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リスクって実は大したことないのかも。
物語の力で一人ひとりの世界を変える
【株式会社コルク代表取締役・佐渡島庸平】

目次
  1. ずっと読書をしていたい
  2. 世の中の変化を「知りたい」が起業の原点
  3. もう一度、大きな挑戦を

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、講談社のエース編集者として『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』などのヒット作を世に送り出し、現在はクリエイターエージェント会社・株式会社コルクの代表取締役を務める佐渡島庸平さんをご紹介。

編集の仕事は、好きな本を読む感覚と同じ。だからこそ、夢中になってキャリアを積み重ねてこられたという佐渡島さん。どのようにして数々の人気作家を生み出す敏腕編集者になり起業家へと転身したのか、お話を伺いました。

1ずっと読書をしていたい

読書が大好きな子どもでした。
幼稚園生の頃はよく読み聞かせをしてもらっていましたね。
小学校に入学すると自分で図書館で借りてくるようになり、生活の一部といっても過言ではないくらい、ずっと本を読んでいました。
読書の面白いところは、新しい物事を知れること。
本を通じて、知らなかったことを知っていく感覚にのめり込んでいきました。
「あ〜そういうことか!」とわかる瞬間に、たまらなく魅了されましたね。

大学生になっても読書好きは変わらず、卒業後の進路を決める時期を迎えました。
正直、社会に出てバリバリ働くより、ずっと本を読んでいたい気持ちの方が強く、文学者の道に進むことを考え始めます。
ところが親からは、就職活動もするよう勧められました。

本に関わることしか頭になかったため、本を作る仕事ができる出版社を志望しました。

編集者の仕事を知り、興味を持ちます。
いつも読書をするときは「著者と会ったらこんなことを話したいな」と考えながら読んでいました。
けれど、ただ本を読んでいるだけでは、そんな機会はなかなか訪れません。
でも出版社に勤める編集者なら、著者にリアルに会えて、質問もできる。

さらにその質問が面白い作品を生むきっかけや影響を与えることができる。
編集者の仕事内容を知ったとき、こんなにうれしいことはない!と、感じましたね。
文学者になっても本を読み続けることはできますが、著者と一緒に面白い本を作ることはできませんから。
そこで、内定をもらった講談社に入社することを決めました。

実際に働き始めてすぐ、まさに自分がやりたかった仕事だ!と、のめり込みました。
夢中になって働きましたね。
でも仕事をしているというより、ずっと大好きな読書をしている感覚でした。
編集者として働くうち、作品を作ること自体が深く本を読むことだと実感していったからです。

本を作る側にまわると、削った表現や表現しきれなかった描写などが全部わかります。
読者からの感想を受けて、作る側が予想できなかった部分が露わになったり、また違う視点で作品づくりに取り組んでみたり。
いち消費者として本を読むよりも深く思考しながら本を味わえるんです。
365日ずっと大好きな読書をしているようで、楽しかったですね。

そうして、『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』などヒット作を生み出すことができ、ドラマ化や映画化も決まりました。
こうした作品を作る過程で印象に残っているのは、作家がマンガの表現力を高めていく様子を間近で見られたこと。
編集者として自分も成長し続けなければ、という気持ちにさせてくれました。

例えば多様な意見を認めながら物事を進める調整力が身につきました。
新人作家は、本が売れ、成長するにつれ、こだわりが強くなっていきます。
自分のスタイルを理解してくれない人を許せなくなっていく。
ここで編集者に求められるのは、こだわりを無理に押し通すのではなく、作家と周囲の意見をうまく調整する役割です。
「そういう意見もあるよね」と、違いを認めた上でどう主張するか。
人としての振る舞い方も身につけていきましたね。

2世の中の変化を「知りたい」が起業の原点

講談社でヒット作を生み、エース編集者と呼ばれるようになったころ、独立することを考えるようになりました。
ある実業家と飲みに行き、言われた言葉が一つのきっかけとなりました。

「おまえ、いつまで会社にいるんだよ。これからはネットで誰もが表現する時代。作家が世の中に溢れることで、編集者が作家に原稿を依頼するんじゃなく、作家側が僕をプロデュースしてくれませんか?と編集者に依頼してくるようになる。編集者が作家を選ぶ時代になるんだぞ」

その言葉が、腑に落ちましたね。
納得しました。
たしかに、市場の動きを見ると、徐々にSNSを使って誰もが自己表現ができる時代になってきている。
これからはSNSが主流になることは間違いありませんでした。

またその頃から「編集」という行為を、本を作る以外にも応用できるのではないかと考えるようになっていました。
現在のモノが溢れた世の中に、新しいアイディアを生み出すのは、なかなか難しいと思うのです。
新しいアイディアを生むには、すでにある物事への光の当て方を変えることも必要です。
何に、どのように、光を当てるのか?それが編集という行為だとするならば、本はあくまで一つの形でしかないと考えるようになっていきました。

だんだんと、これから世の中がどう変わっていくかを「知りたい」、知らなかったことを「知りたい」という欲求が高まっていきます。
どのようにSNSが活用され、そこから作家はどう世に出ていくのかをこの目で見たい。
世の中にある本以外の、人・モノを編集してみたい。
時代の移り変わりを間近で体感するなら、会社にいるより起業をして経営者の視点に立つ方がいいだろう。
そんな考えが強くなり、会社を退職することに決めました。

ただ、会社を辞めることに不安がなかったわけではありませんでした。
安定した生活を捨てて本当に大丈夫かな?食べていけるかな?と思うこともありましたね。

でもリスクとは何か?を考え直すと不安に思っていることは、実は大したことではないと気づきます。
例えば、食べていけるだろうか?と不安になったところで、今の日本で飢え死にすることはまずありません。
事業がうまくいかなくても、アルバイトでもなんでもして生活していくことはできます。
不安に思っていたのは、失敗して周囲から後ろ指をさされることでしかないのではと思ったんですよね。

また必要以上にお金を欲しがっていないか?とも、問い直しました。
例えば50万円だった収入が減ることを、リスクだと捉えてしまうと精神的にしんどい。
でも本当に30万じゃ暮らせないんだっけ?20万じゃ暮らせないんだっけ?20万もどうにかできないくらいの働き方をするんだっけ?といろいろな角度で物事を捉えてみると、リスクだと思っていることはそうでもないかもしれない、と感じるようになりました。

実際に事業内容を考えるとき、意識したのは世の中の流れでした。
従来は、作家が世に出たいと思ったら、出版社を通すしかありませんでした。
でもこれからはSNSで誰もが発信できる時代。
必然的に出版社に頼らずに売れていく作家が増えていくだろうと考えたのです。
世界中の人とつながることのできるSNSでは、あらゆるところから山のように仕事依頼がくる。
そうなったとき、何を優先してどう仕事を請けたらいいのか、全て作家自身で管理するのは難しい。
また、売れる作家になるためのサポートや育成もしてほしいと思うはず。

一方で、他人をプロデュースしたい人はあまり増えていないと感じていました。
これからは、編集者が作家を選ぶ時代へと変わる。
時代の変化を実感したとき、作家のエージェント会社が必要になってくるだろうと考えが固まってきました。
そうした構想の中で、株式会社コルクを立ち上げました。

3もう一度、大きな挑戦を

現在はクリエイターのエージェント会社・株式会社コルクの代表取締役として経営をしています。
物語の力で一人ひとりの世界を変える──。
これは私自身としても会社としても大切にしている指針です。
講談社に勤めていた時代は、さまざまな作家とともに面白いと思う作品づくりに邁進してきました。
これからは、本だけに留まらずSNSも活用したプロデュースにも力を入れていきたいです。
そうして作家と二人三脚で、人の人生に影響やきっかけを与えるような作品を作り続けたいですね。

講談社では本の編集を担当していましたが、起業後は経営やコミュニティづくりにおいても編集視点を持ち応用するようになっていきました。
活動の幅が広がる中で、周囲からは野心家という印象を抱かれることも多いのですが、僕自身はまったくそんなつもりはなくて。
小さい頃と変わらず、ただただずっと夢中になって大好きな読書をし続けている感覚なんです。

これから挑戦したいのは、SNSの発信を通じてより多くの人の目に留まる売れっ子作家を育成すること。
これだけインターネットが主流になった現在も、まだSNSから作家が育っていく安定したルートは作られていません。
成功パターンを作り再現性ある形へ持っていくことをやってみたいですね。

とはいえ、若い世代がどんどん世に出てきている現在、40代の僕の感性がどこまで適応できるかわかりません。
そんな中、もう一度、新人作家と作品を作る。
大きな挑戦のタイミングが来たと感じています。

編集者として若手の頃は、ヒット作を生むためだけにがむしゃらになっていればよかった。
でも今度は、経営者として周囲を見ながら社員と協力して取り組むことも必要になってきます。
これからも大好きな読書をする感覚は持ち続けながらも、成功体験を再現性ある形で残し、さらに多くのヒット作を世に送り出していきたいですね。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年12月)のものです

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