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新しいエコシステムを生み出したい。
感性を揺さぶる作品が評価される社会に
【美大出身スタートアップ起業家・堺谷円香】

目次
  1. 作品の審査員、なせ少数?
  2. 「世の中からゴッホをなくす」ために起業
  3. アーティストをもっと幸せに

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、株式会社アートリガーの代表・堺谷円香さんをご紹介。

小さいときから絵を描いたり、物を作ったりするのが好きだった堺谷さん。有名アーティストの作品の価値が、本人が亡くなった後に評価される慣習に違和感を覚え、「世の中からゴッホをなくす」ために会社を立ち上げました。その背景にはどんな想いがあったのか。お話を伺いました。

1作品の審査員、なせ少数?

小さいときから絵を描くのが好きでした。
小学生のときに絵画コンクールで賞をもらってから、絵を描くことがさらに楽しくなり、没頭するようになりました。
中学の担任が美術の先生で、よく絵画のアドバイスをもらっていましたね。
先生の薦めで、地元・熊本の美術科がある高校に進学しました。

美術科は毎年20人ほどしか採らないので、県内から優秀な生徒が集まりました。
美術の歴史やデザインの歴史、色彩などを学び、コンクールに出品する作品作りに没頭していました。
クラスメイトたちは口には出しませんがライバル意識が強く、賞の数を競い合っていましたね。

コンクールでは、作品の審査方法に疑問を感じることがありました。
審査員はアート業界の重鎮のすばらしい方々ですが、少数の審査員の評価だけで作品が評価されることにどこかつまらなさを感じていました。

私はクラスの中で平均以上の評価をもらっていましたが、良い評価を得られるように作品を作っていた部分もあったので、個性を出し切れていないもどかしさがありましたね。
作品に出せない個性を外見で表現をしようと、一時期はコギャルのような派手な見た目で学校に通っていましたね。

美術の顧問の先生が退任するとき、お別れ会の段取りを担当しました。
思い出に残る会にしたくて、場所からタイムテーブルまで全て自分で考えました。
先生も生徒もみんな感動してくれました。
これだ、と思いました。
空間を演出してその場に居るみんなが一体となって喜ぶ瞬間に快感を覚えたんです。
こんな空間をもっと自分で作ってみたい。
空間デザインをもっと勉強しようと、私の好きな空間デザインの教授が所属していた都内の美術短期大学に進学しました。

短大卒業後はアルバイトでお金をためてイタリアに留学する計画を立てていました。
しかし、卒業の年の春に東日本大震災が発生しました。
報道で見る現地の景色に、「自由に生きる」という私の価値観が揺らぎました。
日本が震災から立ち上がろうとしている状態のときに本当にイタリアに行くべきなのかと悩みました。
今まで自分に向き合って作品を作り続けてきたけど、それでいいのか、と。
でも、その悩みを気軽に打ち明けられる人もおらず、同じイタリア語学校に通う60代の友人になんとなく相談してみました。
すると、「そういうときだからこそ、自分をしっかり持つのよ」と言ってくれたんです。
その言葉に後押しされて、2011年、イタリアに渡りました。

2「世の中からゴッホをなくす」ために起業

イタリアでは、現地で活動する日本人ジャーナリストの事務所でアルバイトをしながら、語学学校に通いました。
事務所の仕事は、日本から来るお客さまの案内です。
レストランへのアテンド、帰りのタクシーの手配、誰でもできる業務ですが、案内したお客さまがとても喜んでくれたんです。
こんなことでも、喜んでもらえるんだと驚きましたね。
作品を作る以外でも誰かに喜んでもらえると初めて気づきました。

しばらくしてイタリアの美大の試験を受けたのですが、失敗。
諦められず、もう一度挑戦するため、帰国してからは、アルバイト漬けの毎日でした。
ふと自分が本当にやりたいことはなんだろうと考えるようになりました。
勉強は年齢を重ねてもできるけど、今の自分にできることはなんなのか、と。

「適正な評価がなされる美術品の取引所」を作ろうと思いました。
例えば「ひまわり」で有名なゴッホの作品は、亡くなってから価値がはね上がりました。
アーティストが存命のうちに適正な評価を受けないのは、アーティストにとって不幸だと思ったんです。
アート業界の人に取引の仕組みについて疑問を投げかけて得たフィードバックで、これは業界の中から仕組みを変えるのは難しいと感じました。

業界の外から仕組みを変えようと考えていた頃、ベンチャービジネスがブームになっているのを知りました。
ベンチャー経営者にアート業界出身の人間はほとんどいませんでした。
ベンチャー企業を作ってこの問題に取り組めば、市場取引における課題解決につながると思ったんです。

2015年、「世の中からゴッホをなくす」というビジョンのもとに、アートリガーという会社を一人で立ち上げました。
創業から1年ほどは情報収集や発信を続けました。
ベンチャー企業の異業種交流会にたくさん足を運んでプレゼンを行い、とにかくアート業界や会社のことをいろいろな人に知ってもらうよう努力しましたね。
アート業界の人間がベンチャー企業を立ち上げたとあって、かなり異端だったと思います。

3アーティストをもっと幸せに

当初は私だけだったスタッフも、総勢10名ほどに増えました。
現在は知的創作活動を行う人やそれを広める人が適正に収益を上げられる仕組み作りに全力を注いでいます。

その取り組みの一つとして、著作権や独占販売権といったライセンスビジネスを効率化・自動化するサービスを提供しています。
ライセンスビジネスは日本ではなじみが薄く、ハードルが高いと思われがちです。
私たちがこのハードルを下げていくことで多くの人・企業にビジネスチャンスを生み出せればと考えています。

創業当初は、アーティストの作品を対象にしていましたが、現在はアーティストだけでなく、個人や法人も関係なく知的創作活動を行う人全てのモノや知財を対象にしています。

知的創作活動には、お金と時間がかかります。
創作活動の末に生み出された成果物が適正に評価され、さらに次のビジネスチャンスにつながる世界の実現に向け、自社サービスを大きくしていきたいです。

アーティストとは本来、世の中の問題を見つけて、なんのしがらみもなく作品で表現するものです。
そこから生まれる作品は新たな価値観を提供してくれます。
そんな作品が正当に評価されない世界は面白くないと思います。

自分が何者で、何を信じて作品を作り続けるのか、哲学を持って制作できるアーティストが増えればいいと思います。
哲学を持った日本のアーティストがもっと幸せになれるよう、私はビジネスサイドからサポートしていきます。

感性を揺さぶられる作品が見たい、その一心でこれからも走り続けていきます。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年6月)のものです

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ご協力ありがとうございました
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