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出来事に「良い」も「悪い」もない。
自分の気持ちにまっすぐ生きる人を増やしたい
【ビジネスキャリア×パートナーシップコーチ・北畠早紀】

目次
  1. 弱さを見せても大丈夫なんだ
  2. 出来事に「良い」も「悪い」もない
  3. みんなが「好き」の気持ちにまっすぐ生きるサポートを

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、ビジネス、キャリア、パートナーシップのコーチングを行う北畠早紀さんをご紹介。

新卒でまったく志望していなかった部署に配属が決まり、それでも与えられた環境でがんばろうと努力していた北畠さん。しかし、ある出来事を機に「好きなことをして生きていく」と決意したと言います。決意をもたらしたきっかけとは。お話を伺いました。

1弱さを見せても大丈夫なんだ

生物学に興味があり、生物系の学部を志望。
しかし、第一志望の大学は不合格になってしまい、別の大学に進みました。
入学式を迎えても気持ちは晴れず、漠然と「このままじゃダメだ」と思っていました。
挫折感から抜け出せない状況をなんとかして変えたいと思い、大学2年生の一年間、アメリカ留学に挑戦しました。

アメリカ留学中の北畠さん

アメリカ留学中の北畠さん

せっかくお金を払って留学に来たのだからと、アメリカでは他の日本人留学生とあまり一緒に行動せず、極力英語だけを使うようにしていました。
ところがストイックになり過ぎたせいなのか、半年ほど経った秋、急に英語を聞くことも話すことも怖くなってしまいました。
私が利用した留学制度は日本の大学と単位互換をするもので、卒業するためには授業に出なければなりません。
英語への恐怖心を堪え、泣きそうになりながら出席していました。

ある夕方の授業が終わったあと、カフェテリアで日本人の友だちが2、3人で話しているのが見えました。
精神的にギリギリだった私は、思わず「助けて」と彼女たちの元に駆け寄りました。
それまで、私は弱みを誰かに言うことができないタイプでした。
失敗した話を打ち明けることは自分の利にならない、失敗談をネタにするなんてどうしてみんなできるんだろうと思っていました。
そんな私が見せた「ダメなところ」に対して、友だちは温かく接してくれました。
「弱いところを見せても大丈夫なんだ」と初めて思えた瞬間でした

留学期間を終えて帰国。
授業、アルバイト、サークルをルーティーン的に繰り返す毎日になりそうな気がして、猛烈に焦る感覚がありました。
とにかく何かしたいと思っていたところ、学生団体の新メンバー募集に出会いました。
理系の女子大生による団体で、活動内容は女子中高生に対して理系の魅力や理系女子の実態を伝えること。
面白そう、活動を通して成長できるのではと思い、活動を始めました。

学生団体で活動中の様子

学生団体で活動中の様子

理系の大学だったので、3年生になっても本格的に就職活動を始める人は少なく、院進学を目指す人が多かったですね。
私は学生団体の活動にやりがいを感じていたこともあり、このまま院に進んで学生生活を延長したいと思っていました。
院に進んだ方が、将来のための選択肢を増やすことにもなるとも思ったんです。
しかし、ある先輩に「就職活動も経験しておいた方がいいよ」と言われ、説明会に行ってみることにしました。

説明会には、キャリアカウンセラーに相談できる場が設けられていました。
学生団体の話や院進学を考えていることを話すと、「選択肢を増やしたからといって、その中にベストな選択肢があるとは限らない」「その学生団体の活動はどれくらい意味があるの?」と言われたんです。
やりがいを感じて活動に取り組んでいたので、カチンときました。

ただ冷静になってみると、キャリアカウンセラーの指摘はまったくの的外れというわけでもありませんでした。
学生団体には人手もお金も不足していて、社会にインパクトを与えるのは現実的に難しいのも事実だったんです。
院に進んで学生生活を延長するより、社会人になった方が成長できる。
人やお金の問題で諦めず、価値を生み出せる活動ができるのではと考え、本格的に就職活動を始めることにしました

自分がどのような仕事をしたいのか考えた結果、技術や製品を通してではなく、人に直接働きかけて貢献したいと思い、理系職ではなく営業職にしようと決めました。
「人の心を動かすモノづくりに携わりたい」、「若手でも意見が言える風通しの良い風土」、そして「人を本当に大切にしていること」。
この3つを会社選びの軸にして活動し、縁あって合致する大手印刷会社から内定をもらうことができました。

入社後に配属希望を出すとき、デザインに興味があり、感性に訴えかけることがしたいという思いから、それが実現できそうな領域を第一希望にしました。
しかし、配属されたのは一番志望度の低かった金融系。
目の前が真っ暗になりました。
しかし、たくさんの人を見てきた会社が適性を見て判断した結果です。
与えられた環境でがんばろうと気持ちを切り替え、働き始めました

2出来事に「良い」も「悪い」もない

入社3年目の夏、得意先から無理な納期交渉が立て続けにありました。
取引先と工場、社内調整をなんとかできたにもかかわらず、前倒しを追加で依頼されたとき、プツンと糸が切れてしまいました。
そして、ふと「もともとやりたいことじゃなかったのに、こんなに毎日気持ちすり減らして、時間使って、私何やってるんだろう」と我に返ったんです。
そのまま、出先のカフェで二時間ほど動けなくなってしまいました。

同時に、このままではいられない、自分が心からやりたいと思うことを仕事にしたい、と思いました。
やりたいことを考える中、趣味としてずっと好きだったデザインに思い至りましたが、美大ではなく理系出身の私にはなんの経験もありません。

それでも諦められず悶々としていた私の背中を押してくれたのが、ウェブデザイナーをしている友だちからの「今からでも遅くないと思うよ」という一言でした。
目の前が明るくなり、すぐにグラフィックデザインを学べる学校を探しました。
費用も期間もかかるので迷いはありましたが、説明会でカリキュラムを聞くとワクワクしすぎて入学を即決しました。
デザインを仕事にするかどうかはまだわかりませんでしたが、どちらにしても自分がずっと好きだったことだからプラスになると思ったんです。
平日は働き、土曜は学校、日曜に課題をする日々は忙しく、大変なこともありましたが、気にならないくらい楽しく充実していました

しかし、社会人4年目の9月に学校を卒業した途端、身の振り先をどうするのかまた迷いに陥ってしまいました。
「自分はこうしていきたい」というイメージも覚悟もない状態で、デザイナーへの転職を決断できなかったんです。

今の環境が自分のいるべき場所ではないのはわかっているけれど、どこに行ったらいいのかわからない。
そのまま、2~3ヶ月が経過しました。
「好きなことを仕事にしたい」なんて言う人は自分の周りには誰もいませんでした。
逆に「なんかすごいね」と言われてモヤモヤし、誰かに自分の思いを話すこともためらうようになりました。

何も状況が変わらない日々の中、一人の個人事業主の男性に出会いました。
周りにフリーランスや経営者がいなかった私にとって、自分の名前で生きている人とのほぼ初めての出会いでした。
くすぶっていた私の気持ちを引き出し受け止めてくれて、ビジネスセミナーや交流会の紹介など、大きなきっかけをつくってくれました。

セミナーを聞いてやっと「好きなことを仕事にしてもいいんだ」と思うことができ、また交流会で好きなことを仕事にしている人、それに向かって努力している人たちに出会えて、本当に心が救われる思いでした
自分の周りに同じ志向性の人がいなかっただけだったんだと。
私も彼らのような人たちと一緒にいたいと思い、会社を辞める決断をしました。

縁あって入ったビジネスコミュニティから「まずは自分で稼ぐ一連の流れを身につけた方がいい」とアドバイスを受け、自分の力でお金を稼いでみることに力を注ぎました。
デザインの仕事もいくつかさせていただきましたが、このコミュニティで案件の紹介を受けながらさまざまな仕事を経験しました。

それと同時に、コミュニティの中でコーチングに出会いました。
学生時代の留学中に弱さを見せても大丈夫なんだと一度は思えたものの、心の片隅では「自分の本当の気持ちなんて誰にもわかってもらえない」と二十数年の積み重ねで思っていました。
相談しても意図が伝わらなかったり、的外れなアドバイスをされてしまったりするたびに、「自分の考え方って少数派なんじゃないか」「自分は理解されない存在なんだ」と心を閉ざしてきたんです。
しかしコーチングは、コーチが答えを教えるのではなく、「答えはその人の中にある」という考え方。
これなら自分と同じような思いをしてきた人の役にも立てると思いました。

実践形式で教わりながら、キャリアの棚卸しや未来を描くセッションを無料で実施しました。
受けてくれた方から「頭の中が整理された」「必要なものがわかった」と喜ばれるようになったものの、単発で終わってしまいました。
本当に目の前の人たちの役に立つには継続してやりたい、やるからにはプロとしてやりたいという思いが強まっていき、仕事にできるようスキルアップしようと決意しました。

サービスをつくるにあたってまず軸にしたのは、「好きなことを仕事にしたい人を後押しする」。
過去の自分のように、好きなことを仕事にしたいけれど、確信がなくて動けず苦しんでいる人の力になりたいと思いました。

コーチとして活動を始めて少ししてから、「どうすれば恋人や夫婦間の関係が良くなるか」にもコーチングでの考え方や在り方がそのまま活きることに気づきました。
当時のパートナーもコーチングをしていたので自然とそのエッセンスを互いに活かし、関係がとても良かったからです。
仕事やキャリアで「好きなことを選び続けること」と、パートナーとの間で「良い関係を長く築くこと」に必要なことやステップは、実はほとんど同じ。
根本の原因からアプローチすれば、どちらも良くすることができるんです。

以前から「仕事かプライベートか」「キャリアか結婚か」と二者択一で天秤にかけるような風潮や、好きで選んだはずのパートナーの愚痴を外で言い、褒めることはあまりないなどの光景にモヤモヤしていたことを思い出し、自分が日本のパートナーシップ観にも課題感を持っていることに気づきました。

キャリアとパートナーシップは連動していて切っても切り離せないテーマだと思い、両方をメインテーマとして打ち出すことにしました。
実際に、キャリアで悩んでコーチングを受けに来た方が、やりたい仕事にシフトしただけでなくパートナーとの関係も改善したり、パートナーとのケンカが多くて悩んでいたのに、ケンカがなくなっただけでなく仕事でのコミュニケーションにもいい影響が出て自信が持てるようになったりするなど、両方が向上するケースが多く出ています。

コーチングを行う北畠さん

コーチングを行う北畠さん

いろいろな方の人生に伴走させていただいて、「出来事には良いも悪いもない」と強く実感するようになりました。
その一瞬だけ切り取ってみるとネガティブに思えるような出来事も、目をそらさずに向き合えばむしろ、「自分が大切にしたいこと」に気づくためのヒント
私が会社を出てフリーランスになるまでの道のりがまさにそうでした。
たどり着くまでは本当に苦しかったですし、そこからもいろいろな出来事がありましたが、どれも意味があって必要なことだったと感じています。

3みんなが「好き」の気持ちにまっすぐ生きるサポートを

現在もキャリアとパートナーシップのコーチングを行いながら、転職支援や人材紹介、デザインの経験を活かして個人事業主向けのブランディングサポートなども行っています。
軸は「一人一人が自分らしさを大切にして『好き』の気持ちにまっすぐ生き、想いを形にしていってほしい」ということ。
それを実現する手段として、今はコーチングが最適だと感じています。
またあらゆる分野の専門家と繋がって、トータルで人生をサポートできるような存在になりたいとも思っています。

失敗や不得意なこと、弱みに対して、日本人は自他に厳しすぎる傾向にあると感じています。
「ダメなこと」「悪いもの」と排除しようとするからだと思うんです。
でも裏返すと、成功や得意なこと、強みがあるということだし、その二極はセットであって絶対になくならないもの
良い悪いを裁いて排除するのではなく、全てをそのまま受け止めるからこそ次に進むことができます。
一人一人が全てをさらけ出し受け止められる、優しい社会にしたいですね。
そのためにも、日本人みんなが自分らしさを大切に、自分の「好き」の気持ちにまっすぐ生きていけるサポートをしていきたいと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年11月)のものです

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