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成長求めて大手企業を退職→起業
日本の農業課題をロボットで解決
【農業ベンチャー・成勢卓裕】

目次
  1. 旅客機の窓から見たオランダの風景
  2. 1年かけて見つけた日本の農家の課題
  3. 野菜の多様化を守っていく

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、農地で活躍する自律走行型ロボットを開発している成勢卓裕さんをご紹介。

大手IT関連企業を辞めて、農業ベンチャーを創業した成勢さん。農業を志したきっかけは、旅客機から見たオランダのある風景でした。成勢さんにお話を伺いました。

1旅客機の窓から見たオランダの風景

子どもの頃から、「迷うくらいなら、やっちゃえ」と考えるよりも行動するタイプでした。
両親は私の意思を尊重して見守ってくれていたので、決めたことに反対はせず、自由にさせてくれましたね。

中学生になって弓道を始めました。
選手としての腕が上がっていって、大学でも弓道部に入りました。
しかし、他の高校からやってきた部員たちのレベルが高く、大学2年生の冬には選手としてやっていくのに諦めを感じていました。

そんなとき、部活動の連絡組織である体育会本部で活動を始めました。
選手としては部活に貢献できないけど、選手たちのサポートや弓道部のために何かできないかと思ったんです。
他の部活が取り組んでいる目標設定の方法などを本部で聞き、弓道部に取り入れていきました。
何か課題を見つけて解決に取り組むことが好きになっていきました。

就職活動の時期になって、いろいろな会社の説明会を見て回りました。
ただ、学生から見た会社は表面的な部分しか見えなかったので、一生働く会社を判断することができませんでした。

今後の自分のキャリアを描いたとき、実力を高められそうな会社がいいなと思い、外資系の大手IT関連企業に入社しました。
グローバルプロジェクトに配属され、コンサルティング業務やシステム戦略を担当し、海外にも出張していました。

2014年、ドイツに出張に行く機会があり、旅客機が経由地・オランダの空港に着陸しました。
機内から窓を眺めていると、日本ではあまり見かけかない近代的な施設があったんです。
なんだろうと思って、日本に帰国してから調べてみたら、農業用のハウスだと分かりました。

さらに調べてみると、オランダは国土の面積が日本の九州とほぼ同じなのに、農産物の輸出額がアメリカに次いで世界2位だったんです。
効率的に農産物を作って輸出し、ビジネスに繋げているオランダの仕組みを日本でも応用できないかと考え始めました。
就職してから、世の中の大きい社会課題に取り組みたいという思いがあって、農業には何となく関心があったんです。

農業への思いが大きくなっていく中、新卒1年目のときと比べて成長の速度が遅くなっていると思い始めました。
仕事は楽しかったし、ITの力を使って業務の改革や効率化を進めていくコンサル業務には、やり甲斐を感じていました。
でも、仕事のやり方にも慣れてきてストレスを感じなくなっていたんです。
僕はストレスがかかる環境のほうが人間として成長できる実感があったので、自分の中である程度枠ができてしまった環境にもどかしい感じがしていました。

僕は将来的に大きい課題を解決したいという夢がある。
大きい課題を解決している僕の憧れの人たちと比べたとき、この居心地の良い環境にいたら成長スピードが足りないと思いました。
自ら農業の課題に取り組んでみたいと思い、3年9ヶ月勤めた会社を退職しました。
迷いはありませんでした。

21年かけて見つけた日本の農家の課題

会社を辞めて1ヶ月後、友人の結婚式で大学の同級生だった男性と再会しました。
男性は実家が農家で、銀行に勤めていましたが、銀行を辞めて農業をやるんだと言っていました。
私はいろいろな人に農業をやりたいと言っていて、男性にもそのことを話したら、「なにか一緒にできたらいいね」と言ってくれたので、実行に移しました。

日本の農業の課題はなんだろうと、2人で日本各地の農家に行って農地を見たり、農家さんに話を聞いたりして、現場から情報を集めました。
多くの企業が農業の課題を解決しようと取り組んでいますが、僕たちにできることはなんなのか、1年ほどかけて全国の農地を見て回りました。

その中で、海外の農地と日本の農地に違いがあることに気づきました。
海外の農家は大きな農地を固まりのように所有し、効率的に生産していることが多いのですが、日本の農家は農地を飛び地のようにバラバラに所有していたんです。
農地が飛び飛びになっているから、欧米のように大型の農機はなかなか導入できない。
飛び飛びの農地を効率よく管理するために、農作業や経営をサポートするための仕組みを作りたいと思いました。
そして農地の見回りや農作業をサポートするロボットを作ろうと決意しました。

ロボットのような機械を作るには多くの時間とお金が必要です。
自己資金だけで開発を進めるのは難しいので、まずは事業計画書を作り、投資会社にプレゼンをしました。
プレゼンは15分ほどでしたが、投資会社は資金提供を決めてくれました。
最初の投資家に会ってから2ヶ月後、会社を設立してロボット作りに着手しました。
2018年のことでした。

ロボット作りは苦労の連続です。
農地はアスファルトと違い、柔らかい土の上を移動するのでロボットが農地を自走する仕組みを作るのが大変です。
徐々にロボットをバージョンアップさせ、自律走行型のロボットの開発に成功しました。
ロボットは日々改良を重ねています。

3野菜の多様化を守っていく

現在は静岡県三島市の試験農場で野菜の生産をしながら、都内のオフィスでロボット開発に取り組んでいます。
自社のロボットを使って農場を運営、野菜を作って収穫し、収益を上げています。
会社を立ち上げてからは「良いことやってるね」と言われることが増えました。
でも、まだきちんとした成果は出ていないので、これから結果を出していかないといけないなと思います。

日本の野菜は海外の野菜と比べると新鮮で、種類も豊富、農家のレベルの高さを感じます。
昔から農業をやっている日本の農家さんって、本当にすごいんです。
野菜との向き合い方、栽培の工夫の仕方、パッと見ただけでどんな病気かすぐわかる知識・知見の豊富さには圧倒されます。

食材が豊かだと、料理人がいろいろな調理法を考え、レシピが増えていきます。
野菜を作る人、買う人、調理する人、野菜に関わる人口を増やしていくことで、食文化への多様性を維持していきたいです。

農業は、クリエーティブな仕事だと思っています。
いろいろな人たちが農業に関わることが大事だと思いますし、農業にはもっと多様性が必要だと感じますね。
農業に関わってから、いろいろな課題があることがわかりました。
私たちだけでは到底解決できるものではないので、農業に関わる人をもっと増やしていきたいです。

私たちの顧問をしてくれる農家さんは、新しいことにチャレンジするのが好きです。
基本は小松菜を生産していますが、130種類の野菜を栽培した経験もあるんです。
こうした新しい挑戦をし続ける農家に負けじと、私たちも新しいことに挑戦し続けていきたいと思っています。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年4月)のものです

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