えるとデータがなくなってしまったり、データ移行に多大な時間がかかったり、楽曲が二重登録になったりして、僕自身、不便な思いをしていました。

この問題を解決するには、クラウドでバックアップを行い、クラウドから全てのアプリケーションを利用するようにすればいい。
そのうち、モバイルデバイスでクラウドを活用する「モバイルクラウド」が普及するはず。
でも僕が当時どれだけ強く言っても、周りの誰にも相手にされませんでした。
「そんな回線を浪費するようなこと、あるわけない」と言われました。

しかし、これまでのテクノロジーの進化を考えても、この方向性に向かうのは明らかでした。
声を上げているうちに、iCloudが生まれ、モバイルクラウドはあっという間に世の中に普及。
M2M、IoT、DXと、自分が当時構想したモバイルクラウドの考えが言葉を変えて、世の中にどんどん浸透していきました。

自分が予測した姿に、企業の形や産業の形が大きく変わっていく様子を見て、自分の未来予測が確信に変わっていきました。
同時に、現状に満足せずに、変化に柔軟に対応していく組織が成長すると確信しました。

その後、モバイルクラウドの第一人者としてメディアから寄稿依頼を受けるなど、メディアへの露出が増えて知名度も上がり始めました。

数年経って、所属チームにおいて前任者が辞めて難しい状態になった組織の部門長を継いだものの、組織運営で壁に突き当たりました。
自分の力でなんとかしようと多くを背負い込みすぎて、メンバーをうまくまとめられず、空中分解しかけの状態になったんです。
本厄だからと藁にもすがる思いで護摩を焚いて神頼みするも、当然うまくいきません。
結果的に責任者から降りることに。
悔しい気持ちもありつつも、いったん変化を受け入れました。

時間ができて、自分の将来をじっくり考えました。
会社を辞めたからと言って、自分が提唱したモバイルクラウドが必要とされる未来は変わりません。
そもそも、世の中の役に立つために生かされている自分の辞書に、「あきらめる」も「不可能」もありません。
元から5年から7年でステージを意図的に変えてきた自分にとって、その会社は7年目前でした。
幸い、自分を必要としてくれる会社があり、そのキャリアでのびのびとやらせてもらった方がよいと転職を決めました。

その後「Mr.IoT」と呼ばれるようになったり、パートナーエコシステムを活用したビジネス展開などを手掛けながら5年ほど経つ中で、デジタル技術を活用した企業変革の提案をいくら行っても、なかなか理解が進まない点や、個社の歩みが遅すぎる点に課題感を持つようになっていました。

企業変革を進める上で阻害要因となる全ての課題を取り除き、スピーディーに複数の会社を同時並行的に面で変革することで、日本の産業構造を次世代型に変える取り組みを自らリードしたいと考えるようになりました。
とはいえ、既存の組織の一員では、なかなかチャレンジできません。
そこで、48歳のとき株式会社INDUSTRIAL-Xを創業し独自のビジネスモデル、RaaS(Resource as a Service:経営資源の包括提供サービス)によるDX推進事業をはじめました。

起業してまず、これまで自分一人で背負い込みすぎて失敗した経験を踏まえ、「一人ではできない」ことを改めて再認識したいと創業一年目は、限界まで一人でチャレンジ。
順調に仕事が伸びる中で、予想通り一人では仕事がまったく回らないことを再確認し、翌年には仲間を集めはじめました。
組織になってチャレンジできることも増えましたし、他者の視点や自分以外の専門性をもつメンバーが加わって、ビジネスも盛り上がりを見せています。

3デジタルとリアルが最適化された社会へ

現在は、株式会社INDUSTRIAL-Xの代表取締役を務めています。
主に製造業や建設業界向けに、デジタルを活用した新しいビジネスの姿を啓蒙し、その方向へスピーディーに変わっていけるよう包括的な支援をし、自らもその企業の一部となって主体者として変革推進するのが仕事です。

クライアントの宿泊施設をお借りしての経営合宿(※撮影のためマスクを外しています)

クライアントの宿泊施設をお借りしての経営合宿(※撮影のためマスクを外しています)

大事にしているのは、困っている人の課題に寄り添うこと、そのまま課題を放置していればどうなるかを常に予測することです。
その予測をもとに「あなたの会社はどうなりたいですか?」とDXのXの部分を、深く追求しています。

とはいえ、どんな姿に変わっていきたいかをすぐに答えられる会社はほとんどありません。
INDUSTRIAL-Xでは、未来から逆算して、「あなたの会社はこんな姿になっていなければ生き残っていけない」と具体的に提示し、スピーディーな課題解決を進めています。

僕が目指している社会は、需要と供給が最適化され、デジタルとリアルが最適化された社会です。
今はモノを作りすぎて、たくさんのモノを捨てています。
富める人々がいる一方で、貧しい人々もいます。
全ての問題点や課題はモノゴトの境目でしか起こっていません。
ですから世の中の凸凹やモノゴトの境目で発生する課題をIoTで可視化して、デジタル技術で埋めることで、社会に貢献したいと考えています。

今後の展開としては、社内と社外の境目をなくしていきたいと考えています。
会社を大きくするだけでなく、社外の方々とともに産業構造を変える仮想的な集団を形成するのです。
そうすれば、自社だけで変革をリードできる限界を超えたスピーディーなトランスフォーメンションの実現に繋がるだろうと考えています。

人材の流動化も進めたいです。
一人の人間が、いろいろな職業を経験し、いろいろな会社で働く。
労働人口が減っている日本において、生産性を上げるのに必要不可欠な取り組みだと思っています。
そんな仕組みを実現したいですね。

会社の枠にとらわれず、社会全体を変えていくビジネスをリードすることで、生かされている自分の使命を果たしていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2022年1月)のものです

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