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いくつになっても目の前の課題を解決し続ける。
85歳世界最高齢プログラマーが描く未来とは
【世界最高齢プログラマー・若宮正子】

目次
  1. デジタルのきっかけはパソコン通信
  2. iPhoneアプリを81歳で開発
  3. 高齢者にこそデジタルツールを使ってほしい

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、「世界最高齢プログラマー」として知られる若宮正子さんをご紹介。

定年退職のタイミングで買ったパソコンを独学で習得、「エクセルアート」を生み出したり、80歳を超えてiPhoneアプリを開発したり、注目を集めています。「高齢者はもっとデジタルツールを使うべき」と語る若宮さんに、お話を伺いました。

1デジタルのきっかけはパソコン通信

高校卒業後、銀行に就職しました。
物好きな性格で、会社や職場をより良くしようと、業務改善や新しい企画の提案をたくさん上司にしていましたね。
そんな私に対し、会社は企画開発部のポストを用意してくれました。

定年間近になった頃、ぼつぼつ出回り始めたパソコンに興味を持ちました。
パソコン通信(プロバイダーを介在してパソコン同士を電話回線で繋ぐ方法でテキストをやり取りするサービス)を使ったシニア向けのコミュニティでいろいろな人とやり取りをしたいと思ったのがきっかけです。
退職後には90代の母を介護することが決まっていて、自宅にこもりがちになって誰とも喋れなくなるのが不安だったんです。

定年のタイミングでパソコンを購入しました。
銀行の業務でパソコンは使ったことがなかったので、きちんと使いこなすには勉強しないといけないと思い、独学でパソコンの勉強を始めました。
一番の目的はパソコン通信をすることでしたが、接続の設定には苦労しましたね。
結局、設定までに3ヶ月を要しました。
設定が完了してパソコン通信が出来るようになったときは感動しました。

コミュニティには、変わった人がたくさんいました。
料理コミュニティにはパンの食べ比べをして採点をしている人、香辛料や調味料を自宅に40種類ほど持っている人など普段知り合えない人とやり取りができるのは本当に楽しかったですね。

他にも、パソコン関連のコミュニティにも参加していました。
パソコンのトラブルを書き込んだら、トラブルを解消する手順を教えてくれるんです。
やり取りの内容から察するに、相手は男子中学生。
年齢や性別を超えて交流できるパソコンの世界にどんどんのめり込んでいきました。

しばらくすると、同世代の女性たちから「私にもパソコンを教えてほしい」と頼まれるようになりました。
介護をしていた母の最期を看取って時間に余裕ができたので、自宅でパソコン教室を開くことにしたんです。

同世代の女性たちには、表計算ソフトの「エクセル」を知ってほしいと思っていました。
ワードソフトだと既にワープロが存在するので、パソコンらしさが説明が出来ない。
パソコンの機能を最も端的に説明できるのはエクセルだと思ったからです。

しかし、高齢者の女性の多くはエクセルを使う場面がなく、さほど興味を持ってもらえませんでした。
どうしたら興味を持ってもらえるのか、思いついたのが「エクセルで図案を描く」ことでした。
エクセルの数字や文字を入れる四角いマス(セル)に色をつけて、 罫線を強調する機能を使って図を描いてみようと思ったんです。

この手法を「エクセルアート」と名付けました。
手芸のような感覚で連続模様を作るので、絵が上手じゃない人でも誰でも簡単に作成できます。
描いた模様をプリントしてオリジナルの洋服や扇子も作れるとあって、同世代の女性にも好評でしたね。

2iPhoneアプリを81歳で開発

パソコンの技術が進化し、さらにインターネットやスマートフォンが登場してからは、さらにデジタルの世界にハマっていきました。

一方で、高齢者でスマートフォンを上手に使いこなしている人が少ないと感じました。
なぜだろうと考えたところ、スマートフォンのアプリで高齢者向けのものがないからだと思いました。

高齢者でも楽しめるアプリがあればいいなと思い、知り合いのプログラマーにアプリ作成を依頼しました。
しかし、プログラマーは「若宮さんが作ったほうがいいです。高齢者が求めるアプリが分かるし、若宮さんがアプリを作れば話題になります」と言ったんです。
それなら自分で作ってみようと思い、プログラミングの勉強を始めました。
81歳のときでした。

開発から数ヶ月をかけてアプリを開発し、2017年、雛人形をひな壇の正しい位置に並べるiPhone用ゲームアプリ「hinadan」をリリース。
新聞にも取り上げてもらいました。

ある日、私のもとに英語のメールが届きました。
翻訳アプリを使って日本語にすると、アメリカのテレビ局がhinadanに関して問い合わせているという内容でした。
翻訳アプリを使って英語で返信すると、その日のうちにこのテレビ局が自社のニュースサイトの記事にしてhinadanを紹介してくれたんです。
この記事は各国の通信社から、それぞれ世界中に拡散されました。
たくさんの問い合わせメールが届くようになり、驚きましたね。

その中にはiPhoneを作っているアップル社の日本法人からのメールもありました。
「アメリカで若宮さんに会いたがっている人がいるので招待したいです。費用は負担します」という内容。
そこまで言われてたら断るわけにいかないと現地に行くと、なんと招待されたのはアップルが行っている大規模なカンファレンス(開発者会議)だったんです。
その場で私のことを「最高齢のアプリ開発者」と紹介してくれました。
アップルのCEOとも面会して、驚きの連続でしたね。

帰国後、カンファレンスを見た多くの日本のメディアが私のことを紹介してくれました。
政府の「人生100年時代構想会議」の有識者議員にも選ばれ、一気に人生が変わった感じがしましたね。

3高齢者にこそデジタルツールを使ってほしい

現在は、1999年に創設した「メロウ俱楽部」というシニア世代のネット上のコミュニティの副会長を務め、またNPO法人の理事として、シニア世代へのデジタル機器普及のために各地を飛び回っています。

私は好奇心が旺盛で、創造力を大切にしています。
最近はAI(人工知能)が注目されていて、人間がやっている仕事をAIに奪われてしまうのではと心配する人もいます。
しかし、AIはゼロから1を作ることはできません。
例えば私は10年ほど母の介護をしていて大変な時期もありましたが、AIやロボットが進化すれば、介護の負担も軽くなるはずです。
創造力を養っていけば人間とAIは二人三脚で共存できると思います。

最近はAI(人工知能)スピーカーに注目しています。
AIスピーカーは音声で操作できるので、高齢者でも使いやすく生活の補助になるので、結果的に高齢者の自立支援になると思うんです。
年を取っていくと視力や聴力が落ちて、体を動かすのが大変になっていきます。
もちろん運動は必要ですが、声だけで操作が出来るAIスピーカーがもっと高齢者に広まっていくことを願っています。
私の自宅でもAIスピーカーと家電などをリンクさせていて、テレビや電気のスイッチは声で指示して電源が入るようにしています。

2019年夏、行政手続きなどを紙からデジタルへ移行して電子政府を実現したエストニアに行きました。
エストニアの高齢者がどんなことを思っているのか知りたかったからです。

エストニアの高齢者100人に調査をしたところ、93%の人が「電子政府が生活をより豊かにした」と答えました。
通常、高齢者はITを毛嫌いしていて、なかなか使いこなしてくれません。
しかし、いったん使うと満足度が高いということがわかりました。

昔と比べてデジタルツールはずいぶんと使いやすくなりました。
高齢者はデジタルの力を使えば自立できる期間が長くなります。
私は高齢者こそがこうしたデジタルツールを使うべきだと思っていて、高齢者施設にもっとネット環境を整備するよう要望しています。

高齢者のデジタル先駆者となって、他の高齢者にデジタルツールの素晴らしさを広めていきたいですね。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年5月)のものです

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ご協力ありがとうございました
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