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自分で考え、動ける人を増やしたい。
経験を受け継ぐアプリで理想の社会実現を
【アトワジャパン株式会社取締役COO・江田泰高】

目次
  1. 「自走できる人」を育てられるのが理想の上司
  2. 受け継いだ自分の知識や経験を、次世代に繋ぐ
  3. 自走できる人が増えれば、世の中はもっと面白くなる

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、アトワジャパン株式会社の取締役COOを務める江田泰高さんをご紹介。

大手物流会社からキャリアをスタートさせた江田さん。定年退職を迎えた父が電話でこぼした一言から、次世代への育成に強く惹かれるようになったといいます。江田さんが目指す人材育成とは。お話を伺いました。

1「自走できる人」を育てられるのが理想の上司

大学卒業後、大手物流会社で働き始めました。
物流業界で働いていた父の影響を受けた部分もあったと思います。
会社では、倉庫業務の他、輸出入や営業などを担当。
一年間の海外駐在など、さまざまな経験を積ませてもらいました。
しかし、1社で働くだけではその会社のやり方しかわからないままです。
もっと幅広い視野を持ちたい、知識を得たいと思い、入社5年目に外資系の大手総合コンサルティングファームに転職することにしました。

担当する会社や業界により、得られる知識は多岐に渡ります。
さまざまな企業のコンサルティングを行う中で、プロジェクトマネジメントや会社経営に必要な視点を身に付けました。
企業のシステム導入や拠点統合などのプロジェクトを経験し、さらに上流の戦略コンサルティングを学びたいと考え、別の戦略コンサルティングファームに転職。
コンサルタントとしての幅を広げることができました。
その後、ECサービスを手掛ける大手IT企業に転職。
新規事業の立ち上げを経験しました。

働く中で多彩な経験を積み、もともと自分の専門領域だった物流とコンサルティングスキルを組み合わせた仕事をしたいと思うように。
また、大勢の部下を育てる経験をしたことがなく、次はマネジメント経験を積めるポジションに移りたいと思うようにもなりました。
すると、いいタイミングでご縁があり、29歳で外資系メーカーの物流部長として転職できることになったのです。

多くの部下をまとめることが初めてなうえ、部下たちは年上ばかり。
中には一回り以上年上の人もいました。
そうした事情もあり、最初はなかなかうまくマネジメントできませんでした。
まず意識しようと思ったのは、誰よりもマネージャーらしく、みんなが頼れるリーダーになろうということ。
年下であろうと、中途入社社員だろうと、部長は部長。
「この人にならついていきたい」と思ってもらえるような理想のリーダーになろうと心に決め、片っ端からリーダーシップやマネジメントに関する本を読みました。

また、学生時代のアルバイトやこれまでに勤めてきた会社でお世話になり、私が「この人は理想の上司だな」と思った人たちに会いに行きました。
バイト時代に叱られた上司と改めて話すことで、発言の裏にあった当時の思いを知ることができ、多くの気づきを得ることができました。

こうした積み重ねから、自分にとっての理想の上司像を固めていきました。
私にとっての理想の上司は、方向性を示しはするけれど、部下が自分で考えて動く力を奪わず育てられる人。
コンサルティング業界の言葉でいう「自走」できる人を育てられる人を目指そうと思いました。

転職を重ねながら物流部長になったように、私は同じポジションにずっと留まっているつもりはありません。
チャンスがあれば部署異動を願い出るかもしれませんし、別の会社に転職する可能性もあります。
機会がやってきたときに、自分がいなければ回らない組織だと身動きが取りづらくなってしまいます。

もちろん、空いたポジションに別会社や社内の他部署から人をあてがうこともできるでしょうが、現場で一緒に働いているチームメンバーの中から次の部長が選ばれる方が、彼らにとっても良いはずだと思ったのです。

クロックス・ジャパン時代の様子(後列右から2番目が江田さん)

クロックス・ジャパン時代の様子(後列右から2番目が江田さん)

コンサルタント出身の管理職の方の中には、能力が高いがゆえに自分で物事を前に進め、周りの人には言ったことをただやってもらうスタイルの方が多くいます。
確かに、その方法は短期的にはスピーディーに課題解決できるのですが、その人が抜けたあとに自分で考えて動くことのできない人ばかりが残されてしまうんです。
自分が抜けたあとでも、成果を出し続けられる人をつくることが会社のためにもなると考えました。

人を育てていくことには難しさもありますが、私にとっては非常に楽しい仕事でした。
これまではひとりで成果を上げてきたのですが、部下を育てることでより大きな成果を生み出せるのだと実感できたのです。
何十人もの部下をひとりで全て見ることができないので、チーム全体で機能できるよう、戦闘力をいかに上げていくのかを考えるようになりました。

一人ひとりの思考力を上げていくため、直属の部下には「想定問答1000本ノック」を実践していました。
「もし、倉庫が火事になったらどうする?」「あり得ない量を出荷してくれと頼まれたらどうする?」など、無茶だけれど起こりえないわけではないシチュエーションの問いを毎日投げかけるんです。

あらかじめ考える習慣をつけておくことで、対応能力を磨くことができます。
その積み重ねにより、部下の自走力は向上。
指示をしなくても「こうしたいと思いますが、どうでしょう?」と意見を出せるようになっていったのです。

本や過去にお世話になった上司の他、部長になってからよく思い出すようになったものがあります。
それは、二十歳の誕生日のとき、父からもらった手紙に書かれていた「人生は劇場だ」という一文です。
シェイクスピアからの引用で、当時父子でよく観劇に行っていたことから書いてくれたのでしょう。
部下をどう演出するのがいいのか、チームのためにあえて強く叱ったほうがいいのではないかなど、マネジメント職には演出力が求められることがある。
折にふれて手紙の内容を思い出していました。

2受け継いだ自分の知識や経験を、次世代に繋ぐ

忙しく仕事に励んでいたころ、父が定年退職を迎えました。
そんな父と電話で話をしていたとき、父がふと「定年まで一生懸命働いてきたけど、果たして俺は社会に何を残したんだろうか?」と口にしたのです。
その言葉に、私は自然とこう返していました。

「お父さんがいたから、僕も物流の世界に足を踏み出そうと思ったし、プロフェッショナルとして働く姿からたくさんの影響を受けた。そんな僕にも今は部下がいて、僕の指導を受けた部下たちが成果を出している。お父さんの思いは僕に、僕から次の世代の人たちに受け継がれている。これは一つの残せたものだと思うよ」と。

電話を切ったあと、改めて自分が父や上司、先輩から受け取ってきたものについて考えました。
そして、彼らに教わった知識や積み重ねてきた経験をどんどん次の世代の人たちに受け継いでいく重要性を感じたのです。
自社の枠組みにとらわれず取り組みたいと思った一方で、焦らずまずは会社の部下に受け継いでいき、50~60代になったころに活動を広げればいいのではという思いもありました。
しかし、50~60代から始めた場合、残り時間は10~20年です。
せっかく取り組むなら、今から始めた方がより多くの人にインパクトを与えられるのではないかと考えました。

起業すれば、一時的に収入が減ります。
そのことも伝えて妻に相談したところ、快く応援してもらえました。
そこで次に相談したのが、学生時代に知り合った友人です。
彼は海外で起業し、勉強の必要性を感じた30代で大学に入り直した経歴の持ち主。
「いつか起業したいね」と話していた相手で、卒業後も付き合いがありました。
一回り以上、年の離れた兄貴分で20代の自分にはない視点をたくさん与えてもらいました。

そんな彼に「起業をしたいんだけど」と連絡を取ったところ、彼は私の話を聞くと「じゃあ、俺も一緒にやろう」と言ってくれたのです。
心強い仲間を得て、起業に踏み出しました。

父親に起業を報告した際の一枚(左:父、中央:江田さん、右:友人の共同創業者)

父親に起業を報告した際の一枚(左:父、中央:江田さん、右:友人の共同創業者)

私と友人の2人で創業した会社、アトワジャパンのテーマは「人の成長」。
事業内容は経営コンサルティングや人材採用・育成がメインです。
自走できる人を育てる点を重視したコンサルティングや、キャリアに悩むビジネスパーソンの成長に繋げられる転職支援に力を入れてきましたが、2020年の新型コロナウイルスの流行を受け、人材事業の先行きが不透明に。

また、リモートワーク中心になったことで、新たな課題に気づきました。
社内での雑談などのコミュニケーションがなくなり、これまで雑談や飲み会、社内ですれ違ったときに発せられる一言二言から得られてきた学びが激減していると思ったのです。
オンラインで話すときも、要件のみになりがちで、意図せず得られていた学びの機会が失われてしまったことに危機感を抱きました。

失われた分、本を読めばいいのかというと、そう単純な話でもないと思っています。
先輩が仕事にどう向き合っているのか、やり方や思い、ちょっとしたコツなど、もっと個に紐づいた学びは、本では得られにくいからです。
コロナ禍の状況でも、こうした学びを得られる仕組みをつくりたい。

そこで、新たなアプリの企画・開発に取り組み始めました。

3自走できる人が増えれば、世の中はもっと面白くなる

アプリの名前は「cradle(クレドル)」。
cradleは、ゆりかごを意味します。
社会ですでに活躍するビジネスパーソンに今一度、幼少期の「ワクワク」「発見」を思い出してもらいたい。
新しい未来を創る「きっかけ」になって欲しい。
そんな思いがcradleのロゴとアプリ名に込められています。

cradleサービスサイト

cradleサービスサイト

cradleは、各プロフェッショナルが自分の経験から得たコツや知見を5~10日程度のプログラムにして提供してくれるサービスです。
LINEのようなチャット形式でそのジャンルに興味を持つユーザーに情報を発信し、ユーザーは1日に1~2度送られてくるコツやミッションをきっかけに考え、気づきを得られる仕組みです。

プロフェッショナルはさまざま。
戦略コンサルティングファームのパートナー、恋愛テクニックを教えてくれる元銀座のママ、子どもを泣き止ませるコツを教える保育士の方や、海外駐在社員とのコミュニケーションのコツを教える元現地法人の社長、英会話の講師の方など、いろいろなジャンルの方に声をかけ、共感いただいた方に参加してもらっています。
フリーで活動されている方も多いので、将来的に集客ツールとしても活用していただけたらと思っています。

ユーザーには、無料で多くの知見を得られ、考えるきっかけをもらえるプラットフォームとして使っていただきたいですね。
本を一冊読み切るのが難しい方でも、チャット形式による問いかけから考えることができます。
禅問答のように、問いに関して時間をかけて考えることで、得られる気づきは大きいと思います。

cradleが目指すのは成長プラットフォーム。
そのアプリを運営する自社も成長できるプラットフォームでありたいと思っています。
今、当社で実務に当たる人は基本的にその実務の未経験者です。
「やってみたい」という興味を尊重し、挑戦できる場を会社として提供することで、彼らの成長に繋げられたらと思っています。
結果的に経験した領域で一人前にならなくても、新たな世界を知ること自体が大きな学びだと思うのです。

私は、自分で考えて行動に移せる人が増えれば増えるほど、もっといろいろなことが達成できるはずだと信じています。
前職でも、部下たちが成長するにつれ、部署で達成できることが大きくなっていきました。
より大きなことを達成して面白い世の中をつくっていくためにも、世の中に自走できる人を増やしたい。
cradleを通じて、そんな世界を実現したいですね。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年9月)のものです

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