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「幼馴染のAI」で、人以上に人に寄り添う。
息子が幸せに生きられる社会をつくるために
【株式会社I’mbesideyou代表取締役社長・神谷渉三】

目次
  1. 苦しい人生から抜け出して、自分の力で生きていきたい
  2. 息子のために、社会を変える
  3. 全ての人がお互いをリスペクトし、全ての出会いが学びになる社会へ

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、大手IT企業を退職し、AIによるオンラインコミュニケーションの動画解析システムをつくる神谷渉三さんをご紹介。

息子さんが小学校に入学した際学校に馴染めなかったことで、社会を変えなければならないと考えたといいます。神谷さんが目指す社会のあり方とは。お話を伺いました。

1苦しい人生から抜け出して、自分の力で生きていきたい

愛知県の田舎の地域で、教師一家の三男に生まれました。
子どものころはいじめられていて、お世辞にも幸せな生活とは言えませんでした。
追い詰められ、自殺を考えたこともありました。

どうやって今の状況から抜け出すかを考えた末、高校受験で遠くの高校を受験し、一人暮らしをすることにしました。
さらには、アメリカでのMBA取得を検討しました。
アメリカは自由の国というイメージがあり、いじめなどの理不尽に苦しまず、自分の実力さえあれば生きていけると思ったからです。

しかし親も担任の先生も、まったく取り合ってくれませんでした。
インターネットのない当時、情報収集の手段もない中、「そんな夢のような話があるわけない」と一喝されてしまったんです。
苦しさから逃れるために見つけた道すら打ち砕かれて、挫折感を味わいました。

結局留学はできず、国公立の大学に進学。
就職活動では大手IT企業を選びました。
これからの時代、世の中を変えるのはITだと考えたからです。

20代のころは、社会インフラをつくる大きなプロジェクトを複数経験。
営業や企画などさまざまな仕事を担当し、携わったプロダクトが社会に広く浸透していくのを目の当たりにしました。
大きな成功体験で、毎日とても忙しくて大変でしたが、その苦しさを乗り越えたことで、くじけない心や最後までやり切る力が身につきました。

一通りの仕事を経験した後、経営企画本部に志願しました。
そこでのミッションは、全社統一のビジネスプロセスの策定。
当時、グループ会社や部署ごとにそれぞれのルールがあり、全社で統一したプロセスがありませんでした。
全社で統一したプロセスをつくることで、生産性の向上や理念の浸透を目指しました。

完成までこぎつけるのは本当に大変でした。
数万人規模の会社において、各部門それぞれ利害関係があり、全員の意見を全て取り入れるのは不可能です。
とはいえ、どこにでも当てはまる抽象的なルールを策定しても、機能しません。
シンプルな筋で、かつ実用に耐えうるプロセスを策定する必要がありました。

そこで、社員の意見を聞きながら、何がコアで、何を捨ててもいいかを判断することに注力しました。
意見を飲めないことがあるのは精神的にも苦しかったですが、これからの会社の成長にとってどの価値観を大事にすべきかを考えて取捨選択しました。
コアが決まった後は、誰に何と言われようと軸がぶれることないよう、このビジネスプロセスは是か非かを明確に解き、合意形成を進めていきました。

結果的に全社統一のビジネスプロセスの第1版をつくることができて、自信に繋がりました。

2息子のために、社会を変える

私生活では、35歳のとき長男が誕生しました。
息子が生まれた瞬間、ものすごい愛おしさが溢れてきて、これからの世界を変えていくのはこの子たちだと、希望を感じました。

その時ふと、息子に将来どうなってほしいか考えたんです。
いろいろ考えた結論は、どんな環境でも、どんな人生でもいいから、生きていてほしい。
ただそれだけでしたね。
この子のためにできることをするのが、自分のミッションだと考えるようになりました。

息子が小学校に進学した時のこと、今まで元気に過ごしていた息子が急に元気をなくしてしまいました。
話を聞くと、「どうして毎日同じ時間に学校に行って、決められたクラスで、決められた席で、皆で同じ授業を受けなければいけないのかわからない」とのことでした。

インターネットが普及した時代において、そのような学校のシステムが正しいのか。
考えた末、学校に行かねばならない本質的な答えは見つかりませんでした。
であれば、今の社会環境がおかしいのだと感じました。

息子は、とても繊細でやさしい子です。
やさしいからこそ、理不尽なことが容赦なく彼に襲い掛かってきました。
それが息子自身だけではなくて、周りの人たちも傷つけることになったとしたら、最悪の場合、この子は自殺を選んでしまうかもしれない。
私自身が学生時代に自殺を考えていたこともあって、その想像が容易にできてしまいました。

息子の人生だから自由に生きてくれたらいいけれど、死ぬことだけは許容できない。
ならば親として、息子に自殺という選択肢が浮かぶことを避けなければならない。
車に轢かれそうになっているわが子を前に身を投げ出してでも助けるように、大好きな息子をなんとかして救わねばならないと考えました。

そこでまず、本質的な課題と解決すべきことを見つめ直しました。
息子はわずか6歳。
自己責任と言えるような話でもないし、選挙権もない息子が自分の力で今すぐ社会を変えるなんて不可能です。

一方で、学校が悪いわけでもありません。
両親も兄も教師で、学校の先生が子どもたちのことを考えていることはよく分かっていました。
学校や親の自己責任としてしまうことは本質的な解決にはなりません。
社会全体で取り組まねばいけないと考えました。

模索した末、自らが実現したい姿は「社会全体を学校にする」ことだと考えました。
昔は地域の中で子どもたちを見守って育児をしていたのに、現在は村社会が崩壊し、親や学校だけの子育てとなっています。
全ての人がお互いをリスペクトし、全ての出会いが学びになるような社会をつくりたいと考えました。

そこでまず、副業で小学生が多様な大人と交流できるサービスを立ち上げました。
ビジネスパーソンからアーティスト、スポーツ選手などさまざまな大人たちとふれ合うことで、自分なりの価値観や生き方に気づく環境をつくりたいと考えました。

生で大人たちと交流する経験を通じて、息子もどんどん生き生きとした表情を見せてくれるようになりました。
多くの人たちと会話をし、楽しそうにしている子どもたちの姿を見て、「社会全体を学校にする」ことの必要性をさらに実感しました。

小学生と多様な大人との交流イベント中(中段中央が神谷さん)

小学生と多様な大人との交流イベント中(中段中央が神谷さん)

年齢によって必要な教育も変わってきます。
息子が10歳になると、交流して学ぶだけでなく、自らの人生を切り拓く力の必要性を感じました。
そこで知り合いとともに、小中高生向けオンライン起業家教育を立ち上げました。
若い世代がビジネスの実践を通じて、自分のことや社会のことを学べる環境を作ったのです。

事業を進める中で、課題も見つかりました。
これらの教育にアクセスできる子どもたちは限られていることです。
学びの場として、インフラになるようなサービスが必要なのではと考えるようになりました。

そんなとき、新型コロナウイルス感染症が拡大。
リアルな出会いを大事にしていた交流サービスは活動を休止に。
そして学校も休校になりました。
リアルなコミュニケーションがオンラインに移り変わり、悩んでいる声を多く耳にするようになりました。

この環境の変化に、息子は対応できるのだろうか。
この時代に息子を見守り、支えてくれる環境をつくるためには、自分には何ができるのか。
考えた末、AIでの動画解析システムを思いつきました。

「社会全体を学校にする」というビジョンの実現を目指すうえで、一人一人が自分のことをしっかり理解して、そのうえで相手を思いやることが不可欠です。
そのためには、自分や相手のふるまいを客観的に認知することも大事です。
AIは客観的な認知において、現時点で一番優れている解決策と言えます。
コミュニケーションをリアルタイムで客観的に分析することで、人以上に人の心に寄り添えるインフラになるのではと考えました。

そこで2020年6月末、同じ会社の仲間3人とともに、株式会社I’mbesideyouを設立。
もっと早いスピードで事業を進めていかねばと、半年後に長年勤めた会社を退職。
このサービスに専念することにしました。

3全ての人がお互いをリスペクトし、全ての出会いが学びになる社会へ

現在は、I’mbesideyouで、オンラインコミュニケーションで一人一人の表情や声のボリュームを分析する動画解析のAIを開発しています。
どんなところで喜びを抱いたか、驚きを感じたのかをリアルタイムで気づくことができます。

私たちは、このシステムを「幼馴染のAI」と呼んでいます。
ちょっとした表情の変化にも気づいて、寄り添ってあげられる存在だからです。

「幼馴染のAI」実際の管理画面

「幼馴染のAI」実際の管理画面

自分の気持ちを表現することは案外難しいものです。
うまく言語化できず、モヤモヤした思いを抱えたままの人が大半です。
そんな人たちを、理解してサポートしてあげられる存在になりたいと考えています。

現在、実績としてはオンライン家庭教師の会社にサービスを提供。
有識者にヒアリングを重ねた知見をAIに実装させた結果、先生すら気づかなかったことをAIが発見できるまでに精度が高まっています。

ありがたいことに技術力や取り組みが評価されて、資金調達が決定したり、外部の表彰を受けたりするなど国内外から注目が集まっています。

セールスに使えるのではとの声も多くいただいています。
しかし、僕の一番の目的は、自分の息子が幸せに生きられる社会にすること。
人が生き生きと暮らせる社会にするためのインフラとして活用したいという思いが強く、自社の利益獲得だけを目的とした解析への活用はあまり考えていません。

現在、I’mbesideyouは日本を超えて世界でも展開するようになりました。
元々、息子が世界中どこにいっても受け入れられる状態をつくることが目的で始めた事業です。
そのための手段として、世界中に広げているにすぎません。
やはり私の原点であり、目的は息子です。

ただ活動を進めていく中で、目をキラキラと輝かせる子どもたちの笑顔をたくさん目にしました。
はじめは自分の息子のためだけにはじめたこと。
でも結果的に多くの人たちの笑顔に繋がっていることが、僕にとって大きな喜びになっています。

僕の目標は、今も変わらず「社会全体を学校にすること」です。
この社会を、一人一人の個性を認め合い、お互いをリスペクトして学びあえる学校に変えていく。
これまでしてきたことは、そのための手段でしかありません。
今後の人生も、このビジョンの実現に向けて全力を尽くしていきます。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年11月)のものです

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