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「学ぶ環境はいくらでもつくれる」と伝えたい。
全ての子どもに教育の機会を
【次世代教育の在り方を考える研究所所長/大学院准教授・小宮山利恵子】

目次
  1. チャンスを見つければ、いくらでも勉強できる
  2. 全ての子どもに学びを
  3. 学べる幸せを知ってほしい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、スタディサプリ教育AI研究所所長と東京学芸大学大学院・教育学研究科准教授を務める小宮山利恵子さんをご紹介。

両親の離婚をきっかけに経済的に困窮し、高校から大学院まで奨学金を使って進学した小宮山さん。学べる喜びと幸せをかみしめながら、「全ての子どもに教育の機会を与える」ことを目指しています。小宮山さんが考える「学び」とは。お話を伺いました。

1チャンスを見つければ、いくらでも勉強できる

中学2年生のときに両親が離婚し、母と妹、祖母と4人暮らしになりました。
母親は出版社に勤務していて朝から晩まで働いていましたが生活は苦しく、私は金銭的な負担を少しでも減らそうと、学費があまりかからない公立高校を目指して受験勉強をしていました。
勉強する私に、母が「教育は機会を与えてくれる」とハッパをかけてくれました。

しかし、私立の高校にしか受かりませんでした。
妹の学費も今後かかるのにどうしようと途方にくれていたところ、成績優秀者枠として奨学金が支給されると知ったんです。
制度を知らなかった私たち家族は大喜び。
本当にありがたかったです。
この恩をいつか社会に還元するため、ずっと学び続けようと決意しました。
そして私と同じように経済的に困っている子どもたちに教育の機会を与えられる仕事がしたいと思うようになりました。

高校はさらに勉強に打ち込みました。
教室では必ず一番前に座って授業を聞き、休日も朝起きてから夜寝るまで、食事の時間以外はずっと勉強していましたね。
クラスメイトからは「ガリ勉」「変わり者」と言われましたが、大学でも奨学金をもらわないと進学できない危機感があったので必死でしたね。

迎えた大学受験、希望した国立大学は不合格でしたが、合格した私立大学で奨学金給付の条件を満たしていたので、卒業まで毎月5万円を給付されることになりました。
本当にうれしかったですね。

さらに勉強したかったので、大学卒業後、200万円の奨学金を借りて大学院に進学しました。
しばらくして、先生から韓国の大学院に留学募集があって、良かったら応募してみないかという誘いを受けました。

このままだと留学費用もかかり経済的に厳しい。
奨学金制度はないか探したところ、成績など一定条件を満たせば韓国の財団が留学費用を給付してくれる制度を知りました。
留学にも奨学金制度があるとは思わなかったので、驚きました。
早速、この制度を利用して留学に応募。
合格することができ、8ヶ月の韓国留学に旅立ちました。
経済的な厳しさだけで勉強を諦めなくていいんだ、自分でチャンスを見つければ、勉強を続ける道はいくらでもあるんだと再認識しましたね。

韓国は歴史教育が盛んで、自国の歴史をよく知っている人が多く、政治への関心も高い学生がたくさんいました。
彼らに「日本の政治はどうなっているの?」と聞かれたとき、政治に全く関心がなかった私は、何も答えられませんでした。
大学・大学院では海外の歴史や文化を学んでいましたが、日本のことは全く知らない自分にショックを受けました。

将来、教育の世界で仕事をする上で、日本の歴史や政治をもっと知っておいたほうがいいなと思いました。
まずは日本の政治を実地的に学ぼうと、帰国後に国会議員秘書のインターンを経験し、大学院卒業後はそのまま議員秘書の仕事に就きました。

2全ての子どもに学びを

議員秘書は基本的にどんな業務もこなします。
来客のお茶出し、電話対応、地方出張、 議員のスケジュール管理、営業、目の回るような忙しさでしたね。

つらかったですが、肌で日本の歴史や政治を感じましたね。
4年半がたったころには、理解も深まってきたので 、そろそろ教育の世界で仕事をしようと思いました。
この頃に婚約したことも、秘書を辞めるきっかけの一つになりました。

出産後しばらくして、転職活動を始め、教育事業を展開する民間企業の秘書として働けることになりました。

入社後、環境の違いに驚きました。
仕事の役割が人それぞれ決まっていて、残業もほとんどないんです。
議員秘書をしていたときは、仕事の幅が決まっていなかったこともあって自ら考えて仕事をしていたので、やり方の違いに戸惑いましたね。

個人のスキルよりも、組織として決められた仕事をルール通りにこなすことを求められる環境。
なじもうとして、それがストレスになっていきました。電話をかける手が震えて番号が押せなくなったこともありましたね。
励ましてくれる先輩もいましたが、この環境で長く働き続けるのは難しいと、会長が海外移住したタイミングで退職しました。

退職後、半年間ほど転職活動をせず、自分と向き合う時間を作りました。
自分は何がしたいのか、どういう仕事が向いているのか、もっと深く理解する時間が必要だと思ったからです。
自分を振り返る中で、子ども時代にゲーム好きだったのを思い出し、ゲーム会社で教育関連事業ができないかと、ゲームづくりをしているIT企業に転職しました。

入社後しばらくして、副業として教育関連のコラムを書き始めました。
ある日取材で、オンライン学習アプリ「スタディサプリ」を立ち上げた会社の社長に出会いました。
スタディサプリは、定額でカリスマ講師の授業をスマホでいつでもどこでも視聴できるサービスです。

取材の中で、社長は「このサービスは経済的理由や地域的理由で塾や予備校に通えない子どもたちのために作りました。
このサービスで教育環境格差の是正をしていきたいと思っています」と語ったんです。

「これは私がやりたかったことだ!」と思いました。
取材後、お礼のメールとともに、サービスに関わりたいという想いをぶつけ、2015年、スタディサプリの運営会社に入社しました。
やっと子どもたちに教育の機会を与える仕事ができる。
とてもうれしかったですね。

3学べる幸せを知ってほしい

入社後、私は会社が新しく立ち上げた調査機関「スタディサプリ教育AI研究所」の所長に就任しました。
スタディサプリを使った子どもたちのデータを使って、一人ひとりにあった学び方とはどういうものなのか分析・研究をするんです。

現在はスタディサプリ教育AI研究所所長に加え、東京学芸大学大学院・教育学研究科の准教授も務めています。

さまざまな活動を経験し、発信・アウトプットする大切さを痛感してきました。
ある日、会社主催で参加者200人ほどのシンポジウムを開いたとき、メディア取材が1社のみで、シンポジウムが世間にほとんど知られずに終わったことがあったんです。
それを知った社長が「いいことをしていても、広く知られずに終わったら、なかったことと同じだよ」と。
その言葉を聞いて、やりたいことを実現したいなら、アウトプットまでしっかりやって、多くの人に知ってもらう努力をしないといけないと気づきましたね。

今はSNSで積極的に発信するようになりました。
2020年にはTwitterも始めました。
発信することでユーザーから意見がもらえるし、いろいろな気づきも得られるので学びに役立っています。

奨学金で高校に通わせてもらってから、私は学習できることが本当に幸せだと思っています。
学習することによって選択肢が増える。
その幸せを全ての人に知ってほしいですね。

勉強だけでなく、行動するのも学びに繋がります。
日本では大人になると、子どものときより勉強や学びの時間が減ってしまいます。
旅をする、仲間を増やす、好きを追求する、学びの時間が増えれば人生が豊かになっていくと思います。

5年後、10年後のことは全く考えていません。
先のことで考えているのは長くて3年後です。
単純に、より楽しいことをやりたい、より社会にインパクトを与えたいと思っていて、そのためには何をすればいいかを考え続けています。
全ての子どもに教育の機会を作ることを人生の軸にして、もっとワクワクする人生を歩んでいこうと思います。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年8月)のものです

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ご協力ありがとうございました
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