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余裕が持てず25歳で離婚。
花と出会い、仕事も心も豊かになった
【フラワーデザイナー/「ローズアンバサダー」主宰・田中秀行】

目次
  1. 22歳で結婚し、3年で離婚
  2. アフリカのバラを売る女性との出会い
  3. 男性が気軽に花を楽しめる文化を広めたい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、ケニアのバラを販売する「AFRIKA ROSE(アフリカローズ)」の取締役である田中秀行さんをご紹介。

22歳で結婚し、パートナーとのすれ違いから25歳で離婚した田中さん。数年後にはフラワーデザイナーとして独立し、現在はバラでつながる世代を超えた男性コミュニティ「ローズアンバサダー」を主宰するなど、日本の男性が気軽に花を楽しめる文化の普及に努めています。その背景にある想いとは。お話を伺いました。

122歳で結婚し、3年で離婚

22歳で結婚しました。学生時代からお付き合いしていた年上の女性で、前の旦那さんとの間に子どもがいました。

大学で国際金融論を学んでいたこともあり、大学卒業後は金融業界に就職しました。
家族のために稼がないといけないと、仕事はとにかく頑張りました。
朝から晩まで働いていましたね。
働きながら、自分の父親のことを思い出しました。
僕を含めた兄弟3人を育ててくれたのが、いかにすごいことだったのか、あらためて感謝しつつ仕事に打ち込みましたね。

しかし、奥さんの考えは違いました。
結婚してからしばらくして、僕に「もっと家にいて一緒に過ごす時間がほしい。そのために結婚したんだから」と言ったんです。
僕には意味がよく分かりませんでした。
家族のために仕事をして、しかも同世代の中では収入も多い方だと思っていたので、どうしてそんなことを言われないといけないんだと思いましたね。

日に日に関係もギクシャクしていき、結婚生活は3年で終わりました。
「25歳にして大きく人生につまずいてしまった」と思いましたね。
離婚は僕にとってあまりにも大きく、胸が苦しい出来事でした。
25歳の僕は正直死にたいとも思ったくらいです。

そんな僕を支えてくれたのは、会社の同期たちでした。
食事に誘ってくれ、仕事以外でも一緒に過ごしてくれましたね。
素晴らしい仲間に支えられて幸せだなと思いました。

それから数年仕事をする中で、ふと将来のことを考えたとき、このままずっと金融業界で働くイメージが持てなくなりました。
仕事への不満というよりは、これが本当に自分がやりたいことなのか疑問を感じ始めたんです。

ある日、お付き合いしていた女性がフラワーアート教室に行くというので、ついていきました。
フラワーアートとは花を使った創作活動で、花束をアレンジしたり、花を使ったディスプレイを作ったりします。
レッスンを受けるつもりはなかったのですが、その場の雰囲気で僕も授業を受けることに。
いざアレンジメントしてみると、なかなか面白かったです。

はじめて田中さんがアレンジした花

はじめて田中さんがアレンジした花

教室で作った花は取引先の人にプレゼントしました。
すると、想像以上に喜んでくれたんです。
その姿を見たとき、「こんなふうに花で人を感動させられる仕事ができたら自分も働いていて気持ちがいい」と思い、フラワーアートを勉強することにしました。
週末を利用して彼女と教室に通い始めたんです。
花に触れていると、仕事のことを少し忘れて心が満たされる感覚になりました。

毎週末、教室のある横浜に行き、その後は中華街でご飯を食べる。
彼女と共通の趣味があって、デートもできる。
彼女との時間もさらに満たされていきました。
結婚生活がうまくいかなかった原因は仕事ばかりで趣味も持たず、一緒にいる時間をつくれなかったことだったのではと感じましたね。

2アフリカのバラを売る女性との出会い

もっと本格的に花の勉強しようと、在職中に休みを利用してフランスに行きました。
フランス政府公認のフラワーアートスクールに通い、花の魅力と奥深さを知りました。
デザインする人によって花の見栄えや価値が変わるんです。
日本円で数万円を超えるものもありました。
知れば知るほど、自分のデザインした花で多くの人の心を豊かにしたいと思うようになり、帰国後、思い切って会社を辞め、32歳のとき、フラワーデザイナーとして独立しました。

独立はしたものの、最初は知人の依頼で花のアレンジメントをする程度。
どうやって仕事を得ようかと考える日々が続きました。

そんな中、彼女の誕生日に恵比寿の三つ星レストランで食事をしていたところ、お店に飾られていた花に目がとまりました。
その花を見て直感的に僕がデザインしたほうがいい装飾になるかもと思い、「僕のデザインした花を見てほしい」と店員に話したところ、支配人が後日会ってくれることになりました。

せっかく会ってくれるならと、お店の雰囲気にあわせて装飾した花を持っていきました。
すると支配人は私の作った花を見て、お店に置くことを即決してくれたんです。
本当にうれしかったですね。
この仕事が実績となって徐々に依頼が増えていきました。

花を多く使うウェディング業界からも依頼が来ましたが、自分の表現したいデザインを提供することができませんでした。
限られた予算の中で結婚式を挙げるとなると、最終的に花の予算が削られてしまうことが多かったんです。
予算の関係で理想の装飾が作れないことに、もどかしさを感じていましたね。
日本とフランスの花に対する考え方の違いを知りました。

どうすれば、花を通じて自分の納得する仕事ができるのか。
そんなことを考えていたとき、私と同じく異業種から花の世界に飛び込んだ女性の存在を知りました。
彼女は「アフリカの花屋」として、ケニアの名産であるバラをイベントやオンライン上で、個人で販売。
活動を通じ、ボランティアではなくビジネスで、ケニアの貧困解消や雇用創出を目指しているのだというんです。

異業種からの転身、花で人の豊かな心を育むという共通点に親近感を覚えましたし、彼女の取り組みは、ケニアはもとより花を贈る人、贈られる人、さらには自分など世界全体の幸せにもつながると思いました。
この活動は、心の豊かな人を増やし、昨日よりも少し良い社会をつくるのではないか。
僕はすぐに彼女にコンタクトを取り、仕事を手伝わせてほしいとお願いをしました。
彼女も快諾してくれました。
約2年間共に活動し、2015年の初出店と同時にビジネスパートナーとして事業に参画しました。

初出店の準備をする田中さん(右から2番目)

初出店の準備をする田中さん(右から2番目)

3男性が気軽に花を楽しめる文化を広めたい

2015年、アフリカの花屋は「AFRIKA ROSE」と名前を変えました。
現在は取締役として会社の経営に携わる一方で、「ローズアンバサダー」という男性コミュニティを主宰しています。
バラを販売していくうちに、男性がもっと気軽にバラを楽しめる文化が日本にあればいいなと思ったのが、立ち上げたきっかけです。

日本では、男性がバラを贈るのは記念日やプロポーズなど特別なイベントのときが多い印象です。
花をもって電車にのったり、普段からバラを贈ったりするのは恥ずかしいと思う男性が多いんです。

バラは愛の象徴と言われていますが、「愛」は本来、「相手と幸せを分かち合いたい」と願うことだと思うんです。
夫婦や友人など自分の好きな人の幸せを願う気持ちをバラという形で伝える。
もっと気軽に男性がバラを買いに花屋に行ける、そんな世界を広げていくのがローズアンバサダーの役割だと思っています。
今後はバラでつながった人たちが集える場所をオンラインでもオフラインでもつくりたいと思っています。
例えるなら商店街のようなものでしょうか。
あたたかい集まりになればと企画中です。

現在、ローズアンバサダーは15~85歳までの男性500人ほどが在籍し、世代を超えてコンセプトに共感する男性が集まるコミュニティに成長しました。
2018年にはクラウドファンディングで資金を集め、病院でバラを使ったクリスマスイルミネーションを作りました。
ローズアンバサダーの中に小児科の医師がいて、「入院中の子どもたちがあたたかい気持ちになれるようなことができるといいよね」という会話から生まれた企画です。
僕も幼少期に入院していた経験があり、病院で過ごすクリスマスの寂しさを知っていたので、子どもたちや親御さんを喜ばせたいとメンバー数人で企画をしました。
イルミネーションを作るため、クリスマス当日にもかかわらず約20人のアンバサダーが手伝いに来てくれました。
世代を超えた男性たちが友達に会いに来る感覚で一つの目的のために集まり、一緒に作業ができたことは本当にうれしかったですね。

病院でローズイルミネーションを行ったときの様子

病院でローズイルミネーションを行ったときの様子

ローズアンバサダーに参加している人たちは、たくさんの喜びや悲しみを経験している人たちばかりです。
そんな経験をローズアンバサダー同士でシェアできれば、喜びは倍増するし、悲しみは半減すると思います。
ゆるいつながりだけど、「バラを気軽に贈るということが素敵だよね」という価値観を共通項に、もっと関係性を深めてほしいですね。

2020年6月にはローズアンバサダーコミュニティの輪をさらに大きくするため、「LIFE IS ROSE」という名前で法人をつくりました。
僕は20代の頃、気持ちの余裕が持てず、パートナーに嫌な思いをさせてしまいました。
今の僕のように、気持ちに余裕があれば、結婚生活も違ったのではないかと思います。
ローズアンバサダーというコミュニティを通して、男性が花を楽しめる文化を広め、世界中の人の心を豊かにしていきたいですね。
そして、一人ひとりが「自分にとってのバラ色の人生」を送るヒントに出会える場をつくっていきたいと思います。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年8月)のものです

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