1父親の子育ては人生を彩り豊かにする
僕は、父親の子育ての普及・啓発を進めるNPO法人ファザーリング・ジャパンの代表理事として活動をしています。
講演活動や子育てワークショップを通じ、父親が笑顔で子育てすれば家族が幸せになり、父親自身の人生も豊かになることと、仕事にも好影響があることを伝えています。
僕は、35歳で結婚し子どもが生まれるにあたって、初めて父親としてどうあるべきかを考えるようになりました。
実家の父親は昭和時代の価値観を持った人。
あまり家事はやらず、遊んでもらった記憶もほとんどありません。
家ではいつも仏頂面で、「なんでこの人は家で笑わないんだろう」と子どもながらに思っていましたね。
「親にはもっと楽しく生きてほしい」と考えたのを覚えています。
そんな環境で育ったせいか、自分が父親としてすべきことについて見当もつきませんでした。
とりあえず勉強はしておこうと、出産や育児に関する本を読んだり、保健所が開催する両親学級に足を運んだりしました。
数ヶ月後、娘が生まれました。
平日は仕事をこなし、週末は里帰り出産をした妻の実家で過ごす日々を送りました。
しかし、しばらくしてこのままでいいのかなと思うようになりました。
中学生のとき、大ファンだったジョン・レノンが、子どもが生まれるときに音楽活動を休止して育児をすると宣言したことがカッコいいと思い、将来はジョンみたいな父親になれたらいいとぼんやり考えていたんです。
「週末だけしか僕は育児できていない。何をやっているんだろう」と思いましたね。
けれども長期に渡って仕事を休むことは難しかったので、日々お風呂や寝かしつけなど自分にできることをやっていきました。
しかし、なかなか育児や家事の時間も取れず、妻からの反応も良くありません。
責任ある仕事を任されているし、子どものことで会社を休むのは申しわけない、と子どもができて3年くらいは悩みました。
いろいろな人に会ったり本を読んだりする中で「人生は天秤じゃなくて、寄せ鍋なんだ」と気づきました。
仕事と子育てを天秤にかけるのではなく、寄せ鍋の具材のように仕事や子育てを一緒くたにして、ライフバランスを取ればいいんだと。
この先、子育てをする中で地域活動など新しい具材も増えてくる。
何事も真面目に全力で取り組むのではなく、7割くらいで全てのことに取り組めば人生が彩り豊かになるのではと思ったんです。
僕は講演で「寄せ鍋型のワーク・ライフ・バランス」を提唱しています。
寄せ鍋は新しい具材が入ることで味が深まります。
それと同じように人生もいろいろな要素を取り込んでいくことで味わいが深くなると思うのです。
仕事と子育てのどちらかを取るのではなく、互いの要素を取り込んで相乗効果を狙えばいい。
講演会の様子
そこに趣味も取り込んでいけば、さらなる相乗効果が生まれます。
僕の場合、育児でハマった絵本の読み聞かせと趣味のギターをブレンドして、バンドで絵本の読み聞かせを始めました。
仕事、子育て、趣味、全てを鍋に放り込んでいく感覚で楽しむことで笑っている父親に近づくと思っています。
また、自ら子育てをする中で「日本はなんで子育てをしづらいんだろう」「父親の多くはどうして仕事中心の生活になってしまうんだろう」「子どもの虐待はなぜ起きるんだろう」と多くの問題意識を持ちました。
子育てを通して、なんとかそういう社会を変えたいと思い、ファザーリング・ジャパンを立ち上げました。
子育てをしていなければ、いまの自分はありません。
子育てを通じてたくさんの経験を積むことができました。
仕事だけの人生だったら、もっと単調な人生を歩んでいたかもしれません。
子育ては人生を彩り豊かにするための手段の1つだと思います。
2子育ては子どもや妻も幸せにできる
子育てが彩り豊かな人生をもたらすのは、大きく3つの側面からです。
①子どもや妻が笑顔になる
父親が積極的に育児参加する大きなメリットの1つに、母親の育児ストレス軽減があります。
父親が主体的に育児をすることで、母親は笑顔になります。
ある調査では、第一子の育児を父親がどの程度サポートするかによって、妻の第二子を産む意欲が変化するという結果も出ています。
自分のサポートが家族を増やすことに繋がるんです。
最近は働く母親も多いので、妻のキャリアを応援するためにも夫の育児参加は必須です。
母親と父親で手を取り合って育児をすればパートナーシップも強まります。
両親の笑顔を見れば子どもも笑顔になるので、結果的に子どもの自尊感情も高まります。
父親が育児に参加することは、子どもの発達・成長にいいんです。
父親と一緒に行動することで、社会性が早く身につきますし、子どもにとって生きるロールモデルになります。
②地域に繋がりができる
父親が子育てに関わると、子どもを通じて地域の父親と友達になることができます。
母親はママ友や子どもの通う学校を通じて地域の人との関わりを持てますが、子育てに参加しない父親は仕事と家の往復になってしまい、地域との繋がりを持てない人が多いんです。
小学校など地域の活動に積極的に参加することで、地域のパパ友と繋がることができます。
一緒にキャンプやお花見などに行くのも楽しいですし、子育てという共通の話題があるので悩みや不安も共有できるし、仕事以外に人間関係ができることは新鮮です。
仕事を定年退職しても繋がりができ、老後も地域に豊かな人間関係を築けます。
③仕事の能力が上がる
多くの父親から「子育てをしていたら、仕事に悪影響があるのではないか?」という声も頂きます。
実は逆で、子育てをすることで仕事の能力も高まるんです。
まず、「時間管理能力」が上がります。幼稚園・保育園児の朝は準備や登園で時間に追われ、大変です。
このタスクをこなすには時間を効率的にする工夫が必要になります。
これが仕事のタスク管理にも活きてきます。
「リスクマネジメント能力」も高まります。
子どもの病気など急な対応をすることが、仕事への急なトラブルに対応する能力を高めます。
子育てが上手くなれば部下を育てる「人材開発能力」も上がります。
子どもに何かを教えたり伝えたりするとき、わかりやすく伝えるよう工夫をする。
このスキルは仕事の指示出しに応用できます。
また、自身が子育てに関わっていることで両立の大変さを知り、職場のワーキングマザーへの理解も深まります。
お子さまと一緒に過ごす安藤さん本人
父親が育児にしっかり関わっていけば、子どもにとっても、妻にとっても、自分にとってもプラスになると思います。
子育てをやる意義に気づかず父親が子育てをしないのはもったいないと思いますね。
彩り豊かな人生を子育てによって実現するには、中途半端な参加では難しく、しっかりコミットする必要があります。
そこで意識すべきなのは、質より量。
とにかく子どもと一緒に過ごす時間を増やすことが大切です。
過ごす時間が少ないと、子どもは「自分に関心がない。愛情がないんだ」と感じてしまいます。
子どもは愛着がないと、何をされてもうれしくないものです。
夜は仕事で遅いなら、朝早く起きてご飯を子どもと一緒に食べたり、保育園へ送ったり。
僕は3人の子どもを14年間毎日保育園へ送りました。
これをやっていれば、必ず子どもは愛着を持ってくれます。
大事なのは毎日連続性をもって繰り返しすることです。
「週末だけで子どものハートをわしづかみできる方法はありませんか?」という質問をよくセミナーで受けますが、そんな方法はありません。
子育てに近道はないんです。
3子育てで父親としても社会人としても成長
子育ては人生を変えるインパクトを持っています。
母親は子どもを産んだ後に生活や価値観の変化が起こりやすいですが、多くの男性は価値観が変わらず仕事中心の生活から脱却できない…。
僕は3人の子どもを育てて、父親としても社会人としても成長できました。
子どもの成長の喜びを感じるたびに、充実感があふれてきます。
子育ては期間限定です。
子育てが終われば今度は親の介護がやってきます。
介護という具材も鍋に入れて人生を楽しもうと思います。
現在はイクボスプロジェクトで、会社の上司・管理職の意識改革にも取り組んでいます。
会社の理解と支援があれば、父親がもっと育児を楽しめる環境になると思うんです。
男性育休の推進がポイントだと思います。
こうした意識改革を促す活動は、男性から男性へ言うと理解が進みます。
「子育てに関わって」と妻から言われても、意識を変えない夫は多いんです。
僕たちは父親の先輩として、子育ての失敗談、その克服法を後輩の父親達に伝えていく。
これが最も心に刺さるんです。
子育てをすることが人生の最良の幸せだとは思っていません。
結婚するのも、子どもを持つのも個人の自由だと思います。
ただ、自分で選んだ人生なんだから笑ってハッピーに生きていければいい。
子育てというチャンスに巡り合えた人は、それをして楽しむことで、昨日より今日がハッピーになるように、それぞれのやり方で彩り豊かにライフをデザインしていけばいいと思います。
今後も笑っている父親を増やして、彩り豊かな人生を送る人を増やしていきたいです。
伊豆へ旅行したときのお写真
※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年5月)のものです