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幸福度向上の鍵は「フラット」にあり?
ITの力で市民が主役のまちづくりを
【一般社団法人Code for Japan代表理事・関治之】

目次
  1. 被災地でもITの力は役に立った
  2. 幸せのためには「フラット」が必要
  3. ITの力で日本人の幸福度を上げる

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、一般社団法人Code for Japanの代表理事・関治之さんをご紹介。

東日本大震災をきっかけに、テクノロジーの力で社会課題を解決する決心をした関さん。行政のデジタル化を進めることで、市民がフラットな関係で暮らせるまちづくりを目指しています。関さんが目指すまちのあり方とは。お話を伺いました。

1被災地でもITの力は役に立った

小学生のときからプログラミングが好きで、20歳からシステムエンジニアとして働き始めました。
しかし、現場によっては職場環境が悪く、楽しく仕事ができないところもありました。
同僚の中にはうつ病と診断されて、退職していく人もいました。

しばらくして、上司に誘われて一緒にスタートアップ企業に転職しました。
やりたい仕事をやらせてくれる風土だったので、自ら提案してサイトやアプリ開発に取り組むことができたんです。
仕事の楽しさを取り戻していくなかで、やっぱりプログラミングっていいな、プログラマーという職業を選んで良かったと思いましたね。

10年ほどシステムエンジニアとして働いたとき、地理情報システムの会社を立ち上げました。
会社は副業を認めていたので、自身の会社を経営しながらスタートアップ企業でも働いていました。

2011年3月11日、勤務先のオフィスで仕事をしていたところ、今まで体験したことがない大きな揺れを感じました。
揺れが収まって窓から外を見ると、たくさんの人が避難していました。
これはただ事ではないと、ネットで情報を集めると、東北地方が大変なことになっていることがわかりました。

この直後、僕が登録していたエンジニア関連のメーリングリストに「エンジニアとして何かできることをやろう」というメールが送られてきました。
僕はそれまで、災害や社会課題についてあまり意識したことがありませんでした。
でも、みんなのメールのやり取りを見ているうちに「自分も何か動いてみたい」と思いました。

そこからは、スイッチが入ったかのように猛烈な勢いで作業に取りかかりました。
「●●の道路に亀裂がある」「●●に津波で取り残されている人がいる」などネット上に発信された震災に関する投稿を集め、その内容と位置情報を地図サイトに集約させれば、震災関連の情報を1つにまとめられる。
その情報を避難や救助活動に役立ててもらえればと思ったんです。
多くのエンジニアとともに猛スピードで作業をして、震災発生から4時間後には「sinsai.info」というサイトを完成させました。

sinsai.infoホーム画面の一部

sinsai.infoホーム画面の一部

電車が止まっていたので、歩いて帰宅しながらスマホでエンジニア仲間たちと議論を重ねました。
サイトはネット上で話題になり、情報が多くなるにつれてエンジニアなどのボランティアは増えていき、最終的に約200人が関わってくれたんです。

こうした活動をするうちに、IT技術を使って課題解決していくことはとてもやりがいがあると感じました。
会社で仕事として取り組むプロジェクトもやりがいはあります。
でも、お金では動かない才能のある人たちが1つの課題解決のためにプロジェクトを組み、一気に物事を作り上げて解散する。
普通の仕事では得られない社会貢献の形があると思ったんです。

「sinsai.info」が話題になったのはうれしかったのですが、果たしてこの仕組みは被災地の方々に役立っているのかという疑問も生まれました。
緊急時にはネットをする時間も限られますし、充電もままならないから携帯電話のバッテリーも節約しないといけない。

現地にボランティアに行く人が利用しているのは聞いていました。
でも、もっとエンジニアとして直接的な被災地との関わりができるのではないか、テクノロジーが災害時に役立てることはなんなのか考えるようになりました。

しばらくして現地を案内してくれる人と知り合う機会があり、被災地へ向かいました。
震災から1ヶ月半後のことです。
いくつかの避難所を回り、「何かITで解決できることはありませんか?」と被災者や支援者に話を聞きました。
しかし、要望は「車を運転してほしい」「食料が欲しい」「家にたまった泥をかきだしてほしい」と体を使った仕事がほとんどでした。
この場所でエンジニアが直接役に立てるケースはないのかもしれないと、ショックでしたね。

ショックな気持ちを抱えたまま、岩手県遠野市のボランティアセンターにお邪魔しました。
ここは被害の大きい地域へ向かうボランティアがいったん集まり、情報収集や物資の整理をするところです。
ここで職員に話を聞くと、「ウェブサイトの更新ができなくて困っている」「ボランティアの名簿を手書きで管理していて、パソコンでの整理がうまくいっていない」などと言われました。

それならエンジニアである私でもできるので、早速お手伝いをしたらとても喜んでくれました。
避難所などではITは力になれないけど、ここでなら力を発揮できると思いましたね。

困りごとって現場によって違うんだなと感じました。
その場所での困りごとをきちんと理解しないと、本当の意味で人の役に立つものは作れないと思いましたね。
「きっとこういうものが必要だろう」と考えて作るのではなく、当事者と一緒に話し合って作らないとダメだなと身をもって理解しました。

被災地で活動中の様子

被災地で活動中の様子

2幸せのためには「フラット」が必要

被災地で活動を続けていく中で、行政のデジタル化が進んでいないと感じました。
ITの活用には行政との連携が欠かせないし、行政のデジタル化が進まないと自治体にデータが集まらないんです。
また、次に同じようなことがあったときの備えとして、行政と連携できるITシステムを構築しないといけないと思いました。

そんなことを考えていたある日、アメリカに「Code for America」という団体があることを知りました。
市民であるエンジニアやデザイナーが行政職員らと共同で地域課題の解決をする「シビックテック」を目標に活動しているというんです。

この仕組みを日本にも取り入れたいと思い、僕は早速、現地に向かい、Code for Americaの人たちから仕組みづくりを学びました。
僕は日本の行政のデジタル化を掲げ、2013年に「Code for Japan」という団体を立ち上げました。

設立後、多くの行政機関の職員たちと行政のデジタル化について話し合いをしました。
しかし、デジタル化のメリットなどを説明しても、IT用語が伝わらないことも多く、話がうまく噛み合いませんでした。

そこで行政機関の職員や地域コミュニティを対象にしたワークショップを開き、ITの基本的なことをお伝えしたり、デジタル化による市民サービス向上の事例などを丁寧に説明したりしました。

活動をしていくうちに全国各地のエンジニアたちが各地域の名前を入れた「Code for ●●」というコミュニティを作る動きが出てきました。
彼らが自治体の職員向けに勉強会を開いたり、地域の人たちと一緒にデータ活用やアプリ開発を行ったりすることで、各地に少しずつ広がりを見せていきました。

コミュニティ活動中の一枚

コミュニティ活動中の一枚

Code for Japan設立から数ヶ月後、福島県浪江町の町民向けアプリの開発を手伝うことになりました。
どんなアプリを作れば町民のためになるのか、自治体の職員やアプリを開発するシステムベンダーの担当者とともに、同じ立場、フラットな目線で開発に取り組みました。
アプリが完成すると、自治体の方々にとても感謝してもらえました。
Code for Japanを作って良かったと思いました。

いくつかのプロジェクトを手伝う中で、「フラットが大切」と思うようになりました。
行政は国と自治体の関係性のように縦割りと言われていますが、それは良くないと感じたんです。
自治体は国の顔色をうかがって、言いたいこともきちんと言えてない。
いい市民サービスを作るためには、国と自治体がきちんと腹を割って話せる関係性が必要だと思いました。
この関係は行政のシステムを作る民間企業にもあてはまると思います。
企業側に遠慮した自治体側は、言いたいことが言えないんです。

国、自治体、企業、市民、それぞれが力を持ち寄って協力して、多様性を活かしながらみんなで幸せになっていくことが望ましいと思ったんです。
フラットな環境で意見を言い合い、そこで生まれた情報を透明化して、多様性を認め合う社会になれば幸せな労働環境やまちづくりができると感じました。

3ITの力で日本人の幸福度を上げる

現在は会社を経営しながら一般社団法人Code for Japanの代表理事として、行政のデジタル化のサポートに取り組んでいます。

Code for Japanがモットーとしているのは「ともに考え、ともにつくる」です。
近年、「スマートシティ」や「Society 5.0」というIT活用の未来を表す言葉が生まれています。
でも、その言葉にワクワクしている人は果たしてどれほどいるのか考えてしまいます。
テクノロジーに頼るのはいいことですが、テクノロジーはツールです。
どんなにテクノロジーが進化しても、市民の生活が向上して幸福度が上がらないと意味がないと思います。

例えば、自動運転で誰にも頼らずに買い物に行けるよりも、まちのコミュニティ内で買い物を頼めたり、無理なく助け合って感謝しあっている方が幸福度が高いかもしれません。
資源を無駄にしないで循環型経済を追求するほうが、AI家電を使うよりも幸福度が高いかもしれません。

いま私たちが最も力を入れているのは「DIY(Do It Yourself)都市」プロジェクトです。
地域で暮らす人たちや、その地域を愛する人たちが主役になり、自分たちでどんなまちにしたいのか、そのためにどんなことが必要なのかを考え、手を動かし、自分たちでつくっていく取り組みです。
市民はまちに要望するのではなく、まちづくりに関わっていく。
すでにいくつかの自治体と取り組むための連携を進めています。

私は個人個人が幸せに働けて生活できる環境が素敵だと思っています。
そのためには誰もが意見を言えるような環境作りが必要ですし、幸福度を上げるためにもっとフラットな世の中にする必要があります。
今後もテクノロジーの力を使って、日本人の幸福度をもっと上げていきたいです。

Code for Japanでの活動の様子

Code for Japanでの活動の様子

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年4月)のものです

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