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うつ病になり「人生詰んだ」と思った。
男性育休・主夫が当たり前の世の中に
【兼業主夫/時短家事コーディネーター・片元彰】

目次
  1. 父親が育休を取ったらいけないの?
  2. 主夫の選択肢も悪くないかも
  3. 子どもが「早く大人になりたい」と思う世界を

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、兼業主夫・時短家事コーディネーターの片元彰さんをご紹介。

2人目の子どもが生まれたときに4ヶ月の育休を取得した片元さん。育休から職場に復帰した後も、子どもとの時間をつくろうとしますが、職場の理解がなかなか得られず苦しんだといいます。片元さんが主夫の道を選ぶまでにどんなことがあったのか。お話を伺いました。

1父親が育休を取ったらいけないの?

大学卒業後、営業職で製薬会社に入りました。
給与の高さに惹かれたのと、人に教えたり説明したりするのが好きだったので営業職が向いていると思ったからです。

会社はいわゆる体育会系でした。
上司や先輩の指示は基本的に守らなければならず、厳しい会社だなと思いましたが、小学3年生から大学4年生まで野球をしていて、縦社会での振る舞い方は知っていました。
そのおかげか、先輩や上司には気に入られていましたね。

24歳のときに結婚し、その2年後に長男が誕生しました。
長男が生まれてしばらくして、書店でたまたま一冊の本に目がとまりました。
本の著者は、男性の子育て支援を展開するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の安藤哲也さん。
これまでの父親像にとらわれない安藤さんの考えや、ファザーリング・ジャパンで活動するたくさんの父親のことが記されていました。

特に気になったのが、育休を取得して子育てをしている父親の話でした。
長男のときは育休を取得しなかったので、もし次に子どもが生まれたらお休みを取ってみようと思いました。

それから1年後、次男が誕生しました。
育休を取得すると、男性の営業職として初めての取得だったこともあって、風当たりは強かったですね。
上司は理解してくれていたのですが、社内の一部や社外の取引先からは、批判的な声も出ました。
取引先のクリニックに育休の話をしたら「きみが来ないなら、きみのところの薬は買わんで」と言われたこともありましたね。
そんなことを言われるとは思ってなかったので、モヤモヤしました。

それまでは営業マンとして仕事中心の生活を送っていたのですが、働き方を自分で変えなければと、子育てを楽しむ男性がたくさん所属している「ファザーリング・ジャパン」に入会しました。

育休から復帰した後は、子どもの面倒を見るため、働く時間を職場に調整してもらいました。
夜の仕事はなるべく入れず、早めに帰宅して、子どもとの時間を大切にしていました。

2主夫の選択肢も悪くないかも

入社8年目で、新潟に転勤になりました。
ここでも子どもたちとの時間をつくるため、早朝出社をするなどして、時間のやりくりをしていました。
しかし、転勤先の上司が私の勤務体系が理解できなかったのか、夜に「会社に戻ってこいよ」と電話をしてくるんです。
僕としては仕事はきちんとこなしているつもりだったので、言うことを聞くわけでもなく、反発をするわけでもなく、そつなく受け流していました。

そんな僕に怒った上司がある日、職場のみんながいる前で「なぜ私の言うことが聞けないんだ」と私を叱責したんです。
転勤してきたばかりの職場で、なんでみんなの前で怒られないといけないんだと思いましたね。
それから同僚たちも僕に近寄らなくなり、僕は社内で孤立するようになりました。

社外の関係者とも揉めました。
子どもがいるから夜にクリニックへ営業に行くことができないと伝えても、「クリニック側がどうしても夜に来てほしいと言っている」と言われるんです。
社内と社外どちらとも折り合いがつかず、ストレスがたまり、だんだん会社に行くのがしんどくなっていきました。
次第に頭痛や腹痛の症状も頻発。
朝、ベッドから起き上がるのも億劫になってしまったんです。

妻にこのことは言えませんでした。
妻は元々製薬業界で働いていたので、きっと私の苦労をわかってくれるはずです。
でも僕は、この悩みを妻に話して、状況について詳しく聞かれたり、話が続いてしまったりすることの方が嫌だったんです。

転勤してから一年ほどたったある朝、しんどそうにベッドから起きてきた僕に、妻が「今日は仕事行くのやめとけば?」と言いました。
妻は僕が会社に行きたくないのをわかっていたんです。
僕は「行く」、妻は「やめたら」、ちょっとした言い合いになりました。
僕は体調がおかしいことを自覚していましたが、認めたくなかったんです。
明日になればきっと大丈夫だからと妻を説得して、会社に行きました。
そんな僕に妻は「この状態が明日も続くなら、本当に行かないでほしい」と言いました。

しかし、一日で症状がよくなるはずもなく、翌日もベッドから起き上がれませんでした。
するとそんな僕を見かねた妻が、携帯電話など仕事に必要な道具を取り上げ、私を病院に連れていってくれました。
うすうす気づいていましたが、診断結果はうつ病。
「会社にはもういけない。人生詰んだな」と思いましたね。
呆然とする僕に代わって妻が会社との手続きを進めてくれ、僕は休職することになりました。

妻はそれまで個人で仕事をしていましたが、僕の休職中は会社勤めをして生計を立ててくれました。
その間、夫婦で僕の復職について話し合いました。
うつ病になったのは仕事が原因なのだから、その原因を断ち切った方が良いという結論になり、私は10年勤めた会社を辞めることにしました。

次の人生、どのように進んでいこうかと思ったときに、ふと頭をよぎったのがファザーリング・ジャパンのメンバーでした。
主夫をしている人、仕事を辞めて自分の好きなことで活躍している人。
いろいろな生き方の父親がいました。
彼らを思い出したとき、「自分で人生を切り拓けばいいんだ」と思えたんです。
会社で働かずに、家のことをやる「主夫」の選択肢も悪くないかも。
そう考えた僕は、家のことをきちんとやることから始めました。

3子どもが「早く大人になりたい」と思う世界を

2018年に生まれ故郷の広島に戻り、現在は兼業主夫として家事・育児などをしながら、自分のペースでできる仕事に取り組んでいます。ブログやYouTubeで主夫の日常について発信をしたり、時短家事コーディネーターの資格を活かしてセミナーを行ったりしています。

またファザーリング・ジャパン中国の代表として、主夫という生き方や、男性の育児参加を当たり前の選択肢として考えられる世の中にしていきたいと、さまざまな取り組みを行っています。

講演を行う片元さん

講演を行う片元さん

日本ではまだまだ「夫が仕事」「妻が育児」という価値観の人が多いです。
私も経験がありますが、男性が子どもの送り迎えやスーパーの買い物に行くと、周りから変な目で見られてしまう。
それに、育児休業を取る女性は8割を超えているのに男性はわずか6%ほど。

子どもが小さいときから父親が育児に参加すると、家族にいい影響を及ぼします。
母親も自然と笑顔になるし、子どもにもいい影響を与えます。
だからこそ、主夫のイメージを少しでも変えたいと発信をしています。

これらの活動の根底には、「早く大人になりたい!」と子どもたちに思ってもらえる世界をつくりたいという思いがあります。
世の中には苦しそうに生きている大人がたくさんいます。
僕は主夫を経験して、自分を含め、家事・育児や夫婦関係に悩む人をたくさん見てきました。
そんな姿を見ていたら、子どもは大人になりたいと思えないかもしれません。

大人たちがもっと楽しく生きられるよう、僕は家事を楽にすること、パートナーとの良好な関係を築くこと、父親の育児参加が当たり前になることを推進していきます。

まずはファザーリング・ジャパンの中国代表として、楽しく父親をしている人が集まるコミュニティをつくっていきます。
子どもたちの未来をよくするために、主夫として父親として何ができるかを考えながら生きていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年9月)のものです

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ご協力ありがとうございました
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