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時間に追われて「今」に集中できない。
自分らしさを大切にできる社会の実現を
【「ありのままの私」を応援するキャリアコンサルタント・川口まどか】

目次
  1. 悔しさをバネに努力すれば、高みにいける
  2. 「今」を見つめる大切さに気づいた
  3. 「自分だけの基準」を探す道のりを伴走したい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、フリーランスのキャリアコンサルタントとして活動している川口まどかさんをご紹介。

ワーキングマザーとして育児と仕事を忙しくこなす日々を送っていた川口さんに、「未来ではなく、今の自分を満たす大切さ」を考え直すきっかけが訪れます。川口さんが、キャリアコンサルタントの仕事で成し遂げたいこととは。お話を伺いました。

1悔しさをバネに努力すれば、高みにいける

私は負けず嫌いで、7つ年上の姉に対抗しようと、姉と同じものを持ちたいと言い張ったり、こっそり姉のものを使ってみたりして怒られていました。
敵うはずのない姉に対して「負けるもんか!」と思っていましたね。

自分を曲げないタイプだったので、中学に入って先輩から「スカートが長すぎる」と文句を付けられたときも、黙って引き下がらず「なぜダメなんですか?」と聞きました。
「後輩なのに生意気じゃん」という返答に納得できなかったので、言われた場では丸く収めておきながら、その後も何も言われなかったかのように長いスカートを履き続けていました。

いいと思ったことはいいし、悪いと思ったことは悪い。
自分が思うことが全てだったのですが、徐々に他人がどう思うのかを気にするようになっていきました。
自分と人とを比べることで劣等感を抱き、昔よりも思ったままの言動ができなくなっていきました。

中学校では、剣道部に入りました。
小学生のときから習っていたのですが、まったくレギュラーになれず、ひたすらトレーニングを繰り返し、試合の応援をしているだけ。
それでも諦めず、目の前のトレーニングをこなしながら、どうすればレギュラーになれるのかを考え、試行錯誤していましたね。

自分の強みを考え磨いていった結果、中3で初めてレギュラーに選ばれ、決勝戦に進めました。
決勝の相手は、同じ部活の主将であり、友達。
私と一緒に小学生時代に剣道を習い始めた子でした。
一緒にスタートしたはずなのに、3年間で差を付けられてしまったことが悔しくて、「この子には負けたくない」と強い気持ちを持って試合に臨みました。

面を付けると、自分ではない自分になるような感覚があるんです。
もちろん緊張していたのですが、スイッチが切り替わり、集中モードになりました。
思考するよりも先に体が動くんです。
雑念なく戦い、延長戦を経て優勝。
うれしかったですね。

中学生のときの剣道部時代のお写真。手前後ろ姿が川口さん

中学生のときの剣道部時代のお写真。手前後ろ姿が川口さん

周りにできることが自分にできないわけがないと思い、努力を重ねてきた末の優勝でした。
「ナニクソ!」と思いながら努力をすれば高みにいける、成功できるんだという思いが、あらためて方程式として自分の中に成り立ちました。
自分がやってきたことに自信が持てた瞬間でしたね。

私立大学の付属高校に入学し、そのまま深く考えず付属の大学に進学。
自分を表現できる仕事をしたいと思い、クリエイティブで華やかなイメージがあった広告代理店やテレビ局に絞って就職活動をしました。

しかし、入社した広告代理店で任された仕事は事務的なものばかり。
さらに、上司や先輩の元で働く中で、社会人は自分が正しいと思ったことでもそのまま言ってはいけない、やりたいことをやってはいけない立場なのだと感じました。

自己表現をする際は、会社や社会的に「いい」とされる基準に沿っているかどうかを確認した上で表現する。
これが社会人にとっての正解だと知り、カルチャーショックを受けましたね。

例えば、日誌に書く文字の大きさに対し注意を受けたことがありました。
学生時代に「字はしっかりはっきり大きな字で書くこと」と教わってきたため、日誌も大きな字で書いていたところ、先輩に「そんなに大きく書かなくていい」と注意を受けたんです。
小さなことですが、私にとっては驚きでしたね。
そんな、これまでの価値観を覆される指摘を数多く受けました。

指摘された内容に、内心「おかしい」と思うところもありながらも、「社会に出ると、今までの常識が通らないことがあるんだな」と捉えました。
自分とは違うものの見方や基準があるといい意味で気づかされましたね。
違和感を口にすると先輩や上司から指導してもらえなくなるのではという恐れもあり、学生時代のように「おかしくないですか」と口にすることはなかったです。

ただ、先輩の方針に全て従っていたわけではありませんでした。
営業として相手とコミュニケーションをとるとき、先輩はビジネスとして一線をきっちり引くタイプだったのですが、私はもう少しオープンな姿勢でアプローチをしたかったんです。
先輩の言うことも理解できましたが、私一人で営業に行くときは私のスタイルでといった具合に、うまく自分のやり方を通す部分もありました。

仕事に慣れてきた4年目、家の近くにある劇団が無性に気になるようになりました。
出社するときに目の前を通っていたこともあり、徐々に興味が湧いてきたんです。
自分の想いを表現したり伝えたりといったことに飢えていたのかもしれません。

思い切って訪ね、「社会人でも入れますか?」と聞いてみたところ、「いいですよ」と言ってもらえました。
小中学生がメインの劇団だったのですが、一緒に活動させてもらえることになったんです。

平日は仕事をしながら、土日に劇団に通う日々を過ごしました。
活動期間は2年間で、最後に卒業公演が控えていました。
卒業公演に出るには、平日にも稽古をする必要があり、仕事との両立が難しくなったんです。

卒業公演に出なければ劇団を卒業できないわけではありませんでしたが、2年間の活動の集大成である卒業公演をやり遂げることが自分にとってのけじめで、自分を満たすために優先させたいことだと思いました。

仕事は楽しく、会社を辞めたいわけではありませんでしたが、「今を逃したら活動の集大成を迎えられなくなってしまう」という怖さのほうが大きくて、退職を決意。
卒業公演をやり切ったあと、演劇関係のチケット取り扱い会社の営業職に転職しました。

2「今」を見つめる大切さに気づいた

結婚して8ヶ月間は専業主婦として過ごしました。
最初は楽しんでいたのですが、1~2週間で飽きてしまって。
私には自己表現できる場所が家庭外に必要だと実感したため、就職して働くことにしました。

結婚して数年経ち、子どもを産みたい思いが強くなったのですが、なかなか授からず、自分で不妊治療について調べて妊活を進めていきました。
今までの経験から、目標を定めて頑張っていれば絶対にうまくいくはずと思っていたんです。
病院を変えながら体外受精を10回以上行い、ようやく妊娠。
無事に出産を迎えられました。

仕事のポジションがなくなってしまう焦りから、早々に保育園に子どもを預ける準備を開始。
入園の可能性を高めるために倍率の低い地域に引っ越しをしたほどです。
努力の甲斐あって、生後8ヶ月で保育園に預けて仕事復帰を果たしました。

お子さんとの一枚

お子さんとの一枚

「仕事に早く慣れないと」と焦りながら、年齢を考えると2人目の妊活も急ぎたい。
不妊治療を開始したところ、2人目は割とすんなり授かることができました。

仕事では後輩の指導も加わり、時間に追われた生活を送っていました。
でも、できないとは言いたくなかった。
「できると思えばできる」と言い聞かせ、自分を奮い立たせていましたね。

妊娠7ヶ月目のある日、突然おなかが痛くなり動けなくなってしまいました。
1週間後、陣痛レベルの痛みがきて病院に行くと、先生に「もう生まれます」と言われ、「受精卵をおなかに戻したときから、おそらく先天性の異常があったのだと思う」と説明されました。
「生まれても長くは生きられないし、障がいを持って生まれてくることになる」と言われましたが、まったく理解が追い付きませんでした。

翌日、赤ちゃんは生後8時間で亡くなりました。
いろいろな思いが錯綜し、考え続けていましたね。
育児や仕事にかかりきりで、おなかの赤ちゃんにあまり心を傾けてあげられていなかったとか、赤ちゃんはどう思っていただろうとか。
1ヶ月くらい経ったとき、友達が同じような境遇の方の本を贈ってくれ、読みながら少しずつ気持ちを整理していきました。

今までがんばってきたのに、なんでこんなことになったのだろうという思いが強かったですが、早期流産してもおかしくなかったあの子が、私の元にわずかな時間でも生まれてきてくれた意味を考えるようになり、少しずつ前を向けるようになっていきました。

赤ちゃんは、おなかにいる自分にもう少し心を寄せてほしかったと思っていたかもしれません。
未来で結果を出すために、「今」無理している私に、今の幸せも大切にしてねと伝えてくれたのではないかと思うようになっていったんです。
これまでやってきたことは、なんだったのか、これからやろうとしていることは正しいことなのか、立ち止まって考えるようになりました。

私は、今の自分を満たして幸せに生きたい。
その生き方を実現させるために自分のキャリアを見つめ直していると、「そもそもキャリアとは」「幸せとは」といった範囲にまで問いが広がっていきました。

また、自分のキャリアについて考えていくうちに、私のように迷い続けている人や、「今」に目を向けられていない人がいるのではないかと思うようになりました。
そんな人たちの答え探しを手伝いたいと、キャリアコンサルタントになることを決意。
勉強して資格を取り、開業しました。

キャリアコンサルタントとして独立して数ヶ月後、オンラインキャリア講座を受けました。
講座を終えた私に、講座運営者が「一緒にやりましょう」と声をかけてくれました。
経験不足もあり、どうしても自分に自信が持てなかったところに、「そのままのあなたでいいんです」「チームとして、ぜひ力を貸してほしい」と言われたことで、私は私でいいんだと自分自身を受け入れられるようになったんです。

3「自分だけの基準」を探す道のりを伴走したい

現在は、フリーランスのキャリアコンサルタントとして、キャリア相談を受けたり、オンラインキャリア講座のコンサルタントを務めたりしています。
私の仕事の根幹は一対一で目の前の方のお話を聞くこと。
だからこそ、自分自身のコンディションを整えるよう意識しています。

子どもを育てながら仕事をしていると、育児中に仕事のことがちらついたり、仕事中に子どものことが気に掛かったりと、心が落ち着かない状態になってしまうことも。
その心のざわめきは、いくら目の前の方に集中しようとしていても伝わってしまうと感じるんです。
今、目の前のことに集中するためにも、自分を整えて100%聞ける状態を保つことが重要だと思うようになりました。

取り入れているのは、瞑想とジョギングです。
瞑想は、Facebookで「ステイホーム中に瞑想をしている」という投稿を見かけ、参加したのがきっかけ。
自分にフィットしていると感じたため、1年ほど続けています。
忙しさからつい浮き足立ってしまう自分を「今」に集中できる状態に引き戻せる感覚があります。
仕事や人間関係に、いい影響が出ていると感じますね。

ジョギングはコンサルティングでご縁のあった方に影響され、2021年から始めました。
私が学んでいるNLPという心理学で、心の状態は体からアプローチすることで整えていけると教わっていたこともあり、体を動かして心が落ち着くのか試そうと思ったんです。
ジョギングも私には効果がありそうなので、子どもの送迎や買い物のときに走っています。

私がそうであるように、特に育児中の女性は仕事に家事に育児と、時間に追われることで心と体がちぐはぐになってしまうことがあると思っています。
そういう方が、地に足を付けられる、「今」に集中できる環境を整えるサポートをしたいですね。

キャリアコンサルタントだからといって、相談をしてくださる方のキャリアの正解を持っているわけではありません。
まずは自分の心身を整えて、自分の基準を自分で決めていくしかないんです。
でも、「私はこう思う、こうしたい」と答えを出すことに対し、いいことだと思っていない人が多いと感じています。
外から「これが正解です」と言われたことに従うことが正しくて自然だと思っているのでしょう。
私は、そうした方たちに、まずは「自分で決めていいんだよ」と伝えたいです。
そして、その人が答えを決めていくまでの道のりを伴走したいですね。
今はまだわからなくても、わからないなりの自分の基準をつくっていければいいと思っています。

また、心のケアにも関心を抱いています。
幼い頃から信じてきた自分の価値観や基準は、小学校や中学校でいろいろな子と出会う中で、「それは違う、おかしい」と曲げられてしまうことがあります。
それまではありのままで認められていたのに、突然ダメだと突き付けられてしまうんですよね。
「自分の基準を無理に曲げなくても、あなたはあなたでいいんだよ」と認められる環境や社会を何らかの形でつくっていきたいと思っています。

「これからの社会で必要になるのは、勉強ができることを表すIQ(Intelligence Quotient)の高さよりも、心の知能指数であるEQ(Emotional Intelligence Quotient)の高さ」と言われるように、今後、ますます心は人との繋がりや個人の幸せにとって大きな割合を占めていくと思っています。
そんな心や感情部分のケアもしていきたいですね。
もしかしたら、教育領域の活動かもしれませんが、キャリアと何かしらの形で繋げていけるのではないかとも思っています。
まだ漠然としていますが、私ができる役割を果たしていきたいですね。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年7月)のものです

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