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「意識が高い人」でなくたっていい。
おもしろい場所が人生を拡張させる
【ノマド女子大生/大宇宙大学主催者・今村柚巴】

目次
  1. 変わらない環境下で窮屈さを感じていた
  2. 「おもしろいだけ」のことを突き詰めたい
  3. 自分を拡張する場所を探して生きられる場を増やす

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、「ノマド女子大生」の肩書で活動している今村柚巴さんをご紹介。

小中高と変化の少ない環境下で窮屈な思いをしてきた今村さん。「意味のあること」ではなく「おもしろいこと」に舵を切って活動したことで、「おもしろそうなことには人が集まる」という自信が得られたといいます。今村さんが「おもしろい」の先に目指すものとは。お話を伺いました。

1変わらない環境下で窮屈さを感じていた

私は小学生のころからスクールカーストのようなものを感じ、目立たないよう無難に過ごしていました。
都内の私立大学附属校で、進学による環境変化が少なく下手に目立たない方が安全だと思っていたんです。

中学生時代は文章を書くのが好きで、国語の先生に褒められていました。
先生から授業で書いた作文をみんなの前で読む機会を与えてもらえ、文集にも掲載してもらえました。
周りを気にして自己表現を抑えていたこともあり、先生からの評価はとてもうれしかったです。

高校に上がり、仲の良い友だちと同じ吹奏楽部に入りました。
部活動は、私にとって思ったことをのびのびと言える場で、とても居心地がよかったです。
しかし、クラスでは「イケてる」子とつるみたい、自分もスクールカースト上でいい立ち位置につきたい、と自分本位で行動した結果、仲間外れにされてしまいました。
クラス内で発言権がなく居場所がないしんどさを抱える私の支えになってくれたのも吹奏楽部の子たちでした。
変わらず居場所があることが、本当にありがたかったです。

大学生になると世界が自然と広がりました。
クラスという単位がなくなったことで、高校時代まで続いたある種のヒエラルキーや人間関係トラブルがなくなり、本当にくだらなかったなと思えるようになりました。

勉強以外の活動もやってみたいと思い、先輩がたくさんいるという理由から国際ボランティアサークルへ参加しました。
サークルのメイン活動は毎年夏と春にある海外ボランティアで、参加しないと友だちができないと言われていたため、「じゃあ行くか」と軽いノリで参加することに。
複数の選択肢の中からタイへ行くことを決めましたが、これもスケジュールが合ったからという単純な理由でした。

海外自体が初めての人もいるため、日本人コーディネーターを手配しようという話になりました。
しかし、やってきたコーディネーターはどこか高圧的で、正直あまり好きになれないタイプの人でした。

ある夜、突然コーディネーターが酒に酔った勢いで一部の男子学生たちを無理やり引き連れ、車でどこかに行ってしまったんです。
焦りました。
連れて行かれてしまった子たちが心配だし怖いし、どうしようどうしようと混乱していましたね。

そんな私たちを助けてくれたのは、サブコーディネーターのタイ人の方と、その恋人の日本人でした。
サブコーディネーターの交渉のおかげで、連行されてしまった学生たちは無事に帰還。
しかし、コーディネーターに預けていたお金は手元に戻ってくることはありませんでした。

ほぼ文無しになった私たち学生を受け入れてくれたのは、現地のゲストハウスでした。
同年代の外国人宿泊者と話す機会も得られ、その中には北朝鮮の方もいました。
その人は「日本が好きで、日本語を勉強しているんだ」と日本語で教えてくれ、最初は世界から孤立している国の人だとばかり思っていましたが、そのイメージが覆されました。

タイ滞在中の様子

タイ滞在中の様子

タイでの経験から、自分の中にあった日本人だったら安心で、外国人なら警戒しなければといった思い込みや偏見に気づき、それがいかにバカバカしいことなのかを思い知りました。
私が考えている世界、生きている範囲はなんて狭かったんだと思い、他の国に関心を抱くようになりました。

2「おもしろいだけ」のことを突き詰めたい

海外にふれる手段を検討していたところ、サークル幹部である先輩から「世界青年の船事業」の話を聞きました。
40日間ほど、10ヶ国から30歳以下の人が集まり、船で共同生活を送りながら交流する国家事業で、先輩から体験談を聞いて楽しそうだと思ったんです。
異なる国の同世代と関われること、ボランティアや社会貢献活動など、目的がばらばらなメンバーが一堂に会する場であることに魅力を感じて応募しました。

1月に乗船できることになり、その前年の9月に日本人だけを集めた研修に参加しました。
みんな意識がものすごく高く、みんなの前で堂々と意見を言う熱量の高さに戸惑いましたね。
しかし、私は彼らが熱く語るアカデミックなことには知識がなかったことから、あまり興味が持てず、疎外感がありました。

研修期間中、参加青年の何人かから「ただふつうに学生生活を送ってきただけの子は本当にもったいない。もっと意識を高く持って過ごしたらいいのに」という言葉を聞きました。
その熱弁ぶりに「おお、すごいな」と思いつつ、同意できませんでした。
私は高い意識を持っているわけじゃない友だちもリスペクトしてきましたし、自分自身も割と適当に生きてきたタイプです。
何かしら意識の高いことをしていないと「おもしろくない子」認定されることにバカバカしさを感じました。

社会的意義のあることをしなくても、自分が楽しそうだと思ってやっていることが最終的に社会的意義を持つことだって多いのでは。
おもしろいと思うことをただ突き詰める行動をバカにするのはおかしいのでは。

そんなモヤモヤから初めて自ら人前に立ち、「乗船期間に重なって出席できない成人式を船上でやります!」と宣言。
誰も興味を示してくれなかったですね。
ほとんどの学生たちはアカデミックなことをしに集まってきているので、遊びとしか思われないことに注力することに理解や共感は集まりませんでした。

それでも言った手前引っ込めることはできず、いろいろな人に「一緒にやってくれない?」と頼み込みました。
頼む先々で「やる意義は?」と聞かれ、楽しいだけだとお金を生み出せずにビジネス的にはよくないのかもしれないけれど、どうして意義や意味ばかり言うんだろう、そんなのもったいないとモヤモヤしていました。
私は乗船する40日間、おもしろいことを突き詰めてみようと決意したんです。

乗船初日、なんとか成人式を開催しました。
外国人参加者にも「日本のトラディショナルなイベントをやる」と伝え、自分の過去を振り返るワークショップなどを企画しました。
結果的に反応がよかったのは日本人でしたね。
成人式に出られなかった地方学生に喜んでもらえ、やってよかったと思いました。

乗船中に撮影した集合写真

乗船中に撮影した集合写真

イベントを企画していくうちに大人が手を貸してくれるようになり、どんどんイベントのクオリティが上がっていきました。
バラエティ番組を真似してみたり、熱を出して寝込んだ友だちを元気づけるためにダンス動画を作ったりと、遊ぶだけのイベントを4回ほど開催。
「全然お客さんが来ない!」という失敗もありながら、最終的には240人の参加者のうち100人強に参加してもらえました。
結局、おもしろければ人は惹かれるんだと実感できる成功体験になったんです。

下船後、40日間では足りない、一年間どこかの国で過ごす経験が必要だと考え、留学を目指して勉強を始めました。
しかし、世界中がコロナ禍になってしまい、いつ実現できるのか見通しが立ちません。
勉強しつつ今できることを何かしたいと思いました。

そこで思い浮かんだのが、タイでお世話になったゲストハウスです。
アルバイトができないかと国内のゲストハウスを調べたところ、出てきたのはコロナ禍による経営難、クラウドファンディングの情報でした。

自分にできることを探していく中で、オンライン宿泊をやっているゲストハウスを知りました。
このオンライン宿泊を使って自宅で日本一周できたらおもしろそうだと思い、チャレンジしてみることに。
活動するうちに人との繋がりもでき、プロジェクトとして磨かれていきました。

オンライン宿泊で他の宿泊者と交流する様子(今村さんは上段中央)

オンライン宿泊で他の宿泊者と交流する様子(今村さんは上段中央)

取り組みは楽しかったのですが、就職活動のためのエントリーシートを書こうとしたとき、私の取り組みは自己満足で終わってしまっていると気づきました。
このままだと学生の経験のためだけにゲストハウスオーナーの時間をもらったことになってしまう。
「ありがとう」「応援しているよ」と言ってくれた人たちにどうにか還元したい。
そこでクラウドファンディングで費用を募り、オンライン宿泊で関わった人たちに会いに行くリアル日本一周に挑戦しようと決意。

現地でお金を使いたい、生の情報を発信したいという思いもありました。

ゲストハウスのことを広められるものを作ろうと、支援者に送るリターン用に本を書くことも決めました。
それほどSNSのフォロワーがいるわけではありませんでしたが、「やりたい」と口にしながら動いた結果、2ヶ所で目標金額の80万円を超える130万円の支援金を獲得。
感染予防をし、大学の授業をオンラインで受けながら各地を回りました。

クラウドファンディングで費用を募り、日本一周に挑戦中の様子

クラウドファンディングで費用を募り、日本一周に挑戦中の様子

みんなあたたかく迎え入れてくれ、直接会う大切さを実感しましたね。
ゲストハウス以外のおもしろい場所を知ることもできました。
計画通りにほとんどの行き先を巡り、オーナーにフォーカスした本も完成。
海外では価格に焦点が当てられがちなゲストハウスですが、日本のゲストハウスには場づくりやコミュニティ、人との交流が求められるカルチャーがあります。
それなのにオーナーを取り上げた本がこれまでなかったため、喜んでもらえたのではと思っています。

実際に出版した本

実際に出版した本

オンライン授業を受けながら日本一周をやり切ったことで、どこかに行くハードルが下がりました。
これまでは長期でどこかに行こうと思ったら休学しか手立てがなく、そうまでして動く学生は「意識が高い人」とみなされてきたように思います。
オンラインを活用して本業を続けながら行けるようになれば、「おもしろそう」というシンプルな気持ちでいろんな場所に足を運べるようになるのではと思いました。

そんなあり方のサンプルとして私の姿を見てほしいと「ノマド女子大生」と肩書を付けて活動を開始。
行ってみる動機は「おもしろそうだから」だけ。
オンライン授業を活用することで、こんな生活もできるんだよと発信していったんです。

ノマド女子大生の活動をする中で、家と学校じゃない第三の場所に行くハードルを下げるため、いろいろなことをしたいと思うようになりました。
そこで、活動内容を広めやすいよう「大宇宙大学」というプロジェクト名を付けることに。
ユニバーシティとユニバーサルが似ているという、何とも単純なネーミングです。
第三の場所が自分を育む大学になり得るというコンセプトから「大学」という単語を選びました。

3自分を拡張する場所を探して生きられる場を増やす

現在もノマド女子大生や大宇宙大学の主催人として活動を続けています。
いずれも個人的なプロジェクトであり、ビジネス的な側面はありません。
第三者との出会いを得られる、人生を拡張できる場を見つけて発信しています。
他の人たちも飛び込んで来られるよう、出会った場所に大宇宙大学の旗を立ててもらう取り組みも始めました。
試行錯誤しながらいろいろと試しているところです。

実際に立ててもらった大宇宙大学の旗

実際に立ててもらった大宇宙大学の旗

その一方で、2021年9月からイギリスで一年間の交換留学生活も始めました。
試験に受かり、留学のチャンスを手にできたんです。
ただ、留学が決まったのが大宇宙大学を始めて活動内容に悩んでいたタイミングだったため、渡英するかどうか迷いました。
しかし、私自身が視野を広げることも大切だと思い、決断したんです。
留学先ではイベントマネジメントやコミュニティマネジメントの授業を専攻し、何かに活かせたらと思っています。

イギリスで交換留学中の一枚

イギリスで交換留学中の一枚

周りから「起業しないの?」「事業化させないの?」と聞かれることがありますが、そのつもりはありません。
私には私の人生があり、プロジェクトはその中に含まれている一つ。
事業化させてしまうと、どこか縛りが出て活動が窮屈になってしまう気がするんです。
仮に事業として広げられた場合、自分で抱えきれない規模になって意図するものと違ってきてしまうのも怖く、あくまでも私の手元に置いて、マイプロジェクトとして大切にしていきたいです。

就職先はまだ考えていませんが、自分の生活範囲を自由に選べる企業や働き方をしたいなと思っています。
本当にいいと思ったものを上手く表現できるようになるために広告業を目指そうかとか、まちづくりや場づくりもいいなとか、いろいろな仕事に関心があります。

私の人生においても社会においても、生きていける場所を少しずつ増やしていきたいです。
まずは、イギリス留学中に出会う人たちのところにパッと会いに行ける人生を目指したいですね。
そんな私の姿を見ておもしろがってくれる人たちに、新しいおもしろい場所や人を知ってもらえるきっかけをなんらかの形でつくり続けていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年11月)のものです

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