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保護者が取れる選択肢を増やしたい。
病児保育施設を広め「子育て」を変える
【「あずかるこちゃん」運営会社代表・園田正樹】

目次
  1. 妊娠は幸せなことなのに…母親の人生が悪い方向に
  2. 病児保育施設をもっと広めたい
  3. 子どもを安心して産み育てられる社会に

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、病児保育施設と保護者をつなぐウェブサービス「あずかるこちゃん」を運営している園田正樹さんをご紹介。

産婦人科医として働きながら母親がもっと幸せになる仕組み作りを模索していた園田さん。病気の子どもを一時的に預かる病児保育施設の存在を知り、施設をもっと利用してもらうためのウェブサービスを開発しました。園田さんが目指す世界とは。お話を伺いました。

1妊娠は幸せなことなのに…母親の人生が悪い方向に

高校2年生のとき、祖父に胃がんが発覚しました。
早い段階での発見だったので、手術すれば治る見込みでした。
しかし、手術の1ヶ月後に容態が急変し、帰らぬ人に。
大切な家族が突然亡くなってしまったことにショックを受けましたね。
少なくとも自分が大切にしている人には、適切で安心な医療を与えられる存在になりたいと思うようになり、将来は医者になろうと決意しました。

医者のなかでも、小さいときから子どもが好きだったこともあり、小児科か産婦人科に行きたいと思い、医学部に入りました。

大学卒業後、研修医としていくつかの病院に勤務していました。
ある産婦人科にいたとき、大量出血をした状態で病院に運ばれてきた20代の妊婦さんに立ち会う機会がありました。
妊婦さんとおなかの中にいる赤ちゃんを救うため、産婦人科、放射線科、麻酔科、救急など、多くの先生が一致団結して処置にあたりました。
処置の結果、妊婦さんは助かり、赤ちゃんも無事に生まれてきました。

すごい瞬間に立ち会ったと思いました。
一刻の猶予も許されない中で、それぞれの先生が短時間で決断を下し、適切な処置を施していく。
これから生まれてくる命が誕生する劇的な場所に僕も主体的に関わっていきたいと思い、研修医期間を終えた後は産婦人科医として働き始めました。

7年ほど医師として、臨床現場で働いた後、もっと勉強・研究をしようと、大学院に進みました。
大学院で学んだのは公衆衛生学で、一言で言うと、社会を健康にする学問です。
医者と患者は1対1の関係ですが、医者として社会を変える仕組みにアプローチできないか勉強してみたかったんです。

きちんと学問として学ぶと、社会の仕組みを変えるアプローチってたくさんあって、それがとても面白いと感じました。
僕は、もっと子どもにとってより良い社会の仕組みって何だろうと考えるようになりました。

産婦人科医時代のお写真

産婦人科医時代のお写真

大学院に行っている間は、産婦人科医としての働く時間を減らしていたので時間に余裕が生まれました。
空いた時間を利用して、社会を変えるアプローチのヒントを得ようと、出産を終えたばかりの母親たちに話を聞きにいくようになりました。

出産前の心境、これから子育てをしていく上での悩みや不安など、さまざまな課題を100人ほどの母親から聞きましたね。

その中で、とある母親が「私は妊娠を機に仕事を辞めたんです」と話してくれました。
理由を聞いたところ、2人目の子どもが病弱ですぐに風邪をひいてしまい、月の半分くらいは保育園を休んでしまう。
それが原因で、仕事の評価が下がってしまい、職場に対して申しわけない気持ちになって退職したというんです。

それはおかしいと思いました。
子どもが生まれることは母親や社会にとってすごく幸せなことなのに。
子どもを産み育てていくことはとても素晴らしいことなのに。
子どもの風邪なんてよくある話です。
そんなことが理由で退職し、母親の人生が悪い方向に変わってしまうのは、なんとかしないといけない。
僕は子育てをする母親に何かアプローチできないか考えるようになりました。

2病児保育施設をもっと広めたい

しばらくして、あるNPOが作った1年間のヘルスケアのリーダーシッププログラムに参加しました。
対象はヘルスケア領域で事業などをやりたいけど、手法がわかっていない人。
僕は子育てをする母親たちがどうすれば幸せになるのかきちんと手法を学びたいと思ったんです。

受講者には看護師やIT企業の役員もいて、僕はプログラムの中で自分の思いを話し、多くの人と意見交換をしました。

母親を支援するための仕組みを探る中で、病児保育施設の存在を知りました。
病児保育施設とは、子育てをする母親の就労支援をするため、地域の医療機関や保育園に設置された保健室のようなスペースです。
風邪などの病気になった子どもを短期的に預かることができるんです。

行政がサポートをしているので、手続きを行えば1日2,500円程度で保育士や看護師が子どもを預かってくれます。
場合によっては、1日だけでなく、数日預かってくれる場所もあるとのこと。
興味を持ったので、早速見学に行ってみました。

見学に行った日は、初めて施設を利用する親子がいました。
預けられる子どもは母親と離れるのが悲しくて泣き叫んでいて、母親は後ろ髪を引かれながら仕事に向かっていました。
しかし、15分もすると子どもは笑顔になって保育士たちと楽しそうに接していました。

僕は驚きました。
子育てをする母親の就労を支援するための施設と聞いていたのですが、施設にいる保育士さんや看護師さんが病気の子どもたちをきちんとケアしてくれている様子を目の当たりにし、病児保育施設って、親のためだけでなく子どもにとっても非常に重要な施設だと思ったんです。

もし、母親が仕事を休んで病気の子どもと一緒にいたら、ここまでのケアはできないなと感じました。
仕事を休むことができない母親が仕事に行けて、しかも子どもは笑顔でケアを受けることができる。
素晴らしい施設だと思いましたね。

夕方になって母親が迎えに来たら、子どもは笑顔で「ママ」と飛びついていました。
母親はきっと子どもを預けるのが不安だったはず。
でも、笑顔で向かってきた子どもを見て、預けて良かったなと感じてくれたと思うし、きっとまた使いたいという気持ちになったと思うんです。

病児保育施設にさらなる興味を持ったので調べていると、施設は全国に2,000ほどあることがわかりました。
しかし、利用率は3割程度でした。
なぜ利用率が低いのか調べてみたら、利用するまでの手続きに必要な書類が多いこと、電話で予約をしないといけないことがわかりました。
利用率が低いのは手続きの煩雑さが原因だと思いました。

こんなに素晴らしい施設なのに、利用率が上がらないのはもったいない。
1回利用したら、2回目もきっと使ってくれるはずなのに。
施設を初めて使うための利用手続きをもっと簡単にすれば、もっと利用率が上がるに違いない。
そんなサービスを作って、子育てをする母親にもっと病児保育施設を知ってもらい、利用しやすくなる仕組みを作れば、世の中は良くなるはずだ。

僕は2017年に会社を立ち上げ、病児保育施設を気軽に利用するためのウェブサービス作りを始めました。
そして、開発開始から3年たった2020年春、病児保育施設と保護者をつなぐウェブサービス「あずかるこちゃん」の運営を始めました。

「あずかるこちゃん」の実際のウェブ画面の様子

「あずかるこちゃん」の実際のウェブ画面の様子

3子どもを安心して産み育てられる社会に

現在は「あずかるこちゃん」の運営会社コネクテッド・インダストリーズ株式会社の代表をしています。
自治体との提携にも力を入れていて、2021年には神奈川県横須賀市との連携も始まりました。

僕が実現したいのは「安心して子どもを産み育てられる社会」です。
子育ては基本的に両親がして、祖父母がサポートするような構造になりがちです。
でも僕は、 生まれてきた子どもを社会全体で育てていく社会をつくりたいのです。

僕は田舎で、地域の人に可愛がられて育ちました。
都会で子どもを育てる母親は地域との関わりも少なく、孤独感を抱えている人も多いです。
でも、病児保育施設の利用などで、いろいろな人が子育てに関われば、子どもを産むことに不安がなくなっていくと思うんです。
子どもを安心して産むという選択肢がもっと増えてほしいです。

「あずかるこちゃん」のサービスをきっかけに、不安な中で子育てしている保護者を減らしていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年4月)のものです

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