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公務員は最強のツール
持続可能なまちづくりを神戸から世界へ
【神戸市役所職員・秋田大介】

目次
  1. 科学雑誌で目覚めた地球環境への興味
  2. 公務員としての財産 面白い市民とのつながり
  3. 持続可能なまちづくりのために全力で生き抜く

人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、神戸市の職員で、神戸のまちづくりに携わる秋田大介さんをご紹介。

中学生の時に科学雑誌を読んで地球環境に興味を持ち、その後、持続可能なまちづくりを目指して神戸市の職員になった秋田さん。公務員は理想のまちづくりのツールだと語ります。秋田さんの思いとは。お話を伺いました。

1科学雑誌で目覚めた地球環境への興味

子どもの頃は体が弱く、アトピーやぜん息を患っていました。
小さい頃から科学が好きで、雑誌「ニュートン」を愛読していました。
中学2年生のとき、ニュートンの「地球が危ない」という特集を読んだとき、将来結婚して子どもをつくるのはイヤだなと直感的に思いました。

また同じ雑誌の別の特集号で「未来を救う水素エネルギー」という記事が掲載されていて、それを読んで水素循環社会に可能性を感じるようになりました。
それ以来、地球環境に興味を持ち、環境を守る人になりたいと思うようになりました。
高校の理数選抜コースの受験では「地球と私」という小論文を提出し、面接では「科学者になってオゾンホールを埋めたい」と言いました。
熱意が通じたのか見事高校に合格、大学も環境工学があるところに進みたくて一浪して入学しました。

大学院も環境工学を専攻し、環境問題に関わる仕事がしたいと思っていました。
就職の時期になって、3つの選択肢で悩みました。
環境省の官僚、人口が多い自治体の職員、環境コンサルタントです。
当時は、環境問題をビジネスで解決するという考え方は浸透してなかったので、環境コンサルタントはやめました。
環境省は環境問題には取り組めるかもしれませんが、具体的に政策を実行する仕事がしたいと思い、環境問題に取り組めそうな自治体を探すことにしました。

いくつか自治体を探す中で、兵庫県神戸市が見つかりました。
開港都市で発信力があって、震災復興の最中でしたが、新しいことを取り入れてくれそうなイメージがあって、自分に合っているなと思ったんです。
地元の兵庫県高砂市から近く、土地勘もあったので試験を受けて神戸市の職員になりました。

最初の配属先は街路整備の担当でした。
街路整備は、車を通りやすくするよう道路を整備する計画を練る業務です。
与えられた仕事はきちんとこなしましたが、自分の主張はハッキリ述べるタイプなので、度々上司とぶつかったこともありました。

環境問題の大きな要因が車社会にあると思っていた私は、上司に「車のための道路は要らないのでは」と提案したこともありました。
しかし、こうした意見は当然のごとく受け入れてもらえず、役所の中で一人で闘っているような状態が続きましたね。

2公務員としての財産 面白い市民とのつながり

そんな状態が10年近く続いた2013年、神戸市の都心部である三宮駅周辺の再整備プロジェクトを立ち上げる部署に異動しました。
そのタイミングでアメリカに視察に行く機会を得て、まちづくりの最新事例を学んできました。

各都市で行政や住民の方から話を聞く中、視察先の一つであるポートランドでのヒアリングで、衝撃を受けました。
住民のみなさんの街に対する意識が高く、街が目指す方向性について行政の人並みに語ってくれました。
そして、ひとりひとりが自分の住む街ポートランドを「こんな街にしたい」という思いを持っていたんです
行政と住民のコミュニケーションがきちんと取れているんだなと実感しました。

それまでは、まちづくりは行政が主導していくものだと思っていました。
でも、いいまちづくりの進め方は、街の人にいかに一緒になって考え、行動してもらうかが大事なんだと痛感しましたね。
住民と行政が近く、みんなが「こんな街にしたい」という思いを共有することが大切なんです。
神戸の都心部のビジョンを描くために、市民を巻き込もうと思ったのです。

どうしたら街が良くなるのか。
帰国後、市民を巻き込むため、街の人からゼロベースで意見を公募するパブリックコメントを市のホームページで実施しました。
通常、内容がほぼ決まってしまっている計画のパブリックコメントに住民の意見はほとんど寄せられないのですが、300件以上の前向きな意見が寄せられたんです。
市外の人も、県外の人も、中には南米のコスタリカから意見を寄せてくれる神戸出身の方もいました。
神戸のことを考えてくれている人がこんなにもいるんだと思い、嬉しかったですね。
みなさんの意見を分析して集約し、ビジョン策定に生かしました。

「300人会議」というワークショップも企画しました。
小学生低学年から90歳手前くらいまでの市民が集まり、街をよくするために意見交換をしました。
ポートランドだけではなく、神戸市民の皆さんが自分の街をよくしようと、それぞれがきちんとした意見を持っていることに感動しました。

多くの市民に関わってもらおうと、市にゆかりのある1,000組の動画を撮影し、まちの未来の姿を語ってもらうプロジェクトも立ち上げました。
みんなが未来のまちで何をしていくのかを語ってくれるのを見て、自分が関わるまちには、こんな魅力的で素晴らしい人がたくさんいるんだと思いました。
動画はSNSで拡散し、たくさんの人に見てもらうことが出来ました。

最後を飾る1,000組目の動画撮影時の集合写真

最後を飾る1,000組目の動画撮影時の集合写真

撮影を進めていく中で、「最後の1,000組目は誰にしようか」という意見が出ました。
確かに最後の人選は大事です。悩みながら出したのは、これまで動画に出てない人も出た人も出たい人はみんな集まれ!という結論でした。
市民に声をかけたところ、400人以上が動画撮影に参加してくれました。
この人たちとなら、未来のまちづくりが出来ると確信しましたし、公務員としてこんなに面白い人たちとつながれたのは、貴重な財産となりましたね

3持続可能なまちづくりのために全力で生き抜く

2019年4月、企画調整局つなぐ課の特命課長という職に就きました。
街中の社会課題を解決するため、行政の部署や民間企業、NPOなどの力をつないでチームや仕組みをコーディネートするのが主な業務です。

またNPOの立ち上げに関わり、副理事長も務めています。
理事長は事故で半身不随になった男性で、地元神戸にある須磨の海で障がいがある人もない人も一緒に楽しめる海水浴をしたいという思いを持っていました。
その思いを実現するため、行政を知る立場としてサポートをし、市民を巻き込んでプロジェクトを立ち上げました。
たくさんの人の協力があって、彼の思いはどんどん実現していっています。

水陸両用車椅子のヒッポキャンプを使っての海水浴

水陸両用車椅子のヒッポキャンプを使っての海水浴

NPOのメンバーと秋田さん

NPOのメンバーと秋田さん

公務員の立場から離れ、個人としてアートプロジェクトも展開しています。
役所から許可をとり、神戸市役所の庁舎の壁にミューラルアート(壁画)を描きます。
アートは心の豊かさを育む上で、まちづくりに必須だと思っています。
しかし、日本ではきちんと報酬を得て活動しているアーティストが少ないのが現状。
一方海外ではアートに投資する文化ができていて、アートの価値が確立されています。
日本でアーティストが生活できるような支援もしていきたいですね。

今後は神戸だけでなく、世界に目を向けて持続可能なまちづくりに取り組みたいと思っています。
中学2年のときにニュートンの特集を見てから、持続可能なまちづくりをすることを常に軸に据え、活動してきました。
当時は子どもを作るのがイヤだと思いましたが、今は結婚して息子が二人います。
私は、自分たちの世代が苦労してでも、将来の世代にツケを回さない社会にしたいです。
そのためには全力で、持続可能なまちづくりに取り組みます。

公務員は基本的に、今いる市民のために汗を流します。
それはそれで間違っていないのですが、これからの時代、公務員は「未来の市民」つまり、これから生まれてくる子どもたちに向けたまちづくりもしていく必要があると思います。
それが結果的に持続可能なまちづくりにつながっていくと思います。

私にとって公務員はツールだと思っていて、神戸のまちづくりを進めるという点で神戸市職員という立場は最強のツールだと思っています。
今は神戸のまちづくりに尽力していますが、ツールと言っている以上、どこかでその公務員というツールは使えなくなると思います。
年齢とともに役職もあがっていて、実行役から管理役に役割が変わりつつあります。
自分は実行役でありたい、管理には正直、向いてないと思うんです。
自分の活動のために、公務員以外の新しいツールを取りに行かないといけない時期が近付いているのかもしれませんね。

私の座右の銘は「人生、太く濃く生きて、長かったらもうけもん」です。
細く生きても長い保証はないので、一日を全力で生きぬく。
長く生きられたらラッキーなつもりで、これからも持続可能なまちづくりをしていくために人生を全力で生き抜いていこうと思います。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年4月)のものです

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