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子育てママの心の負担を軽くする。
この世から児童虐待死をなくすために
【助産師/子育てママのメンタルトレーナー・奥村葵】

目次
  1. 産後の母親にもっと寄り添いたい
  2. ママの心を軽くするメンタルコントロール法を開発
  3. 子育てママの村をつくりたい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、子育てママのメンタルトレーニング講座を展開する奥村葵さんをご紹介。

看護師として働く中で、児童虐待のニュースに心を痛めた奥村さん。児童虐待で亡くなる子どもをゼロにするために、現在は子育てママに向けたメンタルコントロール講座を展開しています。奥村さんが目指す世界とは。お話を伺いました。

1産後の母親にもっと寄り添いたい

小学生の頃に両親が離婚し、母親と一緒に母子寮に住むことになりました。
寮に一緒に住んでいた子どもの中には母親からたたかれる子もいて、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえたこともありました。

別の子どもの母親が突然いなくなってしまうこともありました。
母親がいなくなった子どもは寂しそうにしていますが、母親が帰ってくるととてもうれしそうな顔を見せます。
でも、また母親がいなくなるとひとりぼっちで寂しくしています。
子どもはこんなに素直なのに、なんでこんなことが起きるんだろうと思っていました。

小さいときから看護師になりたいと思っていたので、高校卒業後は看護の専門学校に進み、3年間勉強して看護師として働き始めました。
高齢者の患者の最期を看取ることも多く、命の大切さを痛感しながら働いていました。

そんななか、生まれたばかりの子どもが親の虐待で亡くなるというニュースを見て、心が痛みました。
これは私がいた母子寮での出来事と同じで、あのときの出来事は児童虐待や育児放棄だったんだと気づきました。

どうしたら虐待をなくせるのか。
何か自分にできることはないかと考えました。
もしかしたら、母親は、出産するときに何か嫌な思いをして、それが原因で虐待をしてしまうのではないか。
そんな母親たちの力になりたいと考え、私は産婦人科の病院に転職しました。

産婦人科で働くのは楽しかったです。
それまでの病院は患者が亡くなる場面に立ち会うことが多かったですが、産婦人科は生まれてくる新しい命に立ち会うことができます。
生まれてくる命を見るのは奇跡の瞬間と思い、生まれてくる赤ちゃんに真摯に向き合いながら働いていました。
もっと専門的な知識と資格を得ようと、助産学校に行って助産師の資格を取りました。

助産師時代の奥村さん

助産師時代の奥村さん

助産師として働くなかで、子どもを産んで3日ほどたった母親が病院のベッドの上で泣いているのを見かけました。
子どもが泣きっぱなしでどうしていいかわからない。授乳がうまくいかない、自分の思い通りにならないことに涙が溢れてくる様子でした。
赤ちゃんを産んだときは、とても感動している様子だったのに。

病院スタッフの「子どもが泣いているじゃない。なんでおっぱいをあげないの」という心ない言葉に傷ついている母親もいました。
この時期の母親はとてもナイーブなので、そんな言葉使いをすると母親のメンタルは落ちてしまいます。
初めての新生児を前に、何をどうしていいかわからない中、間近に迫る退院を前に必死でいろいろと覚えようとしている状況。
待ちに待った子どもが生まれて幸せな時間なのに追い込まれているようで、見ていて悲しい気持ちになっていきました。

私は今まで、子どもが生まれてくるまでの生活や過程に、虐待につながる何かがあると思っていました。
でも、どんなに感動的に子どもを産んでも、周りの環境や母親自身の考え方で子育てのストレスは変わってくることに気づいたんです。
健全な子育ては、母親が出産した後にどう関わっていくかにかかっている。
私は産後の母親にもっと寄り添えるようにならないといけない
と思いました。

2ママの心を軽くするメンタルコントロール法を開発

子どもを産んだ母親は病院に5日間程度しかいません。
私はその後も関わりたいと思っているものの、病院には守秘義務があるので、退院した後の母親に関わることができないんです。
5日でできることと言えば、ママになった人たちへの心構えを教えることくらい。
退院してから母親に寄り添うことが大切なのに。
私はもどかしい思いでいっぱいでした。

病院のなかで産後ケアをもっと広げようと、私は病院側に提案しましたが、病院では産後のケアはすでに十分だと、OKは出ませんでした。

もしかしたら、このまま病院に勤めながらアプローチしていけば、私の提案が取り入れられるかもしれないと思いましたが、そこまで待っていたら、今いるママたちのケアはどうなってしまうのか。
待っている時間はない。
こうなったら、大変なママに向けて今すぐ行動をするしかない
と思いました。

私は助産院をつくるつもりで勉強を重ねました。
外の世界も知っておいたほうがよいと思い、オンラインで通える大学に入り、その後は大学院で経営を学びました。
それまで看護師・助産師として医療業界しか見てきませんでしたが、世の中にはいろいろな意見の人がいて、視野が広がっていきました。

大学院に入ったのちに、九州大学ビジネスプランコンテストに出場し、オンライン相談に関する事業を提案しました。
大勢の前での初めてのプレゼンでしたが、結果的に賞をいただくことができました。

また、東京で開催された起業家を輩出するビジネスコンテストにも出場し、そこでは、さらにブラッシュアップしたオンライン相談事業の発表をし、セミファイナリストに。
他にも、ラジオ、地域の交流会、医療フェスなどで発信を続けました。
すると、徐々に受け入れてくれる人や場所が生まれ、応援してもらえるように。
とても自信がつきましたね。
学びを深めながら、助産院で助産師として働くよりも起業家として産後ケアの事業を展開したほうが、より多くの人を救えるのではないかと思うようになりました。

事業を展開するにあたって、改めて子育てママに話を聞いていくと、「ママだから頑張らないといけない」「ママだからこれをやってはいけない」と自分を厳しく律している人が多いことに気づきました。
自分に厳しい分、メンタルが不安定になりやすく、イライラしてしまうのだと思いましたね。

いくつかのサービスを試行錯誤しながらつくっていくなかで、スポーツ選手などが取り入れているメンタルトレーニングに着目しました。
メンタルを持続的に安定させるトレーニングプログラムをつくって、ママに提供すれば喜ばれると思ったんです。
私は2020年に、子育てママに向けたオンラインでのメンタルトレーニング講座をつくり、提供するプログラムを始めました。
現在はさらに改良を重ね、イライラや不安な気持ちを抱えるママに、メンタルトレーニングの要素を取り入れた、メンタルコントロール講座を行っています。

オンライン子育てメンタルコントロール講座の様子

オンライン子育てメンタルコントロール講座の様子

3子育てママの村をつくりたい

現在はオンラインで子育てママに向けたメンタルコントロール講座を展開しています。
講座を受けたママたちの感謝の言葉が本当にうれしくて、中には「葵先生と出会えて人生が変わりました」と言ってくれる人もいました。
この講座を始めて本当に良かったと思います。

もっとメンタルトレーナーを増やしていきたいと思っているので、トレーナー養成講座も展開していく予定です。

私が人生の目標に掲げているのが「子育てママの村」をつくることです。
出産した後、子育てで苦労しているママたちが一時的に村に集まり、助け合いながら生活を共にします。
村には買い物施設もあって、オシャレを保つためのヘアサロンもある。

村で回復して元気になったら家に帰って、またしんどくなった時は村に帰ってくる。
村にやってきた子育てママがストレスなく安心して過ごせる場所をつくりたいんです。
大学院のときにこの構想を話したら、同級生たちはみんな「応援する」と言ってくれました。
人生を通してやり遂げたいです。

母親は子どもを産んだらママになるけど、ママのスキルは持っていません。
失敗することもあるし、できないことがあるのは当たり前です。
そこに負い目を感じてしまうことが、児童虐待の原因の1つだと思います。

私の最終的な目標は、児童虐待で亡くなる子どもをゼロにすることです。
この世にダメなママなんていません。
「ママになったのって素晴らしいんだよ」ということをもっと多くのママに伝えていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年5月)のものです

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