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世の母親の力になりたい。
悲しみを乗り越えるきっかけをつくる
【Twinkle-mom主宰・河原由美子】

目次
  1. 自分らしく生きることが息子にとっても幸せ
  2. 子どもを亡くしたお母さんが悲しみを乗り越えられる場所づくり
  3. お母さんが自分らしく人生を楽しめるように

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、お子さんを亡くしたママのコミュニティ「Twinkle-mom」を主宰する河原 由美子さんをご紹介。

三男を亡くしたことをきっかけに、絵本を出版し、自分と同じ経験をした人たちが集うコミュニティを立ち上げました。河原さんは絵本やコミュニティを通じて何を成し遂げたいのか、お話を伺いました。

1自分らしく生きることが息子にとっても幸せ

私が35歳でカフェの運営をしていたとき、3歳の三男が発熱を起こして脳にウイルスが入り、急性脳症にかかりました。
ウイルスが入った脳は腫れ、脳幹が圧迫されて機能不全となり脳死と診断されました。

今の医療ではどうすることもできなくても、未来では治療法が開発されて奇跡的に回復するのではないか。
元に戻らないと確実に決まったわけではない。
脳に良いと言われた音楽を聞かせたり、サプリメントを飲ませたりと、良さそうな方法は全て試してみました。

「息子の意識はもう戻らないかもしれない」と考えるようになったころ、3回の臨死体験を経験した人に出会います。
死んでも魂が体から抜けていくだけで、自分の意思はあり続けるのだと言っていました。

魂はこのままあり続けることができるし、死んだら三男に会うことができる。
そう思うことで死に対して抱いていた恐怖がなくなり、いつ死んでもいいと考えるようになりました。
いつ死ぬか分からないから、今のうちにやりたいことをやろうと思うようにもなりました。

それから3ヶ月半が経った9月1日、三男は私の腕の中で亡くなりました。
直後はお葬式や自分の仕事で忙しく、あまり実感をもてていませんでした。
しかし家で一人になるととても寂しくなり「私のせいで亡くなったのではないか」と気持ちが落ち込んでしまうことが多かったです。

これまで自分の周りだと高齢の方が亡くなってしまうことは耳にしていましたが、まさか自分の子どもが亡くなるとは思ってもいませんでした。
「三男は何のために生まれてきたんだろう」「生きることって何だろう」と考えるようになりましたね。

それから、知人の支えもあり、徐々にではありますが悲しみから立ち直っていきました。
そして、悲しみから一歩前に進み「自分の人生をどう生きるか」と自分自身に向きあうようになったんです。

人は人生の中でやりたいことや、やらなければならないことがあって生まれていて、三男が生まれてきたことにも必ず意味があるはず。
亡くなってしまったことは悲しかったですが、その経験から私にできることがあるはずで、それを実現することで、三男も自分も幸せになれるのではと思ったんです。

経営しているカフェでお客さんと談笑中

経営しているカフェでお客さんと談笑中

2子どもを亡くしたお母さんが悲しみを乗り越えられる場所づくり

三男が亡くなってから一年が経ったころ、とてもつらくて苦しい経験をしたにもかかわらず、その感情がだんだんと薄れてしまうのではないか、と感じるようになりました。
感情は自分の一部なのだから残していきたい、三男が生きた証を残したい、と思うようになりました。

そのために、絵本を出版しようとふと思いつきました。
そこで、経営しているカフェをギャラリーとして貸し出しており、よく出展してくれていた知り合いのイラストレーターにお願いして絵を描いてもらうことに。

誰かに読んでほしいという思いはなく、ただ形に残したいと思っていたので、自費出版として形にすることを考えていました。
しかし、本の作り方が分からず、相談をする中で「自費出版にすると広がりがないから、共同出版にしたほうがいいのではないか」と提案をもらい、それも良さそうだなと思うように。
縁あって絵本の出版や絵本の講座をしている出版社の社長さんと出会い、そのまま一緒に絵本を作っていただくことになりました。

もしかしたら、自分の経験が誰かの役に立つかもしれない。
そう考え、周りの人に、子どもを亡くした体験を話すようになりました。
すると、流産や死産を経験した方や、子どもが大きくなって10歳前後で亡くしている方など、「私もそうなんだよね」と言ってくれる人が意外にも多いと感じました。
また、厚生労働省のデータによると2019年度には、日本では年間およそ1万9,000人の子どもが死産になり、新生児で700人以上、乳児で1,600人以上が亡くなっているという事実も知りました。

さらに、多くの母親の苦しい気持ちを聞くなかで、自分の経験を話すのに抵抗感があったり、世の中に言えない空気感があったりすることに違和感を覚えるようになりました。
悲しみを乗り越えるためには、誰かに話せる場所が必要です。
話して自分の思いを整理することができれば、自分の人生と改めて向きあうことができ、自分らしく生きることができるようになるはず。
つらい経験をしたお母さんたちが集まって、つらい思いを吐き出せるコミュニティをつくることを決めました。

お母さんの多くは「自分のせいで子どもが亡くなってしまった」と話していましたが、私は、亡くなった子どもは自分の人生を決めて生まれてきているのだから、お母さんのせいではないと考えています。
母親たちの苦しみに、絵本を通して、もっと寄り添いたいと思うようにもなりました。

絵本づくりに打ち込む中で、幸運に恵まれ、この仕事は私の人生で「決められていたこと」だったのではないかと感じるようにもなりました。
カフェの経営をしていたからギャラリーを開くことができて、イラストレーターと出会えました。
さらに、絵本の打合せ中に三男と一緒に作っているように感じられる、不思議な体験をして、まるで絵本を「作らされている」ような感覚も抱いたんです。

人生で起きることには全て意味がある。
いいことも悪いことも、なぜ起きたのか考えるようにすると些細な出来事でも大きな意味を持つ
のだと実感しましたね。

亡くなった三男の命日、2020年9月1日に、亡くなった子どもをもつお母さんのコミュニティ「Twinkle-mom」を立ち上げ、絵本『ママ、ぼくがきめたことだから』を出版しました。

実際の絵本

実際の絵本

3お母さんが自分らしく人生を楽しめるように

現在は、カフェを経営するかたわら、コミュニティ「Twinkle-mom」を主宰しています。
毎月オンラインイベントを開いたり、インターネット上に掲示板を作ったりして、つらい経験を当事者同士で話せる場所をつくっています。
さらに、出版した絵本を全国の書店やインターネットで販売したり、各地の図書館に置いてもらったりしています。

今後もいろいろな方と出会い、話を聞いていきたいです。
お母さん自身のやりたいことを一緒に見つけて、それを応援できる場所にしたいと思っています。
コミュニティでは、それぞれが自分の得意不得意を生かして化学反応が起こり、協力しながら活動ができるようにしていきたいです。
皆さんの人生がより良い方向に進んでいくことを願っています。

コミュニティ「Twinkle-mom」イベント中の様子

コミュニティ「Twinkle-mom」イベント中の様子

絵本の読者の方からは「日常の何気ない幸せに気づけた」「前向きに生きることを教わった」などの声をもらっています。
私が直接会って話す方法だと、一人ずつにしか伝えられませんが、絵本が独り歩きしてくれて、本当に必要としている方に私のメッセージが届いていると知ってうれしく感じています。

今後は、コロナ禍で一度はあきらめた、47都道府県での絵本のお話会の開催に挑戦したいです。
コミュニティの周知もできますし、子どもを亡くしたお母さんが話せるきっかけもつくれると思っています。
また、世界を見ないまま亡くなった三男に、私の目を通していろいろな景色を見せてあげたいです。

三男は私に、人との繋がりをくれました。
新たな人と出会ったり、友人と絆が深まったりしたんです。
子どもを亡くしたお母さんに、自分の人生の意味を見つめ直して自分らしく人生を楽しんでほしいということを、コミュニティや絵本を通して伝えていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年12月)のものです

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