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自衛官志望から教育の道へ。
学ぶ面白さを全ての人に届けたい
【長野の幼小中混在校のインターンスタッフ・酒井朝羽】

目次
  1. 教師の役割に感じた違和感
  2. 教育の主役はその場にいる全員
  3. 「学ぶことって面白いよね」を全ての人に

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、大学院で研究をしながら長野県軽井沢町の「軽井沢風越学園」のインターンスタッフとして働く酒井朝羽さんをご紹介。

高校3年生のとき、大学で何を学びたいかを問われ、即答できなかった酒井さん。自己分析をするなかで課題解決型の学習を経験した小学校時代の授業を思い出し、教育の道に進みます。酒井さんが掲げる理想の教育とは。お話を伺いました。

1教師の役割に感じた違和感

高校3年生のとき、自衛官になりたいと思っていました。
地元の長野県に自衛隊の駐屯地があって、自衛官ってカッコいいなという憧れがあったんです。

ある日、防衛大学校の先生が長野にやってきたので、話を聞きにいきました。
自衛官や防衛大学校の詳しいことが聞けると思っていたのですが、先生は「きみは防衛大学校に入って何を学びたいの?」と私に言ったんです。
私はすぐに答えられませんでした。
自衛官になりたいとは思っていたけど、何を学びたいか、考えたこともなかったんです。
答えられなかったことにショックを受けましたね。

何を学びたいのか見つけるため、そもそも自分は何者でどんな性格なんだろうと自己分析をしました。
分析の結果、人と話をしたり、議論をしたりすることが好きな性格だと改めて気づきました。

そんな性格になった背景には、小学校時代の授業のやり方が関係していました。
私のいた小学校は教科書を使って授業を進めることがあまりなく、「総合的な学習の時間」に多くの時間を割いていました。
総合では、先生から生徒への一方向的な授業ではなく、生徒自らが問いを見つけ、その解決方法を考える。
そんな学び方が当たり前のようにありました。

例えば、クラスでハムスターを飼いたいけど、餌代がない。
では、どうやって餌代を賄うべきかをみんなで考えるんです。
ある子どもから「野菜を育てて、野菜を売ったお金を餌代にすればいい」と案が出たら、じゃあどうすれば野菜を育てられるか、話し合いや議論が生まれます。
こうした授業を通じて、計算や野菜のことなどを学んでいくんです。
私は「総合的な学習の時間」が大好きでしたね。

私の性格や価値観に小学校時代に受けた教育が影響しているなと感じたとき、もし自分が教育に携わるとしたら、どんなことができるのか考えるようになりました。
考えていくうちに、自分にも教育に対してできることがあるかもしれないと感じるように。
教育について勉強するために、教育学部のある地元の大学に進学しました。

大学では教師になるための勉強を重ねました。
「教師とはどうあるべきか」を学ぶなかで、だんだん違和感を覚えていきました。
子どもと関わる先生なら、広い視野を持ってたくさんの知見があったほうがいい。
だけど、大学で学ぶことの多くは教師になるための勉強で、外の世界に目が向いてないなと感じたんです。

視野を広げるため、長野県で行われた高校生向けのサマーキャンプに運営スタッフとして参加したり、とある高校でいろいろな分野で活躍する大人との座談会を企画したりしました。

とくにサマーキャンプでは「どうすれば高校生がまちあるきを楽しめるか」を考えるところから携わりました。
スタッフ同士で考え、最終的に完成した企画は、イベント参加者がまちあるきをしながら写真を撮り、川柳をつくるというもの。
さらに、つくった川柳は地域の人に審査をしてもらうことになりました。

高校生や地域の人はとても喜んでくれたし、地域の人から「僕たちも学びになった」という声を頂きました。
プログラム次第では教育を受ける子どもたちだけでなく、関わる大人にも学びを与えられるなと感じましたし、先生以外の多様な人々が関わることで、子どもたちの学び自体の幅も広がると思いました。

2教育の主役はその場にいる全員

就職活動の時期になり、卒業してすぐに教師になるのか悩みました。
課外活動をするなかで、一緒になった大人たちから「社会も知らないで、そのまま教師になるの?」と言われたことがあって、心の中に引っかかっていたんです。

そこで、いくつかの就活サイトに登録して合同説明会や就活セミナーに参加しましたが、教育以外の業界にまったく興味が湧きませんでした。
結局、私にとって就職活動は意味がないんだなと思ったので、4年生になって教員採用試験を受けました。

ところが、試験は補欠合格でした。
合格した人が辞退したら、繰り上げ合格になるのですが、ほとんどそんな人はいないので、不合格のようなものです。
課外活動に力を入れていて、試験勉強を疎かにしていたから、しょうがないなと思いましたね。

でも、教育以外の分野には興味がなかったので、とりあえず講師をやりながら勉強をして、2〜3年たったら公立の小学校の先生をやろうと思いました。
進路も決まったので、卒業までに会いたい人に会っておこうと思い、いろいろな人に会いに行きました。

ある日、公立高校を中心にプロジェクトベースドラーニング(PBL=プロジェクト型の学習)の授業づくりをサポートするNPO法人青春基地の代表の女性と会う機会がありました。

青春基地は、PBLの授業づくりを通じて先生たちと一緒に学校改革に取り組んでいて、生徒たちの「やってみたい」という好奇心や興味関心をもとに長期プロジェクトをつくっています。

授業と放課後を利用して、ときには学校を出て、出会いと経験を繰り返すなかで学びを深めています。
ある高校では、学校を飛び出し、生徒自らが地元の人や文化をテーマに取材や企画づくりを行い、彼らの視点から地域を切り取ったフリーペーパーをつくっていました。

代表の女性は「長野で公立高校の先生向けの研修をしているから、よかったら見に来ない?」と誘ってくれたんです。
青春基地の研修の様子を見たり、代表の女性の話を聞いたりすると、PBLの学びは小学校時代に私が受けていた「総合的な学習の時間」の学び方に似ていて、とても面白い取り組みだなと思いました。
公立高校の現場で、地元の組織や人が一緒になって授業をつくり上げていく姿勢がすごいなと思ったんです。

私は学生生活を通じて、「学校教育は先生がつくる」ことに違和感を覚えていました。
でも、青春基地は子どもも、先生も、先生以外の大人も、授業に参加している。
全員が「教育の当事者」になっていて、素敵だなと思いました。

研修が終わった後、代表の女性から「2019年度から長野県の公立高校で青春基地が授業づくりのお手伝いをすることになって、スタッフを探している」と言われました。
その話を聞いて、将来小学校の先生をやるのと、青春基地のスタッフになって高校の授業づくりに関わること、どっちが楽しいかなと考えました。
小学校の先生として教壇に立ってカリキュラムに沿った授業をするより、青春基地で子どもたちと一緒に長期プロジェクトをつくったほうが絶対楽しいと思い、私は青春基地の職員として、働くことにしました。

青春基地のPBLをベースにした授業づくりは楽しかったですね。
生徒たちのやってみたいことをヒアリングして、一緒にプロジェクトを考えていくのは、生徒たちの未来に関わっているようでワクワクしました。

校長先生を筆頭に、先生や外部の大人も参加して、生徒と一緒にプログラムをつくって一つひとつ実行していく。
公立学校は外部の人との関わりを持つのが難しいので、閉ざされた環境になりがちですが、授業づくりを通して「開かれた学校」になっていく感じがしましたね。

青春基地での学生との会話

青春基地での学生との会話

青春基地で働いて1年ほどたったとき、モヤモヤを感じ始めました。
授業づくりは楽しかったのですが、学校現場の主役はあくまでも先生と生徒で、青春基地はサポートしかできなかったんです。
もっと直接的に生徒と関わりたい気持ちが生まれてきました。

この頃、長野県にある幼小中の混在校「軽井沢風越学園」のスタッフと話す機会がありました。
講義中心の一斉授業・画一的なカリキュラム・固定的な学級編成など従来型の学校教育にとらわれることなく、先生・子ども・スタッフ・保護者・地域の方々などみんなでつくることを大切にしている学校で、メディアでも話題になっていました。

スタッフに学園や授業のことを聞きました。
小学3年生以上は1人1台パソコンが支給されていて、オンライン授業は当たり前、校内のコミュニケーションもオンラインでできる仕組みをつくっているというんです。
全国の公立学校では、設備の問題もあってオンライン化の導入がなかなか進んでいないので、すごいなと思いました。

子どもたちが自分で自分の学びをつくる時間も設けています。
例えば図工室で物をつくっている子もいれば、ひたすら算数の問題を解いている子もいるし、フィリピンとオンラインを繋いで英会話している子もいるんです。

話を聞くうちに、この学校は私の小学校時代の学びの環境に似ているなと思いました。
この環境なら自分のやりたい教育ができて、子どもたちに寄り添える。
私は2020年8月に青春基地を辞め、風越学園のインターンスタッフとして働き始めました。

3「学ぶことって面白いよね」を全ての人に

いまは学園のインターンとして子どもたちのサポートをしています。

学校づくりに関われる毎日はワクワクがとまりません。

風越学園で働く酒井さん

風越学園で働く酒井さん

私にとっての理想の学校とは、その場にいる人たち全員が「学ぶことって面白いよね」と感じながら学べることです。
課題設定から子どもたちと一緒に行い、そこから議論して、実践形式の授業をつくり、サイクルを回していくのが理想ですね。

そのためには学校が地域や先生以外の大人もフラットな関係性で授業に関わる「開かれた学校」になることが大切だと思うんです。
たくさんの大人と触れ合うことが、子どもたちの深い学びになっていくと感じています。

教育の一番の喜びは、子どもたちの成長を見ることです。
今後も「開かれた学校づくり」を通じて、私なりの視点で子どもたちの成長を見つめていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年11月)のものです

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