14年間ジャングルクルーズの船長に
小さいときから目立ちたがり屋で、自分が何かをして周りを楽しませたり喜ばせたりするのが好きでした。
小学生のとき、クラスで劇の脚本と演出を行ったのをきっかけに、自分が表現したり演じたりすることで多くの人に感動を与えたいと思い、役者を志すようになりました。
テレビや舞台を見て「自分があの役だったら」と空想や妄想をするのが好きで、眠れないときは戦隊ヒーローになっている自分を妄想して眠ることもありました。
小学校5年生のとき、初めて東京ディズニーランドに行きました。
いろいろなアトラクションを楽しんだ後、ボートに乗って未開のジャングルを探険する「ジャングルクルーズ」というアトラクションに参加しました。
たった一人の船長の言葉や表情で乗りあわせた約30人の乗客全員が盛り上がっていて、感動しましたね。
東京ディズニーランドで働く人ってカッコいいなと思いました。
その年から僕は将来の夢に「東京ディズニーランドで働く」を加えました。
でも、両親からは「安定した職業に就いてほしい」と言われて育ったので、結局は公立高校から4年生大学という一般的な人生を歩んでしまいました。
ただ、本心は役者や東京ディズニーランドのキャストのようなエンターテインメントに関わる仕事がしたいと思っていました。
高校卒業後は千葉県の大学の理工学部の建築学科に進みました。
ある日、電車に乗っていると中吊り広告で東京ディズニーランドがキャストのアルバイトを募集しているのを発見!
千葉ではごく当たり前の光景なのですが、神奈川県平塚市出身の僕には驚きでしたね。
募集の中から、園内のお掃除キャストをやってみたい!と早速応募し、面接では初めて来園した時の感動を切々と語りました。
1ヶ月後、合否発表の電話がかかってきて、「ジャングルクルーズの船長をやってください」と言われました。
予想外のことを言われたので驚きましたね。
おそらく面接で喋りが饒舌だったからなのかと思いましたが、そもそもジャングルクルーズの船長がアルバイトのキャストでもできることにはもっと驚きました。
僕は数日間の厳しいトレーニングを経て、なんとか船長デビューを果たしました。
最初はなかなか上手にできませんでしたが、日がたつにつれて、声の抑揚や喋りの間、大袈裟な表情でお客さんを楽しませることができるようになっていきました。
自分の表現で沢山のお客さんが笑顔になってくれるのが本当にうれしかったですね。
ご来園いただいたお客さんに非日常の体験を提供できる。
この頃から、人の心に寄り添う仕事っていいなと思いました。
ジャングルクルーズの船長は大学4年間ずっとやっていました。
夢だった役者のような感覚も体験できたので、とても満足できましたね。
就職活動では、東京ディズニーランドの運営会社も受けましたが、とても狭き門のためご縁がありませんでした。
建築学科だったので不動産業界も受けていた中で、ある不動産会社が千葉県浦安市に東京ディズニーランドの運営会社と提携して新しいホテルを作ることを知りました。
しかも、ホテル事業部自体を新たに立ち上げるということだったので最終面接でも、ホテル事業部への配属を猛アピールしました。
東京ディズニーランドでは、高い接客やサービスのスキルはもちろん、キャストのホスピタリティマインドを高めるための人材育成にも目を向けていました。
経験し習得したノウハウを新しいホテルのサービスに取り込んで提供できれば、きっと他にはない素晴らしいホテルになる。
自分なら、そのサービスづくりにいい形で関われるかもしれない。
そう思った僕は、チャンスを掴むためにその不動産会社に就職しました。
1年間、不動産の仲介営業を経験し、無事ホテル開発事業部に転属となった後は、3棟のホテルの開業に携わり、サービスのコンセプト設計やスタッフの接遇指導、ユニフォームデザイン選定、実際のシフトに入っての夜勤業務など多種多様な業務をこなしました。
なかなかハードな日々でしたが、自分だけでなく指導をしたスタッフの接遇にご満足いただいているお客さまの顔を見るのが、とてもうれしかったです。
人材育成の仕事もいいなと思いましたね。
数年たってフロントサービス部門のマネジメント職に就きました。
サービスの責任者になったので、必然的にお客さまの苦情対応にあたる回数が増えていきました。
「チェックインの手続きが遅い」「風呂場に髪の毛が落ちていた」「部屋の鍵がうまく開かない」など1日1回は、何かしらの苦情やクレーム対応にあたっていました。
はじめは上手くいかず、大炎上を起こしてしまうことも多々ありましたが、500回を超えたあたりからコツがわかってきて、対応するのが楽しくなってきました。
僕は自分なりの解釈として、苦情対応とクレーム対応を別物と捉えるようにしています。
苦情対応はお客さまの感情に寄り添うこと、クレーム対応はイエスかノーでお客さまの要求に応えることです。
一件の対応を「苦情」と「クレーム」の2つに分けて、それぞれに対応をしています。
苦情への対応次第でお客さまの施設に対する印象が変わります。
お客さまにきちんと向きあい、最終的に納得してもらえれば、ファンになってくれます。
「なんか、悪かったね。ありがとう、また来ます」とお客さまに言っていただければ完璧な対応です。
そういう意味では、苦情対応って、その場で起きた課題を瞬時に解決するコンサル業に近く、楽しいものだと感じるようになりました。
だから僕はプロフィールの「趣味」の欄に「苦情対応」と書くようにもなりましたね。