シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

不登校・ひきこもりを経験したからこそ。
安心・安全に話せる場を提供したい
【不登校・ひきこもり専門の民間相談機関代表・丸山康彦】

目次
  1. 不登校で高校を7年かけて卒業
  2. 大人の言葉にきちんと向き合ってきたのに…
  3. 当事者が安心・安全に話せる場を

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、不登校・ひきこもり専門の民間相談機関「ヒューマン・スタジオ」を運営する丸山康彦さんをご紹介。

エリート一家に生まれた丸山さんは、いい成績をとらなければならないというプレッシャーから高校時代に不登校になってしまいます。その後も親や大人とぶつかり、ひきこもりを経験。苦しみから抜け出せたきっかけとは。不登校・ひきこもりの支援をするに至った背景とは。お話を伺いました。

1不登校で高校を7年かけて卒業

父方の家族が医者や官僚など、いわゆるエリート一家でした。
小さいときから僕もエリート意識を持っていて、いい成績をとっていい大学に入って社会に出て行くと思っていました。
ところが小学校・中学校と進むにつれ、勉強が苦痛に感じるようになったんです。
なんとか良い成績を保っていたものの、勉強がどうしても好きになれず学習塾に通ったり辞めたりを繰り返していましたね。

高校ではテストの成績が振るいませんでした。
このままだと、いい大学には入れず、思い描いていた人生が送れない。
勉強だけでなく、人生にも行き詰まった感じがして、生活そのものがしんどくなり、1年生の2学期から不登校になりました。

不登校になってからは、気持ちが乗っているときだけ学校に行きました。
数ヶ月に1、2週間程度でしたね。
出席日数が圧倒的に足りず、留年を繰り返し、4回目の1年生になっていました。
でも、学校を辞めるつもりはありませんでした。
僕にとって退学は、地獄に落ちるほどの恐怖感があったのと、学校への愛着があったからです。

4回目の1年生を迎えたとき、学校側が提示した「今度留年したら退学」という誓約書にサインをさせられました。
絶対に退学したくなかったので、これまでより積極的に学校に通いました。
1学期・2学期はなんとか頑張ったのですが、3学期に力尽きて、ほとんどの日を休んでいました。

あと半月ほどで3学期が終わる頃、どうせ退学になるとやけくそになり、それまでたまっていたうっぷんを母親に当たり散らしました。
暴れて物にあたることもありました。
こうなったのも、これまで僕の気持ちを無視した親の言動のせいだ。
誰も僕のことをわかってくれない。
そんな感情があふれてきて、僕は4日もの間、当たり散らし続けました。

5日目の朝に起きたとき、とてもスッキリした気分になっていました。
急に目の前が明るくなったような感じで自分の中からエネルギーが湧いてきたんです。
自分のためていた感情を全部出し切ったんだなと思いました。
それと同時に、僕は一体何をやっていたんだろうと後悔を感じ、とりあえず残り2週間は学校に毎日通って、悔いのない学校生活を送ろうと決意しました。

翌日は僕の19歳の誕生日でした。

そこから2週間は無欠席で学校に通いました。
担任の先生も僕のやる気を評価してくれて、職員会議で僕の退学を取り消すよう、働きかけてくれたんです。
覚悟はできていたので、どちらでもいいと思っていましたが、先生のおかげで5回目の1年生になることが許可されました。
その結果を静かに受け止めましたね。

それまでの学校生活を取り戻すかのように、毎日学校に行きました。
2年生、3年生と無事に進級、中学生のときから教師になりたかったので、大学は教育学科に進みました。

2大人の言葉にきちんと向き合ってきたのに…

大学に入ってしばらくしたある日、親とちょっとしたいざこざがあり、強い口調で言葉を発したことがありました。
親はそんな僕を見て、また荒れ始めたと思い、腫れ物に触るような対応になったんです。
その対応がショックで心が不安定になり、2ヶ月ほど大学に通えなくなりました。

このまま大学に通わないのはさすがにまずいと思い、知り合いの大人3人に相談しました。
今の自分の気持ちを率直に話したところ、2人の方から説教されたんです。
僕の気持ちを受け止めてほしかったのに、「親や大人は変わらないから、君が変わるべきだ」とか「君は心が貧しいから心配だ」とか言われたときはショックでしたね。
やっぱり不登校をするような人間だから大人に非難されてしまうんだと、悲しくなりました。

それからは親の望む行動をしようと、振る舞いや発言を考えるようになりました。
しばらくして大学にも復帰しました。

大学4年のとき、教員採用試験に落ちてしまったので、卒業後は高校の非常勤講師をしながら教師になるための勉強をしていました。
この頃から、親は僕の行動に対して口を出さなくなってきました。
もう大人なんだからと、僕を操ろうとしなくなったんです。
戸惑いましたね。

僕は学生時代に相談した大人3人に「親や大人は変わらない」と言われました。
その言葉にしたがって親への向き合い方も変えたのに、話が違うじゃないか。
大人ってそんないい加減なものだったんだと激しい憤りを感じました。

大人たちは僕を納得させるために言ったのかもしれない。
僕は真剣に悩んでいたのに、あの3人には悩む気持ちが伝わってなかったんです。

大人が信じられなくなり、誰にも相談できず、ひきこもるようになりました。

ひきこもりになってからは、ほとんど外出しませんでしたが、唯一高校の同窓会組織の総会には毎年足を運んでいました。
そんな背景もあって卒業10周年の学年会の幹事をすることになりました。
幹事として場所のセッティングをしたり、みんなに連絡を取ったりするのが、仕事みたいで楽しかったんです。

みんなに褒めてもらえるのもうれしかったですね。
この楽しさをずっと味わえたらいいなと、思い切って就職活動を始めました。
ひきこもっているときに、当事者不在の教育の現状に疑問を感じていたので、家庭や学校からはじき出された子どもに関われる仕事をしようと、児童福祉施設やサポート校の募集を探しました。

しかし、4年近く社会との関わりを絶っていた上、30歳を過ぎての就活だったのでなかなか思うようにいきませんでした。
同世代の友だちは就職して結婚して、みんな一人前になっている。
それなのに僕は就職すらできていないという負い目を感じました。
社会から離れていたことを激しく後悔しましたね。

就職活動以外の時間はテレビを見るか食事をするか。
鬱々とした日々を過ごしていると、自分は人間として最も下のランクだと思うようになりました。
自分は誰にも見向きもされずに生きていくんだという絶望感でいっぱいでした。

でも、ある日突然、「まるで野生動物のようだ。」と思いました。
アフリカのサバンナにいる野生動物です。
彼らは誰にも顧みられずに生きて死んでいきます。
僕は野生動物のようにやりたいことをやってダメなら野垂れ死ぬ、自然の成り行きに任せた生き方がいいかもと思ったんです。
そう思ったら、気持ちが楽になり、生きるエネルギーが湧いてきました。

このエネルギーを何に使おうかと考えた末、経験者である自分がひきこもりの支援をするのはどうかと思いました。
子どもの気持ちにより添う支援がしたいと、不登校やひきこもり、カウンセリングなどの勉強をして、2001年に不登校・ひきこもりを中心に多様な支援を行う民間機関「ヒューマン・スタジオ」を設立。
2003年からは不登校とひきこもりに関する相談、家族へのサポートに専念しはじめました。
また、メールマガジンなどを通じて不登校・ひきこもりへの理解と対応のあり方を伝えています。

3当事者が安心・安全に話せる場を

ヒューマン・スタジオの設立から20年ほどたちますが、「不登校・ひきこもりになる子どもや若者には何かしらの問題・欠点がある」という負のイメージは、あまり変わっていないと実感しています。
僕も不登校・ひきこもりになっていたときは「自分に問題がある」と思っていました。

でも、自分なりに勉強やカウンセリングなどの実践を重ねていくうちに、不登校やひきこもりは、いじめやプレッシャーから逃げて生き延びるために選ぶしかなかった「生きざま」だとわかったんです。
その選択は自らの意思とは関係はありません。
僕はエリート意識のプレッシャーから逃げるために不登校になり、自分の身の丈に合った生き方を発見しました。

不登校・ひきこもりの子どもを持つ親御さんからたくさんの相談を受けます。
僕の経験上、不登校・ひきこもり状態への対応で最も大切なことは「自然さ」です。
彼らの多くは「自然に生きられない」「無理をして生きてきた」という苦しみを抱えているからです。
自然な無理のない生き方を求めているのに、「社会に出ないお前はダメだ」と抑圧したり、「学校に行ってくれたら●●してあげる」と交換条件を出して無理やり学校や社会に戻らせようとするのは逆効果です。

当事者も家族も安心・安全に話せる場の提供が必要だと思っています。
僕自身、大学時代に相談して説教されたのが本当につらかったので、その経験を忘れず、相談に来る全ての人に安心して話せる場所を提供しています。

今後は、長年の相談業務などで培った当事者心理の理解の仕方や家族支援のスキルを伝える連続講座に力を入れていきます。
2017年から行っていて反響も大きいので、もっと広めていきたいです。
不登校・ひきこもりを経験した人による活動も増えているので、一緒に活動していきます。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年7月)のものです

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ
ご協力ありがとうございました
Related Stories

関連ストーリー

この記事を読んでいる人は、こんな記事も読んでいます
シェアする
Twitterでシェア Facebookでシェア

マイマガジン

旬な情報をお届け!随時、新規ジャンル拡充中!