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人生の目標は何か。
お遍路で見つけた「スキル投資家」という生き方
【復業実践家/ビジネスプロデューサー・倉増京平】

目次
  1. 29歳で心臓に異変。今を全力で生きる
  2. 人生の目標がなくなり、途方に暮れる
  3. 「ビジネス僧侶」として同世代に寄り添う

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、社会課題の解決に取り組む挑戦者をサポートする倉増京平さんをご紹介。

29歳のときに心臓の病気を宣告された倉増さん。手術が成功した後、いつ死んでも後悔のないように、目の前の仕事や活動に全力で取り組んでいました。しかし、40歳を迎えたとき、次の目標が見つからず、途方に暮れたといいます。自分を見つめ直す中で、倉増さんが見つけた目標とは。お話を伺いました。

129歳で心臓に異変。今を全力で生きる

広告会社のデジタル部門で働いていた29歳のとき、心臓に異変が見つかりました。
医師からは「このままだと30代半ばで死ぬ」と宣告され、すぐに手術することを勧められました。
手術の成功確率は7割で、助からない可能性が3割もありました。

最初は意味が分かりませんでした。
結婚して子どもができて家も買って、人生これからというときに、自分が死ぬかもしれないなんてピンと来なかったんです。
それでも、他に選択肢がないので、手術と向き合うしかありません。
恐怖や不安を感じる余裕すらありませんでした。

幸い、手術は無事成功しましたが、さまざまな思いが頭をよぎるようになりました。
人間いつかは死ぬこと、心臓に異変がある自分は、もしかしたら人より早く死ぬかもしれないこと。
生きているって大事だなと思いましたね。

だからこそ、生きている時間を何に使ったらいいのか、しっかりと考えるようになりました。
それまで僕は仕事一筋で生きてきて、自分の人生を振り返る余裕などなかったんです。

ここはいったん自分を見つめ直してみようと、四国のお寺を巡る「お遍路の旅」に行きました。
すると、もっと新しいことにチャレンジしてみようという気持ちが、ぼんやりと湧き上がってきました。

それから「会社のために頑張る」ことは少なくなりました。
手を抜いているわけじゃありません。
ただ、限りある人生の中で、会社の仕事だけをしている場合じゃないと思い始めたんです。

東日本大震災を経験してからは、社会課題に目が向き始めました。
震災を境に、社会活動に取り組む人が増えました。
僕自身は、社会活動をしている人の気持ちがよく分からなかったのですが、何が起きているのか知りたくて、社会活動に関わるイベントや講演会に参加して情報を集めました。

35歳を過ぎる頃には世の中にあるいろいろな課題が見えてきて、自分にも何かできるんじゃないかと考えるようになりました。
僕は仕事で大企業のマーケティング活動に関わります。
だったら、僕がハブとなって大企業のマーケティング活動と社会活動をマッチングさせれば社会課題を解決していけるのではと思ったんです。

企業のニーズは把握していましたが、社会起業家のニーズは分かりませんでした。
彼らはどういう思いで行動し、何に困っているのか。
キャリア教育、働き方を変える取り組み、起業家の応援など多種多様なNPOや社会活動家の人たちと直接話をしました。
実際にいくつかの団体の中に入って活動もしましたね。

複数の団体に関わる中で、彼らの情熱に突き動かされたように活動する姿に惹かれていきました。
本来その人がしなくてもいいようなことを、見返りを求めずにやっている姿に惚れてしまうんです。
こういう人たちの手助けができればいいなと、僕は会社勤めをしながら平日の空いた時間や週末の時間を使って彼らの支援に力を入れました。

いつ死んでも後悔のないように、目の前の仕事や活動には全力で取り組む。
そんな生き方をしているうちに、かつて医者に死期として宣告された年齢を超えていました。

2人生の目標がなくなり、途方に暮れる

39歳を過ぎたとき、「あれ、死んでないな」と思いました。
元気に仕事ができて、お酒も飲める。
体調がいいのは喜ばしいのですが、僕の当初の予定では40歳くらいで「それではみなさん、さようなら!」と両手を振って笑顔でこの世を去るつもりでした。
急に人生の目標がなくなった感じがしました。

人は目標があるほうが人生の道しるべを立てやすい。
会社員なら出世という目標もありますが、僕は目の前のことに全力を尽くしていて、長いスパンの目標を考えたことがなかったんです。
人生の目標がないなと思った途端、「この先どうすんの?オレ」と、途方に暮れました。

このままではまずいと、僕は再び、お遍路の旅に出かけました。
お遍路の旅に出れば、人生で重要な気づきを与える何かが見つかると思ったからです。

8日間、自然の中を歩いてお寺を巡った

8日間、自然の中を歩いてお寺を巡った

白装束を着て、金剛杖をつきながら、ただただお寺を目指して歩く。
そうしていると、自然と過去の出来事が頭に一つ、また一つと浮かんできました。
自分には何ができて何を求められているんだろう。
じっくりと思考を巡らせていくと、ふと「スキルの投資家」という言葉が浮かびました。

一般的に投資家は、企業にお金を投資してリターンを得ますが、僕には投資するほどのお金がありません。
でも広告会社で20年近く働いて身につけたマーケティングスキルがあります。
このスキルを社会活動家やベンチャー企業といった、社会を良くするためにチャレンジする人に使いたいなと思ったんです。

もう一つ、夫婦関係についても見つめ直しました。
結婚して子どもができて10数年、仲が悪いわけではないのですが、子どもの話題以外で話す機会が徐々に少なくなってきて、このままだと夫婦の気持ちが離れていきそうな気がしていたんです。
どうしたら仲むつまじい夫婦でいられるかを考えました。

仲のいい友人夫婦のことを思い返すと、共通の趣味がある人たちが多いなと感じました。
僕たち夫婦の共通点ってなんだろうと探してみると、自分の好きな仕事をしてお金を頂くのに喜びを感じることだと気づきました。

ならば、夫婦で一緒に仕事をして、その仕事でお金を頂けば、夫婦共通の喜びになるのではないか。
そう思った僕は社外で関わっているさまざまな団体での仕事を妻に提案し、妻が面白そうと乗ってくれたら一緒に仕事をする。
そんなプランを描きました。

考えたことを実現するためにも、東京に戻ったら成果につながっていない活動は全て辞めよう。
そんな思いを胸に、お遍路の旅を終えました。

3「ビジネス僧侶」として同世代に寄り添う

お遍路の旅から帰ってきてすぐに、妻と一緒に仕事をするための会社を立ち上げました。
僕は「夫婦カンパニー」と呼んでいます。
「夫婦が末永く、いっしょに、楽しく活動できること」を目標に掲げ、一つでも多くの仕事に妻と挑戦することを目指しています。
結果を出して利益が出れば、夫婦旅行に行きたいですね。

40歳を迎えたときには、20年近く勤めた広告会社を辞め、ティネクト株式会社というベンチャー企業に経営参画しました。
2年ほど副業として関わってきたのですが、これからは経営側に立ってベンチャー企業の実態を見てみたいと思い、参画を決めました。
成果を追う難しさはありますが、やりがいを感じています。

スキルの投資事業として今後やっていきたい仕事の一つに、「ビジネス僧侶」があります。
ビシネス僧侶は、仕事の悩みを抱える同世代のビジネスパーソンを僧侶的な立場で、解決に導いていくんです。

これまで多くのビジネスパーソンはなるべく個性を出さずに、組織が求める成果を出すことが第一でした。
つまり、主体性がそれほど必要ないんです。

しかし、時代が変わり、多くの仕事に主体性が求められるようになりました。
例えば、大企業にも新規事業開発の部署があり、常に新しいアイディアを求められます。
それまで主体性を持って仕事をしていた人は、ある程度の道筋は立てられますが、それまで個性を抑えて組織のために頑張っていた人たちにとっては、大変な状況だと思うんです。

主体性を持った仕事といっても、何をすればいいのか、どうやればいいのか。
今後、そんな悩みを抱えるビジネスパーソンは増えていくと思います。
若い世代は柔軟に対応できるけど、旧来の価値観で20年近く仕事をしてきた僕と同世代のビジネスパーソンは悩んでしまうのではないでしょうか。

僕は企業勤めを20年近くしながら、多くの社会活動に関わりました。
会社員としての立場も理解できるし、社会活動を通じて多くの人の生き方を見てきている。
鮮やかに問題解決はできないかもしれないけど、心に寄り添うことはできます。
そんな人たちの悩みを聞く役割を果たしていきたいです。

積み上げてきた価値観を手放して新しい価値観を受け入れることは、過去の自分を否定することにつながるので怖いかもしれません。
しかし、新しいことを受け入れてチャレンジするに越したことはありません。

これからも年齢を重ねた自分にできることはなんなのかを常に探しながら、社会課題の解決に取り組むチャレンジャーを支援し続けていきたいです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年9月)のものです

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