1激務で体調不良、サウナに救われる
データを集めて分析するのが大好きな子どもでした。
小学生のときに所属していた野球チームでは、自分のバッティングの打率と体調との関連を分析していました。
大学生になってからは、起きた時間、寝る時間、掃除をした回数など、表計算ソフトを使って自分のデータを30項目ほど記録していました。
その記録を分析して振り返り、どんな日に体調が悪かったのかなど、生活のバイオリズムを可視化するのにのめり込んでいきました。
分析した先に見えてくる新しい事実を知ることが、楽しくてしょうがありませんでしたね。
大学院に進み、データ処理・機械処理を専門に勉強しました。
就職活動を迎えて得意なデータ分析を活かせる職業はなんだろうと調べていくうちに、データサイエンティストという職業を知りました。
ビッグデータを分析・解析し、ビジネスに活用するための知見・情報を引き出す仕事です。
これは自分にぴったりだと思い、大手IT企業にデータサイエンティストとして入社しました。
仕事は多忙でした。
新しい仕事で量も特に決まっておらず際限なくやれてしまい、朝早く出社して終電で帰る生活が当たり前でしたね。
データ分析は面白かったですが、早く一人前にならないと、という思いから余裕がなく、日々のタスクをこなすので精いっぱいでした。
一日中パソコンの前で肩肘張ってキーボードをたたき、通勤のときにも仕事の情報収集のためにスマホを開いて、気の休まる時間が全くありませんでした。
常にIT機器に触れているので、交感神経が活発になって自律神経が乱れ、体調を崩しがちになっていきました。
ある日、銭湯・サウナ好きのライターさんが書いた「銭湯で交互浴をすると、健康になれる!」という記事を見ました。
交互浴は、熱い湯船と水風呂に交互に入る入浴法。
僕は時間のあるときに水風呂のある銭湯には行っていましたが、水風呂の存在意義が全くわかっていませんでした。
記事を読んで早速、銭湯で交互浴を試しました。
すると、その日の寝付きが明らかに違ったんです。
翌日の目覚めも良くて、仕事も捗りました。
交互浴にこんな効果があったなんて驚きました。
交互浴をするうちに、サウナにも行くようになりました。
サウナに入ってしっかり体を温めてから水風呂に入り、野外でクールダウンをする外気浴を行う。
この一連の動作の繰り返しに、どんどんハマっていきました。
2サウナ好き4人で作った検索サイト
2017年8月にフィンランド旅行に行きました。
フィンランドはサウナ発祥の国で、家庭にもサウナがあるほどサウナ文化が浸透しています。
周りに森と湖しかないサウナ付きのコテージを借りて、1週間滞在しました。
朝起きて、薪を集めてストーブに入れ、数時間かけてサウナを温めます。
その後、サウナに入り、水風呂代わりとなる湖に入って外気浴をする。
外界と遮断された、極楽世界にいる感覚を味わいました。
日本にいるときは、納期や業務効率といった仕事の細かいことばかりを考えて生活していましたが、ここにいると、そんなことがどうでも良くなるんです。
と同時に、「僕はなんのために仕事をしていて、将来どうしたいんだろう」と自分を見つめ直す時間ができたんです。
日本のサウナでも経験したことがない、ゆったりとした時間を過ごすことができました。
フィンランド人の生活を調べていくと、1年に1ヶ月ほど休暇を取り、家族や恋人と過ごす習慣があることを知りました。
日本はそんな長い期間、社会人が休暇を取る習慣がありません。
時間だけじゃなく心にも余裕ができる豊かな生活様式だと思いました。
帰国後、僕はますますサウナに通い詰め、多いときは週の半分以上もサウナに入っていました。
だんだんと、もっとサウナの素晴らしさを知ってほしいと思うようになりました。
サウナはおじさんが入るものというイメージが、まだまだ根強く残っています。
でもサウナは本来、フィンランドのように老若男女が楽しめて、リラックスした時間を過ごせるもの。
サウナ文化の素晴らしさを、日本人にもっと知ってほしい。
日本のサウナ情報を集めたサイトを作れば、もっと気軽にサウナに入り、魅力に気がつく人が増えるのではと考えました。
僕はサウナサイト作りに着手したんです。
ある日、フィンランド旅行の写真をTwitterに上げたところ、サウナ好きの男性から「フィンランドのサウナの話を聞きたい」とダイレクトメッセージが届き、都内の銭湯で初めて会うことになりました。
サウナに入ったあと、休憩室でフィンランドの写真を見せながら旅行の話をしていました。
その流れで、「実は日本のサウナ情報を集めたサイトを作っているんですよ」と話したところ、男性は「実は僕、ウェブデザイナーで、ありさんのサイトと似たようなものを作っている」と言ったんです。
すごい偶然だと思いましたね(笑)。
早速、2人でサウナの情報サイト作りに取りかかりました。
サウナ好きのエンジニア2人にも参加してもらい、フィンランド旅行から3ヶ月後の2017年11月、4人のサウナ好きが作った日本で初めてのサウナ検索サイト「サウナイキタイ」をオープンさせました。
サイトができたときの反響はすごかったです。
サウナ好きの人たちが全国各地のいろいろな施設の情報をサイトに登録してくれました。
自分の好きな施設を教えたら、多くの人が訪れて自分は使いにくくなるかもしれないのに、自分の好きな施設を知ってほしいという熱意で情報を提供してくれるんです。
サイトを運営している僕らまで心が熱くなりました。
3サウナは自分を見つめ直す貴重な空間
サイト開設当初は4,400ほどの施設情報を載せていましたが、現在は7,600ほどまで増えました。
施設の場所だけでなく、サウナの温度や水風呂の深さ、休憩スペースの有無などサウナ好きがこだわる細かい条件を検索できます。
サウナ体験を記録できる機能やサウナの魅力を伝え合うマガジン機能など、サウナの楽しみを共有し合えるサービスも展開しています。
今後は、サウナの素晴らしさを知ってもらうための活動を、さらに展開していきたいです。
ここ1〜2年でサウナブームが来ていますが、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くのサウナ施設では売上が減っています。
サウナに行けなくても施設を応援できる仕組みを作ろうと、施設のグッズを販売するオンラインストアを開設しました。
サウナは、現代社会の中で自分を見つめ直すための貴重な空間だと思うんです。
今はパソコンやスマートフォンですぐにいろいろな情報に触れられて、ちょっとした隙間時間にコンテンツを楽しめるようになっています。
便利な環境ですが、ずっと情報を入れていると、物事をじっくり考える余裕がなくなってしまうと思うのです。
サウナに入るとパソコンもスマホも持ち込めないので、一切の情報が遮断されます。
そうなると必然的に自分と向き合う時間が生まれます。
心が落ち着いて、「今の自分は何がしたいのか」を内省できるんです。
僕は本来、飽きっぽい性格ですが、サウナだけは別でした。
人生でサウナより良いものに出会ったことがありません。
老若男女が誰でも気軽にサウナを楽しめるように、サウナ文化がもっと日本に広まり、定着するように頑張りたいと思います。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年8月)のものです