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シングルマザー、36歳で司法書士に。
「スーパー強運」で掴んだ人生とは
【司法書士事務所の代表・太田垣章子】

目次
  1. 3年半全力で働き、お見合い結婚で専業主婦に
  2. 離婚をきっかけに猛勉強、36歳で司法書士に
  3. 「スーパー強運」でいるために、人にやさしく

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子さんをご紹介。

30歳のときに離婚し、シングルマザーになった太田垣さん。離婚する際お世話になった弁護士に薦められ、司法書士を志したそう。6年間の猛勉強の末、司法書士になれたのは「スーパー強運」だからと話すその真意とは。お話を伺いました。

13年半全力で働き、お見合い結婚で専業主婦に

小さい頃から本を読むのが好きで、将来は文章を書く仕事がしたいと思っていました。
関西の大学に入ってからは、出版社でアルバイトを始め、関西の著名人をインタビューして記事にまとめていました。
著名人の半生や価値観を直接聞いて、「人の人生を掘り下げるのって面白いな」と思いましたね。

勉強のためにいろいろな本を読みあさっていく中で、沢木耕太郎さんの人物描写力に感銘を受け、彼のようなスポーツライターになりたいと思いました。
その思いをアルバイト先の編集者に相談したところ、「スポーツを専門にしたいなら、せめて野球の知識がないと無理だよ」と言われました。
私の家はプロ野球を見る習慣がなかったので、知っている選手と言えば王貞治さんや長嶋茂雄さんくらい。
その程度の知識じゃ無理なんだと落ち込みましたね。

私が大学を卒業する年、プロ野球球団の買収がありました。
阪急ブレーブスがオリックス・ブレーブスに、南海ホークスが福岡ダイエーホークスに変わりました。
同時にオリックスは球団代表を一般公募すると発表。
私は、代表を募集するくらいなら職員も募集しているかも、と思いました。
スポーツライターは難しくても、球団の職員として広報誌を作れるのでは、と期待で胸がふくらみましたね。

私は早速、オリックス球団に履歴書を送り、一次試験に臨みました。
周りは野球オタクばかり。
これはまともにやったら勝てないと思い、試験の後、私は球団のオーナー宛に手紙を送りました。
「私は出版社のアルバイトでインタビュー取材をした経験があります。私が取材・執筆を行い、カメラマンと直接契約すれば、大手広告代理店に依頼するよりも、コストダウンできます」と書いたんです。
その後、選考をクリアし、1,200倍の倍率の中から選ばれました。
本当にうれしかったですね。

球団広報室に配属され、球団広報誌作りが始まりました。
手紙に書いたとおり、本当に一人で企画・取材・執筆・編集をするので、超過密スケジュールでした。
シーズン中はずっと選手と行動を共にし全国各地を転戦して、その合間にメディア対応もしていました。
1年で360日くらいは仕事をしていましたね。

本当に忙しくて寝る以外は仕事の日々でしたが、毎月出来上がる広報誌をファンが待ち望んでいるのを思えば、苦労とは思いませんでした。
また、取材をしていくうちに選手たちのプロとしての信念や考え方を知れて、人の人生を追いかけるって楽しいなと改めて思いましたね。

沖縄キャンプ中、トレーナーとの一枚

沖縄キャンプ中、トレーナーとの一枚

仕事をして3年半たった頃、両親から「もうそろそろ仕事はいいんじゃないか。いい加減にお見合いをして結婚してほしい」と言われました。
私の家はお堅い家庭で、姉も若いときにお見合い結婚をしていました。

この仕事を振り返ってみて、「もうできることは全部やった。もうやり残したことはない。来るべきときが来た」と思いました。
私は球団を辞め、お見合い結婚して専業主婦になりました。

専業主婦になってしばらくは平穏な生活だったのですが、だんだん結婚生活がうまくいかなくなり、子どもが生まれてすぐに3年間の結婚生活を終えました。

2離婚をきっかけに猛勉強、36歳で司法書士に

生計を立てるため、ライターのスキルがあるので、子育てしながらライター業をやろうと思いました。
でも子育てをしながら不規則な時間に働くのは難しいと感じていました。

何か資格を取ったほうがいいのかと、離婚のときにお世話になった女性弁護士に相談したところ「司法書士がいいのでは」と言ってくれたんです。
私は司法書士について知りませんでしたが、離婚のときにお世話になったこの人が言うなら「やってみようかな」と自然に思えました。

1歳の子どもを保育所に預け、予備校に通い司法書士の勉強をしました。
原稿執筆のアルバイトで生活費や受講費用を捻出。
生活はギリギリで、家賃などを払った手元には3万円しか残らず、食費が月に1万円でした。
生まれてこの方、お金を意識したことがなかったので、本当につらい極貧生活でした。

予備校を出た後は、年に一度の司法書士試験に向けて猛勉強。
しかし、試験は不合格、また翌年に向けて勉強の繰り返しでした。
お金もないし、死んでしまったほうがいっそ楽になれるのにと思ったときもありました。
でも、必死で勉強して36歳のとき、5回目の試験で合格できました。
これでようやくこの生活から抜けられる。
うれしさよりもホッとした感情が先に出ましたね。

合格した後、就職活動を始めました。
しかし、勤務先を探して履歴書を送っても、面接すらしてもらえませんでした。
36歳で小学2年生の子持ち、実務経験ゼロの女性を雇ってくれる事務所などなかったんです。
30ほどの事務所に履歴書を送りましたが、どこも同じ結果。
司法書士になればなんとかなると思っていたのですが、司法書士になるのはスタートで、そこから先輩司法書士と同じ土俵で戦わないといけないんだと気づきました。

なんとかしなければと、やっと面接をしてもらえた大阪の事務所に、「とりあえず1ヵ月無料で雇ってください。チャンスを与えてください」とお願いしました。
熱意が通じたのか、事務所の代表は私を基本給20万円で採用してくれました。

いざ勤務を始めたものの、実務経験はなかったので失敗の連続。
代表には毎日のように叱責を受けていました。
夕方に勤務を終えて帰路につくときは、悔し涙が出ましたね。
事務所で泣くわけにはいかないと、人通りの少ない道を一駅分歩いて、ひとしきり泣いてから電車に乗っていました。
それでもなんとか必死に食らいついて、少しずつ仕事もできるようになり、徐々に収入も上がっていきました。

事務所に勤務して4年半がたった頃、代表から「独立して頑張ってみたらどうか」と言われました。
私は独立するつもりは全くなかったので、言っている意味が分かりませんでした。
何かやらかして、クビになってしまうのかと思いました。

さらに話を聞くと、「いろいろな司法書士を見てきたけど、きみなら独立してもやっていけると思う。年齢的にも、最後のタイミングだ。もしダメだったら、いつでも戻ってきていいから」と言うんです。
代表がそこまで言うなら、やってみよう。
私は独立して事務所を開設しました。

3「スーパー強運」でいるために、人にやさしく

現在は東京に拠点を移し、司法書士業務の他、セミナーや本の執筆などをしています。

セミナーに講師として登壇する太田垣さん

セミナーに講師として登壇する太田垣さん

私は過去も、未来も考えていません。
今日1日、自分ができることを120%全力で出し切り、疲れきって気絶するように寝る。
この繰り返しで生きてきました。

半生を振り返ってみると、私は「スーパー強運」だと思います。
野球を知らないのに1,200倍の倍率をくぐり抜けて球団の広報誌を作ったり、30歳から勉強を始めて6年後に司法書士になったり、よく生きてこられたなと思います。
「太田垣さんが努力をしたからですよ」と言っていただくこともあるのですが、私は実力があったわけでなく運だけで生きてきたと思っています。

球団にいた頃、プロの世界で生き抜くため、選手たちが血のにじむような努力をしているのを見てきました。
でも、みんなが試合で活躍できるわけではないんです。
監督の起用方針でレギュラーになる選手もいれば、逆に控えになる選手もいる。

「努力をしたら結果が出る」という言葉がありますが、努力したからといって100%結果が出るとは限りません。
だから、私は、せめて神様に嫌われないように人に迷惑をかけない、人に喜んでもらえる行動を心がけています。

今後は私の経験やスキルを活かして、社会に貢献していきたいです。
シングルマザーとして司法書士の勉強をしていた頃は本当に苦しい生活でした。
この時代でもシングルマザーの置かれている環境は苦しく、生きやすい社会ではないと思います。
司法書士として第一線を退いたときはシングルマザーの支援をしていきたいですね。

お世話になったプロ野球界にもいつか貢献したいです。
選手はいつか必ず引退する時期が来ます。
選手たちが社会に出て働くとき、法律の知識があったほうが仕事の選択肢の幅が広がると思うので、そのサポートをしていきたいですね。

周りの人たちへの感謝を忘れず、これからも人に喜んでいただけるような人生を過ごしていきます。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年9月)のものです

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ご協力ありがとうございました
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