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子どもの環境に格差があるのはおかしい。
一人ひとりの尊厳が尊重される社会を
【認定NPO法人「PIECES」の代表理事・小澤いぶき】

目次
  1. 全ての子どもの幸せが共存する世界への探求
  2. 医療機関での関わりから地域での関わりへ
  3. 一人ひとりの尊厳が尊重される社会をつくる

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、認定NPO法人「PIECES」の代表理事・小澤いぶきさんをご紹介。

子どものころ、戦争を描いたアニメや漫画を見て、子どもたちが平等な環境で幸せに過ごせない世界に疑問を感じていた小澤さん。児童精神科医として働く中で子どもの孤立をなくすための活動を各地に広げています。小澤さんの思いとは。お話を伺いました。

1全ての子どもの幸せが共存する世界への探求

小さいときから小説や漫画を読むのが好きでした。
保育園のとき、戦争を描いたアニメ映画「火垂るの墓」と漫画「はだしのゲン」を見て、人が人に対して、こんなにも残酷で冷酷になるんだということに衝撃を受けました。
私はたまたま日本に生まれて、たまたま今紛争がない。
だけど、生まれた場所や時代が違うだけで、生活する環境が違い、そこで起こっていることにより亡くなる子どもがいる。
自然の一部である人と人の間になぜこのようなことが起こるのだろう。
人類の戦争や紛争の歴史に興味を持つようになりました。

小学校ではクラスのルールが決まっていることが多く、なんで自分たちのルールでもあるのに大人が全部勝手に決めているんだろうと疑問に思っていました。

例えば、髪型は女子はおかっぱ、男子は坊主というルールがあったのですが、納得できなくて先生に言ったら、「ルールはみんなで話しあって変えていいんだよ」と答えてくれました。
それで友人たちと話しあって、実際にみんながどう思っているのかを聞いていきました。
すると「おかしい」と答える人がいる一方で、「髪型を決めてくれたほうが楽でいい」と答える人もいました。
クラスという小さな社会にもいろいろな考え方があるんだと感じました。

みんなで考えて話しあった末、髪型を変えたい人は変えればいいという結論になりました。
人間がつくったルールは話しあいで、より多くの人にとって良いものに変えることができるんだと知りました。

高校生になっても紛争や戦争への関心は高く、それらを生む人間の心理や集団と仕組みがどう影響しあっているのだろうと、とても気になりました。
卒業後の進路を検討する中で、精神科医なら医学と心理学を深く知ることができると思い、高校卒業後は大学の医学部に進学しました。

2医療機関での関わりから地域での関わりへ

大学に入ってから児童精神科医の存在を知り、子どもの心や育つ環境に関わる仕事に関心を持ちました。
医大卒業後は研修医として働き始めました。
さまざまな方と関わる中で、心と身体はとても密接につながっているんだと改めて感じましたね。

研修医のときは、病院で働くだけでなく、支援団体の炊き出しにも行っていました。
研修医の後、精神科救急を経て、児童精神科のレジデントとして、児童精神専門の病院に勤務しました。
社会の環境により、見えない心の傷が今に影響している方との出会いから、トラウマケアについて学ぶようになりました。

親子向けイベントに参加したお子さんと

親子向けイベントに参加したお子さんと

レジデント終了後、子どもに包括的に関わる医療機関に勤務したり、行政機関での勤務に携わったりする中で、実際の子どもの心のケアだけでなく、地域における予防の仕組みづくりやさまざまな機関との連携を進めながら、子どもを取り巻く環境にアプローチしていきました。

虐待を受けた子どもと接する中で、もっと知識が必要だと思いました。
例えば虐待を受けた子どもは身体の傷が治っても、心の傷がケアされていないことがあります。
知識をつけるため、心の傷にアプローチしていくトラウマケアのトレーニングを受けました。
心の傷によって生じている影響への適切なケアがあることを知りました。

心の傷は、集団として生まれることもあります。
そして文化的、歴史的な影響を受けることもあります。
さまざまな生活環境にいる子どもたちの虐待の背景を探っていくと、そこには二項対立では語れない複雑な社会の構造がありました。
そして、その複雑な社会に対して、さまざまな分野の人たちが知恵を絞っていることも知りました。

社会に関わる人たちが自律的に影響しあい、その先に人それぞれの願いが共存する社会が立ちあがる可能性はないのだろうかと考え、2014年に団体を立ち上げ、その団体を発展させる形で「PIECES」というNPO法人を立ち上げました。

3一人ひとりの尊厳が尊重される社会をつくる

現在は認定NPO法人「PIECES」の代表理事として活動しています。
私たちが最も力を入れているのは、子どもが孤立しない地域をつくる「市民性醸成プログラム」です。
ここで言う「市民性」とは、特定のイデオロギーや価値観に惑わされず、社会に起きていることを受け止めた上で一人ひとりが考え、社会に働きかけていく態度や所作を指します。

市民性醸成プログラムでの講義の様子

市民性醸成プログラムでの講義の様子

私たちが考える「子どもの孤立」とは、信頼できる大人がいない状態です。
プログラムではさまざまな生活環境に暮らす子どもたちが安全に感情や願い、考えを出していいと思える環境を育むときに必要なマインドセットやスキルを学んでいます。
人との関わりにも、その地域を育むことにも正解も終わりもないからこそ、講座・ゼミ・実践を通して、関わりを問い続けるコミュニティを育んでいます。

実際に自分が住む地域の子どもと関わり、それを振り返ることで、子どもの願いを知り、自分の願いを振り返り、自分にできることを探っていきます。
これまでに茨城県水戸地域と奈良県でプログラムを展開してきました。

人間の考えはそれぞれで、理想も正義も違うから対立や衝突が起こります。
自分を守るために、誰かの存在を脅かしたり、排除したりする結果になってしまうこともあります。

一方で、人の持つ想像力や可能性が上手に育まれていけば、それぞれの尊厳が互いに大切にされるような社会になっていくと思うんです。

だからこそ私たちは、世界の様相を丁寧に見つめ、受け取り、社会に働きかけていく。
そういった瞬間瞬間の市民性の営みを通して、それぞれの尊厳が尊重される社会を育んでいきたいと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年2月)のものです

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