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周りの目を気にせず己の道を突き進む。
仏教に親しみをもってもらうために
【僧侶・仏教関連の本の出版・江田智昭】

目次
  1. ドイツで出会った信念を貫く僧侶
  2. 「お寺の掲示板大賞」で注目を浴びる
  3. 仏教をもっとカジュアルに広めたい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、公益財団法人・仏教伝道協会で仏教関連の本を作っている江田智昭さんをご紹介。

35歳のとき、仏教を広めるためにドイツの寺に赴任した江田さん。現地で布教活動をするなかでドイツ人僧侶たちと議論をし、自分の主張をハッキリ述べることや、やりたいことをやり続ける信念に感銘を受けます。帰国後、自身の使命を見つめ直し「お寺の掲示板大賞」を企画。世間の注目を浴びました。江田さんが見つけた自分の使命とは。お話を伺いました。

1ドイツで出会った信念を貫く僧侶

父親が福岡の寺の住職で、私も30歳のときに浄土真宗本願寺派の僧侶として東京の築地本願寺の中にある(一社)仏教総合研究所に赴任。
その後、主に大手出版社と組んで仏教の本を作る仕事をしていました。

34歳のとき、公益財団法人・仏教伝道協会の関係者から「ドイツのデュッセルドルフにある寺に赴任する僧侶を探しているが、見つからなくて困っている。江田さん、ドイツに行ってみませんか」と誘われました。

ちょうど同じ頃、本の出版が一区切りついて、大きな仕事を一つ手放したタイミングで、このタイミングでお誘いをいただくのも何かの縁だと感じました。
また、30代後半が人生の挑戦の最後のタイミングだとも思いましたね。
任期が5年ほどで、ずっとドイツにいるわけでもないだろうという軽いノリでドイツ行きを決めました。

2011年、35歳のときにドイツ・デュッセルドルフにあるドイツ惠光寺に赴任。
赴任後は、どうやって仏教を普及させるか悩みました。
ドイツはキリスト教文化で、そもそもお寺がまったくと言っていいほど存在しません。
また、坐禅や瞑想といった無言で集中するものが人気で、念仏を称える浄土真宗はほとんど知られていませんでした。
ドイツに来る前から分かっていたつもりでしたが、改めて日本の常識がまったく通じないと身をもって痛感しましたね。

寺には日本人とドイツ人の僧侶がいて、布教活動のため議論を多く交わしました。
そのなかで、日本人と違い、ドイツ人はみな自分の意見をハッキリ主張していることに気がつきました。
意見が違うのは当たり前で、違うからといって気にする様子はまったくありません。
互いの意見を尊重した上で、最善の解決法を見つけていくのが当たり前とされていたんです。

日本にいたときは他の僧侶の顔色を伺い、自分の意見が言えないときもありました。
でも、この場所で意見を言わないのは存在しないのと同じだと思い、できるだけ個人的な意見を述べていきました。
日を重ねるうちに自分の意見が他の僧侶と違っても気にならなくなりましたね。

ドイツ人の僧侶の中に、特に布教活動に一生懸命なフランク・コブスさんという方がいました。
彼はドイツやヨーロッパ中に浄土真宗を普及させようと活動していて、家の一部を寺にするほど熱心な僧侶だったんです。

私は彼の姿勢に感銘を受けました。
布教がほとんど進んでいないドイツで日本の僧侶以上に布教活動にいそしんでいる。
人の目もまったく気にせず、自分の信念に基づいて行動している姿に感銘を受けたんです。
彼の姿勢を見て、日本人の私がもっと信念を持って布教活動に取り組まないといけないと思いましたね。

ドイツ人僧侶のフランク・コブスさんと江田さん

ドイツ人僧侶のフランク・コブスさんと江田さん

ドイツでの生活を通じて、自分の意見をしっかり主張することと、人の目を気にせず行動することを学び、赴任から6年後の2017年、日本に帰国しました。

2「お寺の掲示板大賞」で注目を浴びる

帰国後は、公益財団法人・仏教伝道協会の出版事業部に配属されました。
そこで本の制作などに取り組みながら、SNSを使って仏教を広められないかずっと考えていました。
ドイツにいたとき、スマホが急速に普及し、SNSの利用者が増えたのを体感していたからです。

2018年4月、職場で「公募ガイド」という雑誌を読んでいたところ、地方テレビ局主催の「夏の甲子園 県予選応援キャッチフレーズ(標語)募集」という記事が目にとまりました。
記事には、昨年までの入賞作品が掲載されていましたが、どれも完成度が高いとは言えませんでした。
これくらいなら自分たちでも思いつけそうだと思い、同僚とお茶を飲みながら標語を考えていたら、かなり盛り上がったんです。

このとき、私は「お寺の掲示板標語を公募してみてはどうだろう」と思いつきました。
お寺の門前には、住職が書いた標語があります。
漢字だけのお経もあれば、有名人の格言、トレンドの言葉をもじったものもあって、標語にはあまりルールがありません。
この標語をSNSに投稿してもらって、作品として大賞を決めたら面白いかもしれないと思ったんです。

すぐに「輝け!お寺の掲示板大賞2018」という企画を2018年7月にスタートさせました。
しかし、予算は3万円ということもあり、最初は全然投稿が集まりませんでした。
これまでにない試みだったので、「こんなふざけた企画はいかがなものか」「SNSと仏教は合わない」という声もありました。
でも、失敗したらしょうがないし、自分のやりたいことを精いっぱいやると決めていたので、周りの声は気になりませんでしたね。

企画が始まって2週間後、「おまえも死ぬぞ 釈尊」という掲示板の写真が投稿されたのが、拡散され、ネット上で一気に注目されました。
さらに2週間後には新聞に取り上げられたんです。
いつかは世間の反響があれば良いと思っていましたが、始まって1ヶ月もたっていないのにこんなに反響があるとは。
うれしさよりも驚きでいっぱいでしたね。
その後もSNSでユニークな掲示板が投稿され、多くのメディアに取り上げていただきました。

話題となった掲示板「おまえも死ぬぞ 釈尊」

話題となった掲示板「おまえも死ぬぞ 釈尊」

2019年には掲示板大賞への投稿をまとめた本『お寺の掲示板』(新潮社)を出版しました。
SNSと寺の掲示板を掛け合わせることによって、仏教の布教活動に貢献できたのではと思います。

3仏教をもっとカジュアルに広めたい

現在は公益財団法人・仏教伝道協会、出版事業部の課長として、仏教の布教活動に努めています。

布教活動を行う江田さん

布教活動を行う江田さん

今後は、今まで誰もやってない形で仏教を広める施策を考えていきたいです。
仏教を広めるというと、どうしてもお堅い方法になりがちです。
もちろん今まで長く守られてきた大切な伝統は守っていかなければなりません。
ただ私は、もっと大衆に向けてカジュアルな形でも広めていきたいんです。
お寺の掲示板は新聞だけでなく、テレビ・ラジオ・雑誌などにも取り上げられました。
こうした形で仏教に親しみを持ってもらえることは、私は良いことだと思っています。

多くの人に仏教を広めるには、もっと仏教以外の取り組みや考え方を柔軟に取り入れる必要があると思います。
決して押しつけるわけではなく、気がついたら仏教に触れていたという仕掛けを展開していきたいですね。

「お寺の掲示板大賞」は今年で3回目となります。
仏教界は良くも悪くも保守的な業界です。
周りの空気を読んでいたら、こんなユニークな企画はできなかったと思います。
人の目を気にせず、企画をやり通せたのは、ドイツで学んだ考えが非常に大きく役立っています。

今後も仏教の普及のために、新しい仕掛けを発信し続けたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年11月)のものです

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ご協力ありがとうございました
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