シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

やりたくないを除けば、やりたいが残る。
夢は田端を山手線で一番有名な駅にすること
【タバタバー店主・櫻井寛己】

目次
  1. 「山手線で一番無名な駅」田端で育つ
  2. 取材を通じて田端の魅力を再発見
  3. 何もない田端だから、面白くしていける

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、東京都北区の田端を盛り上げる活動をしている、櫻井寛己さんをご紹介。

就職後もやりたいことがなかった櫻井さん。友人と一緒に今の自分たちができることをやってみようとさまざまな活動を始め、地元・田端のLINEスタンプを作って注目されたことをきっかけに、田端の魅力を発信することに。櫻井さんの田端に対する想いとは。お話を伺いました。

1「山手線で一番無名な駅」田端で育つ

東京都北区の田端で生まれました。
父親は田端でコンビニエンスストアを経営していて、祖父も曾祖父も田端で育ちました。
将来の夢ややりたいことがないまま大学生になり、この先どうやって生きていこうか常に考えていましたね。
親が自営業だったこともあり、スーツ姿のサラリーマンに憧れを抱いていて、大学卒業後はメーカーに就職しました。
コンビニを継ぐ気持ちはありませんでしたね。

働き始めてしばらくたった頃、心の中にモヤモヤが生まれました。
仕事に不満はなかったのですが、このまま40年も同じ会社に勤め続けるのかと思ったとき、本当に今のまま過ごしていていいのだろうかと思ったんです。
かといって、やりたいこともなかったので、何か行動するわけでもなく仕事をこなす日々が続きました。

同じ頃、中学時代から仲良しの友人と一緒に遊ぶ機会が増えました。
彼はとても面白くて魅力的な人で、彼のような人と一緒にいれば自分も面白くなれるのかなと思っていました。
話をするうちに、2人とも「起業したい」という共通点があると判明。
ただ、まだ起業するための武器を持ってないという結論になったんです。
じゃあ、仕事につながるスキルを身につけるため、面白そうなことに挑戦しようと「やってみたいことやってみる協会」というユニットを作りました。

イベントやものづくりを中心に行いました。
あれをやりたい、これをやりたいと2人で話し合うなかで、やりたいこととそうでないことの取捨選択ができるようになっていきましたね。それまで自分にはやりたいことはありませんでしたが、やりたくないことを外していけばやりたいことが見つかるんだなと気づきました。

協会を立ち上げてしばらくたった頃、LINEスタンプを個人で作れるようになったので、僕たちも作ってみることにしました。
どんなスタンプを作ろうか考えたとき、地元・田端のことをスタンプにしようと思いました。
地方から上京してきた知人が田端に来たとき、「駅前に何もない」「私の地元の駅のほうが栄えている」と言われたことが悔しくて、田端を盛り上げたい想いがあったんです。

田端のLINEスタンプ

田端のLINEスタンプ

この頃、地方の自治体が自虐ネタでPRする手法が注目されていたので、それにならって「山手線で一番無名な駅」というコンセプトでスタンプを作りました。
最初は私の友人や地元の人が買ってくれればいいなと思ったのですが、新聞やテレビなどの取材を受けるほど注目されました。
予想外の展開でうれしかったですね。

2取材を通じて田端の魅力を再発見

じつはLINEスタンプを作るよりも以前に、父親から「コンビニを継ぐ気持ちはあるか?」と言われたことがあったんです。
父親がつくり上げてきたコンビニをなくすのはなんとなく嫌で、コンビニならきちんと経営すれば潰れないだろうと思ったので、僕は24歳のときに会社を辞め、家業を手伝うようになっていました。

コンビニで働くうちに、この街には若い人がたくさん住んでいるなと気づきました。
でも、僕がよく行く飲食店には若いお客さんは多くないんです。
田端を楽しんでいない感じがして、もったいないなと思いました。

どうすれば田端に住む若い人に、もっと田端の魅力を伝えられるのか考えたとき、街の掲示板や回覧板のように、ご近所の情報が書かれている感覚で田端を紹介するメディアを作れば、若い人にも知ってもらえるのではないかと思いました。

早速、準備を始め、2017年、田端のための田端によるウェブマガジン「TABATIME(タバタイム)」を作りました。
グルメやイベント、歴史や文化など田端の情報をたくさん取材して記事にし、「田端」でネット検索すると「TABATIME」が上位に来るようになりました。
記事を見た田端の人とのつながりもできていきましたね。

取材を通じて、田端にはこんなに素敵なお店があって、魅力的な人がいるんだと再認識しました。
生まれてからずっと住んでいる街だったのに、まだまだ知らないことがたくさんあったんだと驚きましたね。
あらためて、田端って素敵な街だなと思いました。

一方で課題も感じました。
田端のお店を取材する中、古くからやっているお店が多いことに気づいたんです。
こうしたお店は昔からの常連さんが多く、田端に新しく住んだ若い人がお店に入りづらいなと感じました。

それなら、田端の住民同士が気軽に交流できるカジュアルな場所を自分で作ったらいいのでは。
地元のバーのマスターに相談してアドバイスなどを頂き、2018年11月、田端の人がカジュアルに交流できる立ち飲みの店「タバタバー」をオープンしました。

3何もない田端だから、面白くしていける

現在は、家業のコンビニエンスストアで店長を務めながら、タバタバーの店主、タバタイムの編集長を通じて、田端を盛り上げる活動をしています。

タバタバーには若い人から年配の方までさまざまな世代のお客さんが来てくれます。
狭い店ですが、カウンター越しのテーブル席には僕の手が届かないので、お客さんが料理を出すのを手伝ってくれたり、空いた皿を下げてくれたりして、お客さん同士の交流が生まれています。

タバタバー店内の様子

タバタバー店内の様子

週末になると、他の地域から来てくれるお客さんもいます。
タバタバーに来るために初めて田端に来た人もいましたね。
少しずつですが、田端での交流も生まれていて、お客さんを集めて花見をしたこともありました。

今後は、お酒が飲めない人でも交流が楽しめるようなお店を作ってみたいです。
僕がお店に立つ形でもいいし、一緒に田端を盛り上げていきたい人をプロデュースする形でもいいと思っています。

田端では、閉店するお店が増えています。
お店がなくなると住むだけの場所になってしまって、地域の魅力が半減してしまいます。
タバタバーを始めてから空き店舗の活用法を相談される機会も増えたので、もっと多くの人を巻き込んで田端を盛り上げていきたいです。

僕には夢があります。
田端を山手線で一番有名な駅にすることです。
特徴がない、無名だと言われる田端ですが、特徴がないからこそ僕たちの手で魅力ある面白い街にできると思っています。
そういう意味では田端のポテンシャルは無限大だと思います。

就職してからもやりたいことがなかった僕が、やりたいことを見つけられたのは、やりたくないことを言語化して除外したからです。
やりたくないことを除外して残ったのが、地元・田端の魅力を見つけて発信することでした。

これからも日本で一番田端を愛する男として、田端のことを発信し続けていきます。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年11月)のものです

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ
ご協力ありがとうございました
Related Stories

関連ストーリー

この記事を読んでいる人は、こんな記事も読んでいます
シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

マイマガジン

旬な情報をお届け!随時、新規ジャンル拡充中!