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父親の役割を楽しめない人へ。
子育てはタスクのような感覚で
【父親コミュニティを運営するNPO法人代表・安藤哲也】

目次
  1. 父親って、何をやるの?
  2. 子育て術を社会に広めたくてNPO設立
  3. 人生を楽しむ父親を増やしたい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、男性の子育て支援を展開するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の代表理事・安藤哲也さんをご紹介。

中学生のとき育児のために休業したジョン・レノンに憧れ、自分も子どもができたらジョンのような父親になろうと決意した安藤さん。しかし実際子どもが生まれると、仕事との両立が難しかったり、オムツ替えなど苦手なことがあったりして、思うようにいきません。そんな安藤さんを変えた出来事とは。お話を伺いました。

1父親って、何をやるの?

父親が働いて家にお金を入れて、母親が専業主婦として家を守る。
昭和の時代によくある家庭構成で育ちました。
父親は仕事ばかりで、僕とはほとんど遊んでくれませんでした。
父親って背中で存在を示すんだなと思っていましたね。

中学生になると、父親が「将来は安定している公務員になるべきだ」「僕の生き方をマネして生きていけばいい」と、しきりに自分の価値観を押しつけるようになりました。
それがプレッシャーとなって拒食症っぽくなり、学校に行けなくなる時期もありました。

父親はお酒を飲むと、常に母親に強い口調で接していましたし、母親がそれに反発して夜中にケンカになることもありました。
僕はそれを聞くのが嫌でした。
父親の暴言や夫婦喧嘩が始まると、自分の部屋でビートルズの曲をかけてヘッドホンで聴くようになりました。
ジョン・レノンが好きで、彼の歌声で現実逃避していましたね。

14歳のとき、ラジオの深夜放送を聞いていたら、ジョンが日本人のオノ・ヨーコと結婚して、まもなく子どもが生まれることを知りました。
ジョンは、子どもが生まれたら休業して育児をすると宣言したんです。
シビれました。
子どものために仕事を休むなんて、すごくカッコいい、こんな人が僕の父親だったらいいのにと思いました。
将来、結婚して子どもができたときは、子どもとの時間をたくさん取るジョンみたいな父親になろうと思いましたね。

30歳のときに交際を始めた女性と同棲していたある日、些細なことがきっかけでケンカをしました。
このとき、つい強い口調で彼女を責めてしまったんです。
その瞬間、父親が母親にしていたことを自分もしてしまったと気づきました。
これじゃあ父親と同じじゃないか。

父親のようにはなるまいと思っていたのに、本当にショックでした。
二度とこんなことはしないと固く誓いました。

彼女が妊娠したのをきっかけに結婚しました。
35歳でした。
そろそろ僕も父親になるから、準備をしておかないとと思ったのですが、僕は父親との思い出が自転車を押してくれたことやキャッチボールくらいしかないので、何をすればいいのか見当もつかなかったんです。
さすがにまずいと、男性育児の本を読んだり、出産や子育て準備のための両親学級に足を運びました。
妊婦体験や人形を使った沐浴体験をして、子育ては大変だなと感じました。

妻は里帰り出産をしました。
娘が生まれてから、平日に仕事をして金曜の夜に妻の実家へ行き、赤ちゃんと過ごし、日曜日の夜に帰宅する生活が続きました。
ある日曜日の夜、帰ってきて誰もいない家の中で一人でのり弁当を食べていたとき、部屋にあるベビーベッドが目に入りました。
その瞬間、ジョン・レノンが育児宣言をした14歳の頃の記憶がよみがえりました。
「一体俺は何をやっているだろう。ジョンは一時、仕事を辞めて家族と同じ時間を過ごしていた。僕はジョンみたいな父親になるんじゃなかったのか!」と。
休職を検討しました。
しかしそれは難しい状況だったので、まずはできることをやろうと、娘にご飯をあげたり、お風呂に入れたり、夜寝かしつけたりと育児に励みました。

2子育て術を社会に広めたくてNPO設立

里帰りが終わった妻が仕事に復帰し、二人三脚で育児をする日々が始まりました。
私も仕事が忙しく、空いた時間にオムツ替えや入浴をさせるのですが、戦力不足でしたね。
妻からは「話がちがう。ジョン・レノンになるんじゃなかったの?」と言われていました。

特に苦手だったのが、子どもがうんちした後のオムツ交換です。
「うんちは臭いし、ばっちいし、なぜこれを俺がやらないといけないんだ」と思っていましたね。
どうしたら楽しくオムツ交換ができるのか。
オムツを握りしめて一晩中考え抜いた末に出たのが「子どものうんちは排泄物じゃなく、健康のバロメーター。子どもの健康を知るために毎朝うんちを見よう」と見方を変えることでした。
自分に与えられた大切な「タスク」として考えてみたら、全く苦ではなくなったんです。
それから積極的にオムツ交換ができるようになりましたね。

どうやって楽しく子どもに絵本を読み聞かせようか。
どうすれば娘や妻が喜んでくれるか。
明日は保育園の先生と何を話そうか。
子どもの成長とともに、育児がどんどん楽しくなっていきました。
父親を楽しむためにあらゆる知恵を絞っていましたね。

ただ、育児をするからといって、仕事の手は抜きたくありませんでした。
あるIT企業で部長職に就いたときも、子ども2人を毎朝保育園に送ってから六本木のオフィスに通い、週2日は定時までに必ず仕事を終わらせて退社していました。
定時で帰る部長として有名でしたね(笑)。

当時はバリバリ夜遅くまで働く父親がカッコいいという風潮が強かったので、残業をしない私の働き方に疑問を感じる人もいました。
でも、仕事は短い時間で成果を出せばいいと思っていたし、なぜ他の人がそれをやらないのだろうとすら思っていました。
「安藤さんだからできるんだよ」と周囲に言われましたが、能力ではなく、働き方をちょっと工夫するだけで生活時間はもっと増えるのにと思っていましたね。

ある日、同僚の男性が私の元に相談に来ました。
彼には小さい子どもがいて、これまで全く子どもに関わってこられなかったけど、今から子育てに関わるにはどうしたらいいかと言うんです。
私はそれを聞いて、「日本の父親はまだまだ子育てする人が少ないんだな」と痛感しました。
私自身、もがきながらも身につけた子育ての心構えや楽しい実践法をもっと社会に広め、笑顔になる父親を増やしていきたいと思ったんです。

仕事も育児も両立したい父親同士が仲間となってコミュニティが生まれれば日本はもっと良くなる。
そんな思いから、2006年11月、NPO法人「ファザーリング・ジャパン」を立ち上げました。

3人生を楽しむ父親を増やしたい

ファザーリング・ジャパンでは、男性の子育て・家事支援、父親学校「パパスクール」の運営、男性の働き方改革・育休取得推進など、さまざまな活動を展開しています。

ファザーリング・ジャパンの立ち上げから14年がたち、時代は変わりました。
当時と比べて30代など若い世代の父親の多くは育児をするようになりました。
私が23年前、1人目の子どもができる前に通った両親学級では、男性は3人しかいませんでした。
今は、ほぼ100%の男性が来ています。
だって今どき「なんで男性が育児をするのか?」と疑問を持とうものなら、女性は結婚してくれないかもしれませんから(笑)。

たまに育児休暇を取っても、子育てのスイッチがなかなか入らず、奥さんから「でっかい子どもが一人増えた」と言われてしまう男性もいます。
そうした男性に向けては、子どもの発達成長や良好な夫婦関係の構築、地域活動の楽しさなど父親が育児をするメリットをファザーリング・ジャパンで提供します。
父親の役割を果たしてくれる男性を増やしていきたいですね。

今後は人生を楽しむ父親を増やしていきたいです。
子育ては長くても20年ほどと期間限定です。
私は子育てが終わってライフステージが変わっても笑って過ごしたいですね。
サラリーマンで定年があったとしても、引退した後、おじいちゃんになったとしても。

父親が笑うためには周りの環境も大事です。
家族はもちろん、会社の上司の理解も必要です。
父親が笑うと子どもの成長にもいいという学術的なデータもありますし、父親が笑顔になれば、母親も子どもも笑顔になって、虐待もDVも減っていくのではないかと思います。

自分も最初はそうでしたが、昭和の価値観を持つ父親の元で育った男性の中には、その価値観に縛られている人もいます。
でも、僕は幸いにもジョン・レノンという父親像が見つかりました。
父親像に正解はないと思います。
いろいろな形があるし、家族の笑顔を思い浮かべながら、何をすればいいのかを考え、自分らしい父親のあり方を体得して欲しいですね。

大切な子どもの父親になった人へ。
せっかくなったんですから、思い切り父親を楽しみましょう!

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年6月)のものです

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ご協力ありがとうございました
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