人はどのようにして大切にしたい価値観に気づき、人生の軸を見つけるのか。各界で活躍する方の人生ストーリーから紐解きます。今回は、広告代理店に勤務する傍ら、週末を使って世界を旅する「リーマントラベラー」として活動する東松寛文さんをご紹介。
英語が得意ではない東松さんは社会人3年目のとき、生まれて初めて1人で海外旅行を経験しました。片言の英語で必死に現地の人とやり取りをする中で、日本国内での旅行では味わえない成長や達成感を感じて海外旅行の魅力にハマり、リーマントラベラーとしての活動を始めます。東松さんが大事にしている価値観や目標はなんなのか、お話を伺いました。
1キューバ旅行で学んだ「自分らしく人生を楽しむ」
大学を卒業し、広告代理店で忙しい日々を過ごしていた社会人3年目の2012年、アメリカのロサンゼルスで開催されるプロバスケットボールの試合のチケットをいただきました。
上司に頼み込んで休暇をもらったものの、一緒に現地に行く人が見つからず、生まれて初めて1人で海外旅行に行くことになったんです。
僕は、英語は得意ではありません。
でも、「ホテルとか現地でおさえてナンボでしょ」と思ったので、ガイドブック片手にバックパック一つで日本を出発しました。
しかし、現地の空港に着いたとき、ガイドブックを日本に忘れたことに気づきます。
Wi-Fiを持っていかなかったので、携帯電話も使えません。
駅で地図を買ってみたものの、よくわからず、不安だけが募っていきました。
とりあえず宿を探すため、現地の人たちに「I want to go to hotel.」と訪ね歩きました。
英語を話すのも初めてで、あまり通じませんでしたが、必死にアピールしたのが通じたのか、何とかホテルに泊まれました。
ホテルを出た後も現地の人と意思疎通を図ってバスケットの試合会場に到着、観戦が叶いました。
試合後も現地の人と仲良くなり、予想以上に観光地を回れました。
英語が話せなくても、海外旅行は思ったより簡単で楽しいなって思いましたね。
日本国内の旅行は少し調べれば目的地に行けますが、今回の旅行はホテルに辿りつけただけで、すごく嬉しかった。
日本で感じない成長とか達成感を容易に感じられたんです。
「海外に行かないなんて、本当にもったいない」。
その後は、積極的に旅行するようになり、日本から近い国をいくつか訪れた後、以前から行きたかったキューバを訪れました。
観光地をひとしきり回った後、旅をもっと楽しもうと現地の人に声をかけてみました。
すると、家族の食事に招待されたり、みんなで一緒に踊ったりと、驚くほどフレンドリーに歓迎してくれたんです。
彼らは決して生活水準が高くないけど、心から生活を楽しんでいる様子でした。
だからこそ、人をもてなす心のゆとりがあると思いましたね。
僕は「大学に行った方がいい」「新卒で社会人」「終身雇用」といった一般的な日本人の価値観に、特に疑問を感じたことはありませんでした。
価値観に沿ったレールに乗って生活するのは安定しているけど、心は果たして豊かなのか。
キューバの人たちは社会主義で日本人より選択肢が少ないけど、日本人よりも心が豊かで、幸せそうだと感じたんです。
キューバの旅では「自分らしく人生を楽しむこと」を学びましたね。
2旅は「多様な生き方・働き方」を知る手段
入社4年目に部署異動があり、少しゆとりが生まれ、自分はなんのために働くのか、改めて考える時間が出来ました。
後輩の給料が多いのは、残業をたくさんしているからだという現実を見て、報酬のために頑張るような働き方に違和感を感じたんです。
考えた結果、お金のために働くのではなく好きなことがしたいと思うようになりました。
自分がやりたいことの規模を図る一つの基準に「ありがとうを何人から言われたいか」があると思うんです。
10人なら家族や親友、100人なら友達、1,000人ならSNSで繋がる人に素敵なことをすればいい。
これを考えたとき、僕は世界中の人に「ありがとう」と言われたいと思ったんです。
そのためには、社内だけで頑張っても広がらない。
僕が満足できる反響を得るには、会社の枠を超えた活動をするしかないと思い、会社の外でできることを探すようになりました。
忙しい仕事の合間を縫って行きまくっている海外旅行に何かヒントがあるかもしれないと思い、世界中を旅する理由を考えるようになりました。
考える中で、自分にとっての旅行の意味は、観光地を回るためではなく、人々の多様な生き方や働き方を知ることなんだと腹落ちしたんです。
日本では体験できない生き方の選択肢を、海外で知れたのはすごく幸運でした。
時間とお金と勇気があったことで海外旅行に行くことができ、生き方の選択肢を知ることができた。
でも、この3つのどれかがネックになって海外にいけない人もいる。
僕が発信することで、より多くの人が生きる選択肢を知り、自分らしく生きることにつなげたい。
そうして情報を発信して「ありがとう」と言われる規模を広げていくことが、自分のやりたいこと。
僕の「自分らしい生き方」だと気づいたんです。
世界中の人に「ありがとう」と言ってもらえるよう、「リーマントラベラー」を名乗り、発信を始めました。
2016年には毎週末に海外旅行へ行き、現地の情報をSNSなどで発信し続けました。
3か月間で5大陸18カ国を回り、働きながら「世界一周」を達成しました。
達成してからは、私が周りの人に「ありがとう」という機会が増えました。
周りのみんなにに支えられてるから世界一周ができたと実感したんです。
「ありがとう」の数をさらに増やそうと、旅を楽しむ交流会やオンラインサロン、講演活動のほか、リーマントラベラーと行く海外ツアーも企画しました。
3日本人が「自分らしく人生を楽しむ」手助けを
2019年に入ってから、各地の小学校や中学校、高校などで講演するようになりました。
学校教育だけでは教えきれない多様な生き方の選択肢を、子どもたちに伝えたいと思ったからです。
子どもたちからは「もっと世界が見たい」「行ってみたい」という感想が多く聞かれます。
そんな子どもたちの声に応えようと、2020年からYouTubeチャンネルを開設し、世界各地の様子を動画で発信しています。
僕の場合、「行ってみたい」の原動力は、テレビの旅番組でした。
観光地だけでなく、現地の人との触れ合いや日常を映した番組が好きで、こうした旅番組に背中を押されて旅行をしてきました。
キューバに行きたいと思ったキッカケも、テレビの旅番組でした。
でも最近、こうしたいい旅番組が減っていると感じています。
海外に行った気になれる番組が少なくなっているんです。
子どもたちが「世界を見たい」と思ったとき、何を参考すればいいのか。
「じゃあ僕が動画を配信すればいいんだ」と思ったんです。
僕のYouTubeを見て、子どもたちが「行ってみたい」「行った気になれる」と思ってくれればうれしいですね。
2020年はカザフスタンにあるロシアの宇宙基地から発射する有人ロケットを見に行く予定です。
僕は最終的に宇宙を旅行したいと思っています。
僕が旅好きな原点は「純粋に知らない世界を見たい」からです。
現地に行って、現地のリアルをみて、その時の自分の感情を知りたいんです。
その感情はネットニュースや映像では得られません。
宇宙に行ったときの自分の感情を知りたいですね。
今後はリーマントラベラーとしての活動を通して「サラリーマンでも生き方は選べる」ことを伝えていきたいです。
日本社会はまだまだ、サラリーマンを「やらされている」人が多いと感じています。
受け身ではなく、サラリーマンを「やる」と決めて動くだけでも、人生は変わるんです。
実際、僕はサラリーマンになって世界1周旅行をしました。
比較的時間のある学生時代の世界1周旅行とは違い、スケジュール調整も大変です。
でも、サラリーマンの僕が旅行することで、「私でも出来るかもしれない」とサラリーマンのモチベーションを上げる手助けをしたいんです。
誰に言われたわけでもなく、勝手な使命感を持ってやっていますね。
キューバの人たちよりも選択肢が多い日本人が「自分らしく人生を楽しむこと」が出来ないことないと思います。今後も広くいろんなことを発信して、より多くの人に多様な生き方の選択肢を知ってもらいたいです。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年3月)のものです