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認知行動療法との出会いで不安が解消。
一人ひとりが力を発揮できる社会へ
【マイコーピング株式会社代表取締役社長・徳政憲和】

目次
  1. 認知行動療法との出会いで自分を俯瞰できるように
  2. 自分と同じ苦しみを抱える人たちを救いたい
  3. だれもが本当にやりたい選択ができる社会へ

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、外資系企業を経て、心の問題を解決する認知行動療法のオンラインカウンセリングを提供する徳政憲和さんをご紹介。

浪人時代から不安に苦しめられていた人生が、認知行動療法との出会いで好転したといいます。徳政さんが今抱いている人生の使命とは。お話を伺いました。

1認知行動療法との出会いで自分を俯瞰できるように

私は高校卒業後、大学受験のために浪人しました。
夏休みが過ぎたころ、ある日突然、積み重なったプレッシャーから、強い不安に襲われました。
子どものころから考えすぎる性格ではあったものの、生活に支障をきたすほどではありませんでした。
しかしその日以来、24時間不安でいっぱいな状態になってしまい、勉強にも身が入らず、志望校も不合格。
唯一合格できた大学に入学しました。情けない気持ちでいっぱいでしたね。

大学進学後も相変わらずでした。
勉強を頑張りたい気持ちがあるのに、集中できません。
留学もせっかく頑張って勝ち取ったのに、英語でのコミュニケーションがうまくいかず、現地で引きこもりがちになってしまい、就活も将来への不安に翻弄されてばかりでうまくいきませんでした。
継続して努力できるような理想の自分を目指すも、空回りしてばかり。
ダメな自分がどんどんコンプレックスとなっていきました。

新卒では製造業に入社し、新規事業の海外営業として配属されました。
働き始めても不安の問題は大きく、海外出張で大きな商談が控えていると、出張前から不安と緊張で仕事が手につかなくなることも頻繁にありました。
一方で、表向きのコミュニケーションはなんとかうまくこなせていたからか、上司や同僚は、私が心の中でそれほど苦しんでいたとは気づいていなかったと思います。
なかなか相談もできず、一人で不安に苦しむ日々でした。

30歳の時にいろいろなストレスが重なって、会社を休職しました。
この休職によって会社に今後居づらくなるかもしれないと考えてしまった私は、新しい機会を求めて転職活動を開始し、外資系のコンサルティングファームに転職を決めました。

一念発起したものの、さらなるプレッシャーがかかる環境に置かれ、精神的にも安定せず、失敗ばかり。
上司からは何度も叱られ、リストラをほのめかされることもありました。

不幸中の幸いで、社内の管理部門に異動できました。
ちょっとだけ仕事にも余裕ができたので、これからの人生を考えました。
自分も30代。
この先の長い人生、今のような激しい不安を抱えたまま生きていくのはつらい。
ふと、精神科の先生から「薬だけでなく、認知行動療法なんかのカウンセリングも大事なんだけどね」と言われたのを思い出しました。
効果があるのならばと、わらにもすがる気持ちで認知行動療法を受ける決意をしました。

認知行動療法の考え方では、状況に対する反応を「認知」「感情」「行動」「身体」の4つに分けています。
たとえば、「明日の資料作成が間に合わない」状況に対する反応として、まず「もう間に合わない、絶望だ」と「認知」します。
次に、それによって不安や恐怖といった「感情」が引き起こされます。
その不安からネットサーフィンのような逃避的な「行動」に出てしまい、その影響は蕁麻疹のような「身体反応」としても表れてきます。

何よりつらいのは、この反応が相互に連鎖しながらループしてずっと頭から離れなくなってしまう点です。
認知行動療法は、このメカニズムに注目し、特に認知と行動に働きかけていきます。
感情と身体反応の意識的な制御は難しいですが、認知と行動であれば別の視点からアプローチ可能だからです。

このケースであれば、「ちょっと待てよ。この資料って焦るほど重要なものでもないな、過去の資料をそのまま使ってまとめておくので良さそう」と認知し、「過去の資料から使えそうなページを持ってきてまとめる」という行動に移します。
これによって、明日の締切に遅れるリスクは解消され、不安や恐怖といった感情や身体反応も収まっていきます。
このように、ストレス状況に対してうまく対応できるようになることを目標に認知行動療法はカウンセリングを進めていきます。

私も、カウンセラーさんと一対一で対話を続けながら、自分の考え方の癖に気づけるようになりましたし、ストレスに直面した際の対処法(コーピング)を身につけていきました。

認知行動療法を受けて一年ほどしたころ、以前に比べて悩まなくなっている自分に気づきました。
上司から指摘を受けたとき、これまでの自分は「もうおしまいだ」「次はないかもしれない」とどんどんネガティブに考えていました。
しかし認知行動療法を受けてからは、指摘されて一瞬は「うわ…」となるものの、「ちょっと待てよ」「上司が指摘したのはこの部分で、別に僕を全否定しているわけではない」と俯瞰して捉えたうえで、「ここを修正すればいいんだ」と行動できるようになったんです。

仕事にも成果が現れました。
事業計画作りにもリーダー的な立場で関われるようになり、COOやCFOといった外国人役員と一緒に仕事をする機会にも恵まれました。
以前の私であればこういう重い責任に耐えられずに、不安で潰れていたと思いますが、そのプレッシャーに負けずに仕事を最後まで完遂できるようになっていました。

その結果、仕事での実績を買われて、2011年には上海駐在の機会を得ることもできました。
帰国後は管理職にも昇進するなど、不安の問題を解決できて、人生が好転し始めました。

2自分と同じ苦しみを抱える人たちを救いたい

39歳で大手外資系ソフトウェア会社に転職し、経営企画本部長に就任しました。
仕事を通じての学びをアウトプットしておこうと、久しぶりにTwitterも再開しました。
「グローバル企業の中の人」がリアルな経営の実務を語る点が物珍しかったのか、想像以上に多くの人に読んでもらい、フォロワーもどんどんと増えていきました。

そうして思ったのが、「認知行動療法についての発信をしてみたらどうなるだろうか?」ということです。
私が不安の問題で苦しんでいた時、周囲に認知行動療法を知っている人はほとんどいませんでしたし、その状況は10年近く経ってもあまり変わっていませんでした。
であれば、私が自分の体験をもとに認知行動療法について発信すれば、多くの人にとって役に立つ情報になるのではないかと考えたんです。

ただ、メンタルヘルスの話題を「タブー」と考える人はまだまだ多く、ストレートに私の体験を発信しても、うまく伝わらない可能性がありました。
そこで考えたのが、ビジネス的な文脈にメンタルヘルスの話題を置いてみることです。
特に、認知行動療法は、心の扱い方の「スキル」を身につける要素も強いので、そこを私の体験と結びつければうまく伝わるかもしれないと考えました。

早速Twitterで発信を始めてみたところ、大きな反響がありました。
何より「私もこういう問題で苦しんでいるんです」という共感の声が多く、認知行動療法のような心の問題を解いてくれる方法がもっと広がるべきと再認識しました。
そこで、副業の形で仲間や資金を集め、認知行動療法の方法論を簡単に実践できるアプリ開発を始めたんです。

しかし、アプリの完成が近づいたころ、「この形では苦しむ人の心の問題をうまく解決できないのでは?」と思うようになりました。
私自身の体験を振り返ると、その変容にとって一番重要だったのは「カウンセラーの方との対話」だったからです。
なので、一人でアプリに向かっているだけでは難しいのではないか、と。
この疑念を解けずに、アプリのリリース直前で開発を中止しました。

中止を決めたあと、ずっと手伝っていてくれた臨床心理士さんに、今後どうしていくかを相談しました。
彼女は、今後も私がやりたいと思うことをサポートしていきますよ、と温かく答えてくれました。

さらに彼女は「やはり予防が大事だと思うんですよね」とつぶやいたんです。
それを聞いてハッとしました。「それだ!」と。

一般的に認知行動療法によるカウンセリングは、精神疾患を抱えた方に対して実施されます。
私もそうでした。
ただ、いま振り返ると、学生時代に認知行動療法によって自分の「不安になりやすい傾向」を改善できていれば、その後の人生がどれだけ生きやすいものになったかと思います。

その思いが彼女の一言でよみがえりました。
心の問題に苦しむ人が「予防的に」認知行動療法のカウンセリングを受けて、それを改善していく。
そのコンセプトを展開していきたいと考えました。

方向性が定まり、そこに自分がどう関わっていくべきかを改めてよく考えました。
副業でアプリ開発をしながら思っていたのは、本業、育児、そして副業を同時に進めるのは非常に大変だし、なによりどれもが中途半端になってしまう危険があるということでしたから、リスクはあるけれど、せっかくやろうと思ったのならば、本格的にやるべきだろうとは思っていました。

私自身「不安」の問題にうまく対処できるようになったことは、それ自体が人生の大きな達成と言えるものでした。
それくらい、認知行動療法に出会うまでの毎日はつらかった。
いま同じような問題で苦しんでいる人がいるのならば、その人たちを助けていきたいと思いました。

こうして新しい道に進もうと腹が決まり、外資系ソフトウェア企業を辞めて、ずっと手伝っていてくれた臨床心理士さんとマイコーピング株式会社を2020年8月に創業しました。

3だれもが本当にやりたい選択ができる社会へ

マイコーピング株式会社では、認知行動療法を用いたオンラインカウンセリングサービスを展開しています。
働く人の「予防」と「再発防止」にフォーカスし、認知行動療法の経験が豊富なカウンセラーによる質の高いカウンセリングを提供することに力を入れています。

「悩み苦しむ人が、その対処法を身につけ、自ら歩み出すことを助ける」を会社のミッションとして掲げていて、目の前の一人ひとりの方に寄り添って、心の問題に苦しむ人が、そのつらさを和らげ、自分の向かいたい方向に歩み出せるように支援していきたいと思っています。

認知行動療法という言葉は、以前に比べるとメディアやネットで見かけるようになりましたが、実際にカウンセリングを受けられる場所はそれほど増えていないのが実態です。
ですから、オンラインカウンセリングの提供によって、住んでいる地域を問わず、また平日夜などご自身の都合にあった時間帯で認知行動療法のカウンセリングを受けられる機会を増やしていければと考えています。

現在は一対一のカウンセリングのみの提供ですが、グループでの認知行動療法の提供を、共同創業者の方やカウンセラーの方々と準備しています。
これによって、一対一のカウンセリングに比べて始めやすい価格でのご提供が可能になりますし、認知行動療法への敷居も下げられると思っています。
ソフトウェアをうまく活用したセルフケアのサービスなども構想しており、心の問題に苦しむ方々一人ひとりに寄り添ったサービスを増やしていきたいですね。

自分自身の経験を通じて思うのは、心の問題の困難は、それによって自分の意思で「選べなくなってしまう」点にあります。
人生にはいろいろな選択肢があって、仕事を頑張るのでも、私生活を充実させるのでも自分で選べます。
でも、四六時中不安の渦に巻き込まれていると、その「選択」ができません。
つらい気持ちにずっと翻弄されて気力も奪われ、選択も行動もできなくなっていく。
マイコーピングでは、一人ひとりの心の問題に寄り添い、その改善をサポートしていきたいと思っています。

今の時代は多様化、複雑化していて、これをやっておけば大丈夫というものは無くなってきています。
だからこそ、自分の人生をなんとか自分で作っていく必要がある。
カウンセラーの皆さんと一緒に、心の問題で苦しむ方々に寄り添って、それぞれの人生の「物語」を歩むことを支援し続けていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年12月)のものです

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