シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

子どもに「孤食」をさせたくない。
冷凍幼児食が与えてくれる親子の時間
【homeal株式会社代表取締役CEO・鬼海翔】

目次
  1. 子どもの乳児湿疹が「食」に向きあうきっかけ
  2. 子どもが親と一緒に楽しめる食事時間を提供したい
  3. 親子の10年間を支えるサービスへ

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、親子で一緒に食べられる冷凍幼児食サービスを提供する鬼海翔さんをご紹介。

仕事一辺倒で家事育児のほとんどを妻に任せきりの「ダメな父親」だった鬼海さんは、乳児湿疹に苦しむ子どもと向きあう中で、食の大切さを考えるようになります。その後、安心して親子で食べられる食事を提供するサービスを自ら立ち上げました。鬼海さんのサービスにかける思いとは。お話を伺いました。

1子どもの乳児湿疹が「食」に向きあうきっかけ

コンサルティング会社で働く私と、看護師の妻。
共働き家庭なのに、私は育児も家事も9割9分を妻に任せている「ダメな夫」でした。

子どもが1歳になる頃に乳児湿疹になり、家庭はよりハードな状態になりました。
かゆみのせいで夜泣きがエスカレートしてしまい、親子共に連続で眠れるのはよくて2時間ほど。
子どもの顔は爪でかきむしるせいで血だらけで真っ赤になってしまって。
肌が弱い自分の体質が遺伝したのかもしれないという申し訳なさでいっぱいでした。

なんとかしてあげたいけれど、看護師の妻と保育士の義母と比べ、私には何の知識もありません。
まさに戦力外という言葉がぴったりな状態で、子どもにも妻にも何もしてあげられることがなく、不甲斐なさでいっぱいでした。

妻や義母のケアの甲斐があり、数ヶ月後には1番ひどい状態を乗り越えました。
そうして迎えた2019年のゴールデンウィークの10連休。
妻は連休関係なく仕事なので、初めて私と子どもが2人きりで日中何日間も過ごすことになりました。
朝は納豆ご飯、昼はうどん、夜は妻が帰宅後に作ってくれる、といった具合で、自分で料理をしていたとはまったく言えませんが、それでも育児をしながらの料理の負担をひしひしと感じたんです。

食事中に遊び始めてしまって、納豆でテーブルや服をべちゃべちゃにされたり、床に落とされたものを掃除しなければならなかったり。
献立を考えて買い物に行って、キッチンに入ってきてしまう子どもを止めながらなんとか一生懸命ご飯を作る。
それでも、食べてもらえなかったりします。
まだ自分のペースを守りながらやれる掃除や洗濯とは違い、食事は完全に子どもペースな分、精神的なストレスがかなりかかるものだと実感しました。

長男が食事をとっている様子

長男が食事をとっている様子

また、子どもの食事に向きあう中で「肌の病気を治すには、薬のような対処療法だけではなく、子どもが体に入れる食べものや飲みものも大切なのではないか。それなら自分でも考えて工夫できることがあるのではないか」と思ったんです。
調べてみると、離乳食を卒業した子どもが食べるものが「幼児食」と呼ばれるものだと知りました。
10冊ほど幼児食の本を買い込んで読んだところ、幼児食は離乳食ほど一般的に認知されておらず情報にもバラツキがあることを知りました。

ネットで幼児食と調べても、出てくるのはレシピばかり。
でも、私のように料理があまり得意ではない人間にとっては、レシピ通り作るのがそもそも難しいんですよね。
離乳食なら、いざというときに市販のベビーフードに頼れますが、幼児食には仕事で忙しいときや体調不良のときに頼れるサービスがないと分かり、それならば自分で「すぐに食べられる幼児食を届けてくれるサービス」を作ろうと思ったんです。

2子どもが親と一緒に楽しめる食事時間を提供したい

最初に考えたのは、個包装で子ども用の冷凍食品を作ることでした。
子ども用1食分で1パックずつ使えるほうが便利だと思ったんです。
しかし、何人かの管理栄養士さんや保育士さんに話を聞く中で、「子どもだけが食べる冷凍幼児食は、オススメできません」と言われました。
「自分だけ別のご飯を食べることは、子どもにとって寂しいこと。孤独の孤に食と書く、孤食と言われるものなんです」と教えてくれたんです。

確かにその通りだと思いつつ、自分が子どもの頃の家族との食事の様子を思い出しました。

小学生の頃、病気がちだった母の見舞いの行き帰りに、父と高速のサービスエリアに立ち寄ってご飯を食べるのが恒例でした。
父はいつも私が好きなものを食べさせてくれていたのですが、ある日「ごめんな、今日はお金がないんだ」と言い、手持ちのお金できつねそばを買って1杯のそばを分け合って食べたんです。
そのきつねそばの美味しさは今でも記憶に残るほど特別なものでした。

同じものを親と食べて、「おいしいね」と言い合った記憶は子どもにしっかり刻み込まれるのだと思い返しました。
私がやりたいのは孤食を助長するサービスではなく、平日の忙しい中でも料理の時間や負担を減らすことで、親が子どもと一緒に食事をとったり食後に30分でも1時間でも愛情を注げる時間や気持ちの余裕を作ること。
そのため、大人・子どもの1食分ずつを一緒にパックにした世の中にない冷凍幼児食を提供するブランド「homeal」を作ることにしました。

両親の写真。中心が鬼海さん本人

両親の写真。中心が鬼海さん本人

母は私が10歳のときに白血病で亡くなり、一緒に食事をした記憶は残念ながらありません。
それでも私を愛してくれていたと強く信じられているのは、母がしっかりと愛情を注いでくれていたからだと感じています。
homealを設計する中で、あらためて母への感謝の気持ちも湧き上がりました。
親として、我が子に寂しい食事をさせたくないとも思いました。

次に、どうすれば冷凍食品を作って販売できるのかを調べるため、「冷凍 専門家」とネット検索し相談できそうな会社に問い合わせました。
その会社は最新の冷凍技術に精通していて、冷凍食品の開発支援を手掛けており、「冷凍の幼児食を作りたい」という私の話に興味を示してくれました。
世の中にない幼児食の冷凍食品への挑戦、スタートアップのサービス開発という点にも関心を寄せてくれたようです。
初対面で意気投合し、冷凍技術面のアドバイザーを依頼。
次にお会いしたときに契約を結ぶといった、とんとん拍子の展開でした。

これらは、全て2019年のゴールデンウィーク後の5、6月に行ったことです。
7月頃には当時在籍していた会社にも活動内容を話し、「年末に退社します」と伝えていました。

会社員生活と並行しながらスピード感を持って進められたのは、これまで経験してきた新規事業コンサルティングのおかげです。
「社会やビジネスを幅広く知りたい」と思って大学卒業後に選んだコンサルティングの仕事が、自分の起業にも役立ちました。
他にも、食品衛生責任者の資格取得や食品の製造販売に関する法律や制度の勉強、自宅でのサンプル商品作り、製造委託先のメーカー探しなど、必要な仕事をどんどん進めていきました。

そして9月、母親の誕生日に会社を設立。
「home」と「meal」を合わせた造語「homeal」を社名とサービス名にしました。
母親の命日である10月10日には、クラウドファンディングを利用して先行販売を開始。

私は、母がいつもどこかで守ってくれて幸運に恵まれた人生を送ってきました。
大学入試の選択問題が全然わからず、えんぴつ転がしの運で合格を手にしたり、大事な場面の選択では人の縁に恵まれて助けられたりといったことが多く、母が自分を守ってくれていることを実感してきました。
だからこそ、母の命日にクラウドファンディング開始を間に合わせ、サービスを始めたかった。
この期間は分刻みで動き続けた数ヶ月間でしたね。2019年末に予定通り会社を辞め、現在はhomealの活動に専念しています。

3親子の10年間を支えるサービスへ

サービスを構想した2019年5月から今に至るまでずっと考えているのは、「homealの開発5ヶ条」です。

考えるようになったきっかけは、日清食品の創業者・安藤百福さんがチキンラーメンを開発するときに5つの目標を掲げていたと知ったことでした。
事業コンセプトが固まりきっていなかった5月から、提供したい価値やサービスをスマホのメモアプリに書き、整理し続けてきました。

最新のhomealの開発5ヶ条は「美味しいこと」「栄養があって安全なこと」「簡単であること」「冷凍で保存できること」「親子で楽しめること」。
あらゆる意思決定において、この5ヶ条からブレないことを大切にしています。

homeal BOX 幼児食カスタマイズセット

homeal BOX 幼児食カスタマイズセット

今後は、自宅用の食事に留まらず、お出かけ先の食事にもサービスを広げていきたいと思っています。
外食時、よく子どもが食べるお子さまランチの多くが、昔ながらの炭水化物中心メニューから変わっていないままだと気づいたからです。
工夫次第で栄養面も良いものを実現できるはず。
そこで、有名ホテルさんと共同開発する話を進めています。

さらに、将来的には食だけではなく、子ども個々に合わせたサービスを提供できるようになります。
まずは栄養や健康に関するデータをアプリケーションで集め管理するところから入り、ゆくゆくはぴったりな食事だけではなく、運動・睡眠・医療・教育など、さまざまな領域で我が子に合ったものを届けられる仕組みを作りたいですね。

0歳から10歳までの10年間は、私が母と過ごせた期間であり、子どもが親と密でいられる時間だと思っています。
この10年間の子育てを、不安なく過ごせるプラットフォームにしたい。
限られた親子の時間を、できるだけ濃密に過ごしてほしいと願いながら、これからもサービスを育てていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年6月)のものです

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ
ご協力ありがとうございました
Related Stories

関連ストーリー

この記事を読んでいる人は、こんな記事も読んでいます
シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

マイマガジン

旬な情報をお届け!随時、新規ジャンル拡充中!