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肌トラブルは人生の楽しみを損なう。
和紙製の心地いい肌着で、豊かな人生を
【MIZANI株式会社代表取締役・佐野幸策】

目次
  1. 寝食を忘れるほど仕事に打ち込んだ
  2. 皮膚疾患に苦しむ子どもをなんとか楽にしたかった
  3. 心地いい肌着は、日々の幸福度を上げる

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、和紙を使った肌に優しいインナーウエアブランド「OneLuck(ワンラック)」を手掛ける佐野幸策さんをご紹介。

子どもが乳児湿疹に苦しむ姿を見て、肌に優しい肌着を作ろうと思い立った佐野さん。佐野さんがブランドに込めた思いとは。お話を伺いました。

1寝食を忘れるほど仕事に打ち込んだ

大工職人の父親を見て育ち、職人に憧れを抱いていました。
中学校の通学途中にある洋服直し専門店で男性が作業をしているところを見かけたこと、世界を代表するファッションショーの様子をテレビで観たことをきっかけに、「パリコレのような大舞台でモデルが着る洋服を作りたい」と思うようになりましたね。

その夢を叶えるため、服飾専門学校に入学。
デザイン画を元に型紙を作る「パターン」と呼ばれる作業をメインに勉強していました。

卒業後は、パタンナーのアシスタントや、同級生が立ち上げる新ブランドのパタンナーとして必死に仕事に取り組みました。
社会人7年目、また別の会社にパタンナーとして転職。
子どもの頃の夢だったパリコレやミラノコレクションにブランドが進出している会社で、これまで以上に仕事に没頭しました。
寝食を忘れるほどといっても過言ではなかったです。
「好きなことがない」「やりたいことがわからない」「生活のために割り切って働く」という人もいますが、なぜそんなことを言うのかわからないくらい仕事一筋でしたね。

20代前半の頃の佐野さん

20代前半の頃の佐野さん

ただ、仕事に集中するあまり恋人とのデートに遅刻してしまうことも多く、恋人に叱られながら、自分でも「プライベートがおろそかになっている状態はどうなんだろう」と小さな疑問が浮かぶようになりました。
また、付き合いの中で恋人の友人とも遊ぶようになり、仕事一筋ではない人の価値観に触れるようになったことで、本質的な人の幸せについて考えるようになっていきました。

私のやりたいことが服作りであることに変わりはありませんが、仕事に自分の時間全てを注ぎ込み続けるのは、果たしてどうなんだろうかと自問自答しました。
また、恋人や友人と関わる、一見クリエイティブに関係ない時間が、私に多様な価値観を教えてくれることも知りました。
仕事以外のことに使う時間が、自分の考え方に幅を与えてくれる喜びを実感したんです。

自問自答を繰り返し、35歳で独立を決意しました。
個人事業主の屋号は「MIZANI」。
スワヒリ語で「バランス」という意味で、人間は生きていく中でバランスが重要であり、釣り合いのとれた生き方を作っていきたいという思いを込めて名付けました。

ただ、20代から独立まで寝食を忘れて仕事に没頭できたこと自体は、私にとって幸せで恵まれていたことだと思っています。
一生のうち、1つのことに徹底的にのめり込み、クオリティを永遠に探究し続ける毎日を過ごせることは、そうそうないと思うからです。
仕事一筋の12年間を過ごせ、ある意味で「やり切った」と思えたからこそ、ワークライフバランスを考え直そう、と思えたのではとも感じます。

独立を決めたものの、一人でやっていける基盤ができた自信は全然ありませんでした。
独立前に「独立するから、仕事を依頼してほしい」と周りに話していたわけでもなかったため、1年目は必死でしたね。
昔取引をしていた人に再会し、近況を話す中で独立したこと、取引先がないことを話し、仕事の紹介をいただいたこともあります。
前職でやっていた仕事が有名なコレクションブランドだったこともあり、縁に恵まれたのでしょう。

会社勤め時代と同じく、朝から晩まで働く生活が続きましたが、恋人時代にデートの遅刻をとがめていた妻からは何も言われませんでした。
口で「仕事が好きで、朝から晩まで働いている」と伝えるのと、一緒に暮らし始めて生活を見るのとでは、理解度が違ったのだと思います。
結婚したときは私も妻も無職状態だったこともあり、必死だった部分もありました。

大変でしたが、「自分でやっているんだ」という実感が持てることがうれしかったです。
アパレルには年に2回ほどサンプル品が並ぶ展示会があり、自分が出したものが売れた実績が積み重なってくると、「これ、俺がやったんですよ」と話せるのが楽しいし、うれしいんです。
取引先が喜んでくれ、仕事が増える。
生きがいを感じましたし、突き詰めて仕事をしてきたことが間違っていなかったといううれしさもありましたね。

ただ個人事業主として独立するだけではなく、「いつか自分のブランドを打ち立てたい」という思いも抱いていました。
大工職人の父が自分の腕一本で食べている姿を見ていた影響もとても大きかったです。
ただ、どのような意図でブランドを打ち出すのかが明確化できず、ブランド立ち上げには着手できませんでした。

2皮膚疾患に苦しむ子どもをなんとか楽にしたかった

38歳のときに子どもが生まれました。
乳児湿疹がひどく、爪で肌をかきむしり血がにじんできてしまう。
見ていてかわいそうだと思っていました。

皮膚疾患がひどい人は、好きなことをしている時間にも肌のかゆみや痛みが襲ってきて、「楽しい」を邪魔されてしまいます。
人生の大切な瞬間を奪われてしまうのは、非常に大きなマイナスです。
1日1時間奪われていると考えると、80歳まで生きる人で2年半ほどを失っている計算になり、健康寿命が短くなることと同じだと考えるようになりました。

子どもの苦しみをなんとかしてあげたい。
医療の専門家ではない私にもできることとして、食事や肌に触れるものについて気をつけるようになりました。

お子さんが生まれたときの様子

お子さんが生まれたときの様子

私はアパレル業界の人間ですから、小児科医や皮膚科医よりも繊維の知識や業者との横の繋がりを持っています。
医師が言う「肌にいい素材はコットン」という言葉に縛られず、本当に肌にいい素材を見つけてインナーウエアを作ろうと動き始めました。

まず、「肌にいい原料」と言えるエビデンスを得るため、第三者機関にさまざまな素材の数字を調べてもらいました。
その結果、和紙が優れているとわかりました。
特に、消臭効果や制菌効果はコットンの2.5倍と非常に高く、紙なので吸水性がよく、速乾性もある。
動物性の繊維ではないため、虫食いの心配もありません。

さらに面白いと思ったのは、土に還るスピードの早さです。
和紙の原料であるマニラ麻は、コットンで2年半ほどかかるところ、3ヶ月で土に還ります。
繊維として使えるまでの成長期間も、約2年半と極めて短い。
環境負荷の面においても非常に優れているんです。

「紙が原料」「環境にも優しい素材」は、ブランドのフックにできますし、インパクトも十分。
世の中に広げていけるブランドにできると思いました。

試行錯誤の上完成した、和紙から作られた生地

試行錯誤の上完成した、和紙から作られた生地

ただし、検査でわかったのは、あくまでも数値面での優位性。
肌着にするには肌触りの良さを改善する必要がありました。

紹介された商社を訪れましたが、取引先はおろかマーケットすらない個人事業主だったため、まともに対応してもらえませんでした。
そこから何度も会いに行き、メールで連絡を取り、徐々に関係を築いていきながら、まずはロンパースの制作に取り掛かりました。
そして、和紙とコットンを使ったボーダータオルを取り扱いを開始。
自分で仕入れて在庫を抱え、あちこち営業に回りました。

素材の良さを理解してもらいやすくなったのは、営業先のホテルからの依頼がきっかけでした。
「オリジナルカラーに染められるなら使いたい」と言っていただき染めたところ、自然と濃淡のボーダーに染め上がったんです。
和紙のほうが吸水性が高いため、コットンよりも染料をよく吸い、和紙部分だけ濃く染まるんです。
目に見える形にできたことで、営業トークにも繋げられるように。
毎月売上を作れるようになったことで、商社からの信用も得られました。

肌着作り開始から2年半の試行錯誤を経て、ようやく生地が完成。
2019年11月、資金集めとブランド認知度向上のためにクラウドファンディングを行いました。
PR活動の知識がなく何も発信してこなかったため、ゼロからのスタートでした。
入っていたオンラインサロン内のメンバーや取引先に「実はこんなことをやります」と周知活動を重ね、なんとか達成できましたね。

完成した生地をもとに作ったタオル

完成した生地をもとに作ったタオル

ブランド名の「OneLuck」には、「大きい幸せを掴むためには、小さな一つひとつを積み重ねていくことが大切」という思いを込めました。
例えば、OneLuckを世界に通ずるブランドにするためには、商品を揃え、まずは日本、せめて首都圏や東京だけでも認知され、どこかで常に売れている状態を作らなければなりません。
何事も一つひとつを積み重ねることで、本質的な幸せを掴めるのではないかと思っています。

3心地いい肌着は、日々の幸福度を上げる

現在は、OneLuckの製品をどう売っていくのか、どう認知度を上げていくのかといった取り組みにも力を注いでいます。
今は自社ECサイトのみで販売しているのですが、一緒に取り組んでくれる卸会社がいないか探しているところです。
また、肌への良さや環境に優しいといったブランドメッセージを活かして、アパレルや雑貨など、コラボレーションして何かできる会社が見つかれば、ぜひ一緒に取り組んでみたいとも思っていますね。

OneLuckの製品、ボーダー和紙バスタオル

OneLuckの製品、ボーダー和紙バスタオル

インナーウエアは、オシャレに関係なく毎日身につけるものです。
そのため、アパレルというよりも、ライフスタイルのくくりに入る存在だと思っています。
大昔、シルクが衣類として登場したとき、当時の人々は驚き、日々の幸福度がぐんと増したのではないかと思うんです。
それと同じように、肌着の基準が上がれば幸福度も上がると考え、OneLuckが今の生活の幸福度を上げる入口になったらいいなと願っています。

また、衣から離れた食領域にも和紙素材を活かせる可能性があります。
土に還るスピードの速さ、吸水性の良さといった和紙素材の特徴は、農業にもアプローチできる。
今、具体的に進めるための方法を模索しているところです。

さらに、将来的には海外展開も目指しています。
エコロジーへの意識は、まだまだ国内よりも海外のほうが高いですし、和紙という日本の素材を使っているインパクトも活かすことで、うまく広げていけるのではないかと思っていますね。
そのためにも、まずはOneLuckを知ってもらわなければならず、英語での発信も開始しました。
1ヶ国ずつでいいので、少しずつOneLuckを世界に広げていき、心地いい肌着で人生をもっと笑顔で過ごせる人が増えてほしいと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年6月)のものです

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