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自らを縛る「女だから」からの解放。
「2・2・1」で母親と仕事の両立を
【大田区産業振興課羽田イノベーションシティ担当・工代ゆかり】

目次
  1. 母亡きあと、「母役」を自ら背負った
  2. 公務員は予想外に刺激的な仕事
  3. 娘たちが「女だから」に縛られない未来を願って

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、大田区の羽田イノベーションシティで公務員として働く工代ゆかりさんをご紹介。

母を亡くし、「女だから家のことをしなければ」と高校生の頃から家族を支えていた工代さん。今、2人の娘を育てるワーキングマザーとして思うこととは。お話を伺いました。

1母亡きあと、「母役」を自ら背負った

5人家族の長女として生まれました。
父が仕事、母が家事育児とアルバイト。
弟が2人いましたが、「女の子だから」と家事を手伝わされることはあまりなく、家ではマンガや本を読んで好きに過ごすことが多かったです。

経済的に苦しい家庭だったため、子どもながらにお金の心配をしていました。
何かをしてみたいと思っても、お金がかかりそうだと考えて諦めることも。
高校入学後にバドミントン部に入りたいと思ったのですが、道具一式を揃えなければならない上、合宿費用もかかると知り、断念。
部活動には入らず、ファストフード店でアルバイトを始めました。

お金を理由に始めたアルバイトでしたが、店をどうすれば改善していけるのか意見を言える環境に、やりがいを感じていました。
仲間とわいわい話しながら考えるのが楽しかったです。

高校2年生になり、体調を崩しがちだった母が他界しました。
横になることが増えていたため、何の覚悟もできていない状態での急死というわけではなかったのですが、明るく、はつらつとした母の死に驚きを感じました。
自分の世界に目を向けてばかりで、どこか母の体調不良に目を背けていたことも、ショックの原因だったのかもしれません。

母の死を悲しむ一方で、まず思ったのは「明日から、誰が洗濯をするんだろう」でした。
そして、自然と「私がやらなきゃいけないんだろうな」と思ったのです。
誰かから言われたわけでもないのに、家のことは女がするものだという固定概念がありました。

親戚や周りの大人たちから、「お母さんの代わりにがんばってね」と言われることはありませんでした。
むしろ、「抱え込まないでね」と助けの手が差し伸べられていましたが、「家族の生活を母の代わりに回さないと」と気負っていました。

経済的な理由もあり、大学への進学は難しかったです。
しかし、私は大学を出て安定した職に就きたかったので、国公立大学を目指して勉強しました。
必死に勉強したものの、母の死によるショックや家事、弟たちの世話など、やるべきことが山積みで、結局現役での受験は不合格。
浪人することになりました。

浪人してしまったショック、予備校費用がかかることへのストレス。
浪人生活が始まったときの私は、精神的にどん底の状態でした。
そんなあるとき、同じ予備校に通う男の子とよく話すようになりました。
とても話しやすい雰囲気の人で、共通の好きなアーティストやマンガについて話す中で、物事の捉え方や価値観が似通っているなと感じられるように。
そこから、母が亡くなったことなど、家庭の話も打ち明けられるようになったのです。

それまでの私は、友達に心配をかけさせないよう、笑い話にできる程度の話しかできませんでした。
彼に話そうと思えたのは、価値観がすり合わせられていたことと、彼が聞き上手だったからだと思います。
勉強に励む日々を送り、なんとか希望する大学に合格できました。

自宅から大学に通っていたため、大学時代も母代わりの生活を続けました。
「家をきちんと回さないと」と思ってがんばっていたのですが、気負えば気負うほどに家族との折り合いがつかなくなっていってしまいました。
父も弟たちも、「きちんと」を求めていなかったのかもしれません。

そうこうしているうちに、就活の時期に。
安定した生活を送りたい思いから、公務員を目指すことにしました。
仕事内容自体にはあまりポジティブなイメージがなく、「事務仕事ばかりで、つまらない仕事なんだろうな」と思っていました。

無事に公務員試験に合格し、大田区の職員として働くことに。
就職を機に、家族と折り合いが悪いままだった実家を出ることにしました。
予備校で仲良くなり、私の家族事情を話していた彼と付き合い始めていたのですが、その彼も就職で実家を出ることになり、同棲することにしたのです。

2公務員は予想外に刺激的な仕事

配属先は総務課でした。
公務員の中でも特に単純作業で面白くなさそうな部署だと想像していたのに、働き始めてみると予想に反して非常に面白い部署でした。
前年踏襲をしない文化があり、入社数ヶ月の立場でも「これはおかしいと思います」と発言でき、改善策を考えられる機会を与えてもらえたのです。
区民サービスの向上に対して意識を高く持っている人が多く、改善策を考えて実行しやすい環境でした。

2年目には、これまで先輩に口頭で確認するしかなかった業務のマニュアルを作ることに。
先輩に時間を取ってもらう申しわけなさ、聞きながらメモを取る非効率さを感じていたので、作成に力が入りました。
とても楽しかったですね。

大田区は地域産業が盛り上がっているエリアです。
地域産業を応援したい気持ちが湧いてきて、産業振興課に行きたいと思うようになりました。
異動希望を積極的に言う人はあまりいないのですが、私は「行きたいです」と表明。
4年目の春、初の異動で念願叶って産業振興課への異動が決まりました。

異動後も職場の人たちに恵まれました。
疑問があるときには丁寧に答えてもらうことができ、やりたいことがあると言うと協力してもらえて、うれしかったです。

仕事をする中で、大田区の強みは、活力ある中小企業や人材が地域に多いことだと知りました。
自社だけではなく、地域全体で盛り上がっていく方法を考えている社長が多く、公民連携にも好意的でした。
打ち合わせの場では、まだまだ新米の私にも意見を求めてくれ、励みになりました。
自ら仕事を生み出してきた社長たちの話を聞くのも刺激的で、話を役所に持ち帰り、チームで何ができるか話し合うのが楽しかったです。

あるとき、先輩に勧められて経済産業省が主催する次世代イノベーター育成プログラムに参加することにしました。
社会を変える挑戦をしているイノベーターの方たちと出会い、彼らの話を聞きながら「イノベーションは起こしていかなければならないものなのだ」と思うようになっていきました。
公務員でも革新的なことをやれる可能性があると知ることができたのです。

何をやるにしても「お金がないから」と諦めてきた子ども時代とは異なり、大人になった今は生活の基盤がある。
後先を考えすぎずに、思い切ったチャレンジができるようになったと感じました。

結婚し、第1子、第2子と続けて娘を出産。
最初はフルタイムでは戻らず、家事育児中心の生活を送っていたのですが、とにかく時間がなくて大変で。
夫と一緒に子育てをしようと話していたのですが、夫は残業が多かったこともあり、自然と私が家庭内の仕事を多く担うように。
大変さは増していき、このままでは無理だと思いました。

夫につらさを打ち明け、フェアな関係で仕事と子育てができるよう、一緒に考えていくことに。
分担方法を試行錯誤し、週の平日のうち、2日は仕事や自分の時間、2日は育児、1日は家族と過ごす日と分ける方法に行き着きました。
「2・2・1」と呼ぶこの方法が私たちにはフィットし、上手く家庭が回るように。
フルタイム勤務への復帰を決意できました。

家族でタイ旅行中。たくさん遊んで、移動時間は親子で爆睡

家族でタイ旅行中。たくさん遊んで、移動時間は親子で爆睡

3娘たちが「女だから」に縛られない未来を願って

現在も大田区産業振興課で働いています。
大規模な公民連携の複合施設、羽田イノベーションシティの担当として、面白いプロジェクトやイノベーターの方を呼び、交流を生むことでイノベーションを加速させる仕事をしています。
区内産業の方に羽田イノベーションシティで始まったプロジェクトに参加してもらい、区内産業の発展を促進していくのが役目です。

羽田イノベーションシティにてお仕事中の様子

羽田イノベーションシティにてお仕事中の様子

今も夫とは「2・2・1」で仕事日と育児日を分担しています。
ただ、週5日を仕事に割けるわけではないため、母としても働き手としても、どこか中途半端だと思い悩むこともあります。

最近は、産休育休中に周りが積めていた経験ができていないブランクもあり、「人に順序だてて説明する」能力不足を突き付けられました。
もう「復職してまもないから」という言いわけもできず、仕事量と自分のキャパシティを見つめ直すことに。
人にお願いしたり、足りない力を身につけるためにアドバイスをもらったりと、リスタートを切ったところです。

子どもたちには、仕事と家庭とのスイッチのオンオフを強制的に切り替えさせてもらっています。
気持ちの切り替えが上手いほうではないので、助けられていると感じますね。

我が家では、夫が風呂入れを担当し、私がご飯作りを担当してきました。
ところが、最近子どもたちに「ママとお風呂に入りたい。パパがご飯を作ればいいじゃん」と言われたのです。
私が子ども時代から勝手に縛られてきた「女だから」という性役割意識が娘たちには根付いていないと知り、とてもうれしかったです。
このまま、性役割にとらわれずに育ってほしいと思っています。

働く親は時間がないため、効率的に物事を進めていく力が必要です。
ただ、時間に追われて苦しみながら過ごすのは悲しい。
男女関係なく、仕事、育児、自分の時間を取れる社会になってほしいです。

「2・2・1」の法則を知ってほしいとも思っています。

公務員の管理職は、まだまだ母親が少ないと感じています。
私が仕事でステップアップしていく姿を見せることが、後輩たちの励みになったらうれしいですね。
娘たちが大人になる頃には、親が追い詰められずに働き続けられる社会であってほしいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年8月)のものです

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