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好奇心を活かした学びを多くの人に。
幸せな人生を送れる人を増やす教育を
【Go Visions株式会社代表取締役・小助川将】

目次
  1. 娘の不登校を機に日本の公教育に疑問を抱く
  2. 人生は一度きり。息子の挑戦に背を押され、起業へ
  3. 好奇心のまま挑戦できる、新しい学びを広げたい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、子どもたちにオンライン上で学びの場を提供するサービス「SOZOW」を手掛ける小助川将さんをご紹介。

子育てをする中で、日本の教育システムに疑問を抱いた小助川さん。SOZOWが目指す新しい学びとは。お話を伺いました。

1娘の不登校を機に日本の公教育に疑問を抱く

秋田県の田舎で育ち、大学進学を機に上京しました。
資格を取っておけば将来が安泰だと思い、公認会計士の資格を取ろうと商学部を選びました。

大学3年生のときに参加した講演会で、ある実業家の話を聞く機会がありました。
当時はITバブルでビジネス界が盛り上がっている時期で、他の登壇者たちが時価総額などギラギラした話をしていた中で、その実業家は「仕事や会社は、社会に貢献するための器であり、手段なのだ」と語っていたのです。
事業を通して社会にインパクトを与えることができるのだと知り、いつか起業に挑戦したいと思うように。
その日の夜に起業や事業について調べ始めました。

学ぶのなら起業家やビジネスパーソンなど大人たちの中に入った方がいいと考え、起業家養成スクールへ参加することに。
参加者には上場企業の経営者もいました。
驚いて「もう起業をされていて上場もされているのに、なぜ?」と尋ねると、彼は「経営をする中で迷いがあるから学びに来た」と答えました。
この縁をきっかけに、彼の会社でインターンとして働くことになりました。

私の役目は議事録係。
プロジェクトについて話し合う場に身を置いて議事録を取っているうちに、自分でも案を出したくなりました。
そこで、稚拙ながらプレゼン資料をつくり、「僕にも提案させてくれ」と打診。
プレゼン機会をもらえることになったのです。

すでに結論が出ていたために私の案が通ることはありませんでしたが、プレゼンを見ていたコンサル会社の方に「面白いチャレンジをするね」と気に入っていただけ、次はそのコンサル会社でインターンをすることに。
その後、そのままそのコンサル会社に就職することになりました。

コンサル会社はハードな職場でした。
社会で正解とされる「出世」「成果を出す」といった枠組みに自分を当てはめようと努力し、もっと成果を出さねば、長時間働かなければと考えていました。
その一方で枠に自分を当てはめるしんどさも感じていました。

いつか起業をしたい気持ちもあり、新しい事業を社会に生み出している会社で働きたいと思っていたところ、縁あって大手人材会社の新規事業部門に転職できることになりました。

その会社には、「あなたのWILL(やりたいこと)は何?」と問う文化がありました。
初めて問われたとき、私はその問いに何も答えられませんでした。
仕事に「自分の意志を乗せていい」という発想をしたことがなく、衝撃を受けました。

私にとっての仕事は、与えられたミッションを果たすべく努力するものでした。
社会に出る前、学生時代も同様です。
提示されたお題をどう正解に導くかばかり続けてきたため、改めて自分のやりたいことをしっかり考えてこなかったのです。

何度考えても、自分のやりたいことが何なのか、うまく言葉にすることができませんでした。

そんな中、24歳で結婚。
娘、息子に恵まれました。
娘が小学生の頃、引っ越しをして転校させることになりました。
担任の先生は自分の言うことを聞く従順な子以外に攻撃的な態度をとるタイプで、娘と仲良くなった友達が攻撃対象になってしまいました。
娘は先生の対応を理不尽だと感じ、「学校に行きたくない」と言い出すように。

この出来事をきっかけに、夫婦で学校教育について調べ始めました。
そうこうしていると、なんと担任の先生がうつで休職するという展開に。
娘にとって学校に行きたくない原因が取り除かれたため、とりあえず不登校は解消されたのですが、日本の教育システムに感じた疑問は消え去りませんでした。

今の公教育は、先生が全てやらなければいけない仕組みになっています。
英語やプログラミングなど新しい教科が始まり、先生がやるべきことは増える一方です。
先生がギリギリのところで働いている、そんな学校に頼りきっていてはいけないのだと思うようになりました。

黒板の前に先生が立ち、子どもたちに一斉に授業をする公教育の仕組みは、工業や軍隊を強くする目的があった150年前から大きく変わっていないとも知り、今の時代には合わないのではと感じました。
どんどん教育への関心が高まり、教育分野で働いてみたいと思うようになっていきました。

時代が激変する中、子育ての正解も変わります。
親としては子どもたちがやりたいこと、興味を応援することくらいしかできない。
そこで、息子がものづくりに夢中になっていたこともあり、子どもたちにプログラミング体験に行かないかと声をかけ、一緒に行くことにしました。

プログラミング体験に参加する息子さん

プログラミング体験に参加する息子さん

この体験をきっかけに、息子はロボットプログラミングに夢中に。
メキメキと実力を伸ばして日本大会を勝ち抜き、小学校3、4年生と世界大会で連続7位になりました。

2人生は一度きり。息子の挑戦に背を押され、起業へ

子どもたちを初めてプログラミング体験教室に連れて行った4日後、教育系会社への転職希望を伝えていた人材エージェントから、その体験教室を開いていた企業を紹介されました。
10日後に面接で体験教室をしていた場に再び訪れるという巡り合わせを経て、転職。
子どもの可能性を広げる教育事業、発達障がい児に向けた事業を展開している会社の事業部長として働くことになりました。

不登校児や発達障がい児と聞くと、どうしてもネガティブな印象を浮かべてしまいがちです。
しかし、プログラミング教室に来ている子どもたちを見て、その認識が変わりました。
例えば、小学校2年生から不登校だという5年生の子が「プログラミングでAIをつくりたい」と話していたり、発達障がいがあると診断されている子が、好奇心のあることであれば他者と円滑にコミュニケーションを取れていたり。
障がい児や健常児とは何なのかと思わされました。

学校や社会に適応できていないことがダメなのではなく、日本の教育が固定化されているために「合わない」子がいるのだと知り、好奇心や興味関心の力の強さを実感しました。
教室を全国に店舗展開させたいと思いましたが、拡大は容易ではありません。
子どもの好奇心に沿った学びの場をもっと世の中に広げていきたいと、ジレンマを感じていました。

あるとき、新規事業の提案機会があり、私はテーマパークを提案しました。
遊びが学びに繋がる、新しいテーマパークです。
教育に関心の薄い家庭の子であっても、家族レジャーとして体験できるかもしれない。
家族で訪れる機会がなくても、遠足や修学旅行で体験してもらえるかもしれないと思ったのです。

人は夢中になっているとき、遊んでいる状態に近くなります。
それがたとえ学びであっても、勉強している感覚はありません。
そうやって遊んでいるときの脳波や脈拍をIT機器を用いてデータ収集し、子どもたちが何に夢中になって、何にストレスを感じたのか、その子の得手不得手は何なのかをレポートにして、その子の成長に活用できないかと考えました。

学校では5教科の偏差値が評価基準ですが、社会人として働く中で、人には5教科では測れない得手不得手がある。
そもそも、偏差値というわかりやすい指標があることで、逆に考える力を奪っている側面があると思うようになりました。
世の中にあるルールも、必要だから設けたはずなのに、いつしかその窮屈さに苦しむ結果になっているものがあります。
宇宙人が私たちを見たら、自分たちでつくったルールにがんじがらめになっている様子は滑稽に映るかもしれません。

結局この案の事業化は叶いませんでした。
会社が障がい児向け事業をメインとしていることも実現できなかった理由でしょう。
子ども全体に向けた事業となると、少しズレがあったのです。

今後の自分のキャリアに迷いを抱いていたとき、高い能力を持つ若手を育成する「孫正義育英財団」が支援メンバーを募集していると妻が教えてくれました。
息子が募集要項を満たしていたので声をかけると、乗り気になり挑戦することに。
「まずは孫さんの考えを知るべきだと思う」という息子の提案を受け、親子で孫さんの本やYouTube動画を見ることになりました。

動画の中で、「人生は一度切り」「自分の志を立てなければ」と話す孫さんの言葉を何度も聞きながら、私の人生も一度切りなのだから、やりたいことがあるなら挑戦すべきなのではないかという思いが強まっていきました。
挑戦し続ける子どもの存在にも背中を押され、起業を決断しました。

立ち上げた会社では、オンラインの学び場を展開。
イマジネーション(想像)とクリエイティブ(創造)、そしてギリシャ語で「解放する」を表す言葉から、「SOZOW」と名付けました。
「SOZOW」では学校と家庭でしか大人を知らない、狭い世界に生きている子どもたちにさまざまな大人と出会ってほしいと思い、各分野のプロが登場する「プロライブ」を開発しました。

オンラインで提供するため、画面の向こう側にいる子どもたちをどう夢中にさせ続けられるかを考えるのに苦心しました。
学習系動画は、大人でも長時間見ていられません。
特に録画されたものは夢中になれないだろうと思い、ライブにこだわることにしました。
また、アニメやマンガ、エンタメ動画など、娯楽に特化したものを参考にしながら企画をつくっています。

さらに、一方的に大人が話すのではなく、子どもに問いを投げかけることで参加意欲を高める仕組みにしました。
例えば「好きなゲームを持ってきて」と投げかけ、その後「そのゲームのどこが好き?」と尋ねる。
そもそも好きな理由を考えたことがなかった子も多く、出てくるさまざまな答えを知ることで多様性にもふれられます。

小学生から高校生まで、異学年が一緒に取り組む面白さもあります。
SOZOWの人気ライブ「プロライブ」には、大手企業の会長から海外の社会起業家、エンジニア、ゲームクリエイターなどを招きます。
自分のやりたいことに一歩踏み出した大人の話は、子どもだけではなく親御さんからも好評です。

3好奇心のまま挑戦できる、新しい学びを広げたい

SOZOWのプログラムの一部
SOZOWのプログラムの一部

SOZOWのプログラムの一部

現在も「SOZOW」でさまざまな企画を展開し、社会との接点から学ぶ機会をつくっています。
創業2周年を迎えたときには、SOZOWのクラブ活動として、子どもたちがオフィスに突撃取材に訪れました。
駅からライブ中継をしながらやってきて、自分たちでつくったスライドを投影し、バーチャル空間の中に会社の誕生日祝いのためのケーキを用意してくれました。
子どもたちが、自分たちでオンライン参加できるようにしていて、彼らの可能性の大きさに驚きと感動をもらいましたね。

今後は、SOZOWの学びのコンセプトに沿った新しいスクールもつくりたいと考えています。
自分の好奇心を活かし、学びのカリキュラムを選んでいく。
実績をつくることで社会に新たな学びの形を示せますし、不登校で悩んでいる家庭の希望にもなれるのではないでしょうか。

個人主義は日本ではわがままだと捉えられがちですが、本当の個人主義は相手の自由も尊重するものです。
しかし、自分と相手の自由を尊重する思考が根付かなかったのは無理もないと思います。
これまでの教育は、定められたことをミスなくやることで「いい子」とされ、やるべきこと、やってはならないことが多いのですから。

一人ひとりが相手の挑戦を応援できて、自分も自由に挑戦できるようになれば、20、30年後の日本は大きく変わることでしょう。
一人ひとりが自分の人生の主役です。
これからも、自分の人生を幸せだったと思える人を増やすため、学びの選択肢を社会に広げていきたいと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年9月)のものです

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